中国製の自動車が、かつてない勢いで世界市場を席巻しています。しかし、その華々しい販売実績の裏側では、シャーシのサビ、航続距離の低下、アフターサービスの不備といった不満が相次ぎ、安全面への懸念と信頼危機が静かに広がっています。
今年最初の4か月間、中国の自動車輸出台数は312万7000台に達し、前年同期比61.5%増となりました。ヨーロッパの街角から中南米の都市まで、中国ブランドは低価格と先進的なイメージを武器に、世界の主要市場への浸透を加速させています。
イギリスでは今年3月の新車登録台数に占める中国ブランドの割合が、前年同期の7.4%から15%へと急上昇しました。ドイツではBYDの第1四半期の登録台数が前年同期比644%増を記録しています。発展途上国ではその勢いはさらに顕著です。2026年最初の4か月間、中国製自動車はメキシコ市場で23%の販売シェアを獲得しました。ブラジルに建設されたBYDの生産拠点もすでに稼働を開始し、累計5万台以上が生産されています。4月単月の販売台数は1万5000台に達しました。
しかし販売台数が急増する一方で、さまざまな問題も表面化し始めています。ヨーロッパから新興市場まで、不満の声が広がっています。
ドイツやイギリスなどの成熟市場では、中国ブランドは「製品そのものは評価されているが、ブランドへの信頼はまだ十分に確立されていない」という難しい立場に置かれています。ドイツのテクノロジーコンサルティング会社Viable.works(ヴァイアブル・ワークス)のCEO、ベネディクト・ショーンラウは次のように指摘しています。「ドイツの消費者は自動車を長期的な投資と考えており、1台を5年から10年使うことが一般的だ。一方、中国の新エネルギー車は平均すると1年ほどでモデルチェンジが行われるため、その更新ペースと消費者意識の間には根本的なギャップがある」
より直接的な問題として、道路環境や気候への適応力が挙げられています。速度制限のないドイツの高速道路では、中国製EVの電力消費が大幅に増え、航続距離が大きく低下するケースがあります。また、ロシアや北欧では冬季に大量の融雪剤が使用されるため、シャーシの防錆性能が重要になりますが、一部の中国車ではサビの発生が相次いでいるといいます。中米沿岸部や砂浜周辺の使用環境も、中国メーカーが想定していた条件を超えています。メキシコでは坂道が多く道路状況も悪いため、駆動性能や異音対策に高いレベルが求められますが、中国車は十分に対応できていないとして利用者から不満の声が上がっています。
さらに問題を深刻化させているのが、脆弱なアフターサービス体制です。経営コンサルティング会社ローランド・ベルガーでアジア地域の自動車事業を担当する鄭贇(ていがい)は、多くの中国自動車メーカーが海外で統一性のない販売代理店ネットワークに依存していると指摘しています。その結果、部品供給の遅れ、サービス品質のばらつき、技術力不足などが利用者からの苦情につながっています。また、品質基準の統一が十分でないことも、将来的なブランド評価に悪影響を与える可能性があります。
SNS上では自動車系ブロガーによる告発も相次ぎ、ブランドイメージの悪化に拍車をかけています。
「シャーシが2年でサビによって穴が開いた」
「アフターサービスが機能していない」
「交換部品の供給が止まった」
こうした問題が次々と動画で取り上げられています。
あるネットユーザーは「新エネルギー車が軽く接触しただけなのに、部品が大量に落下した」と投稿しました。また別の利用者は、車の少ない道路で中国製新エネルギー車の自動運転機能を試したところ、「重大事故になりかけた」と証言しています。
品質問題に加え、中国のEV市場では昨年、さらに深刻な問題も発覚しました。一部メーカーが「ゼロキロ中古車」を利用して販売台数を水増ししていたとの疑惑です。ゼロキロ中古車とは、すでに登録やナンバー取得が完了しているにもかかわらず、実際にはほとんど走行していない車両を指します。走行距離はほぼゼロで、通常は割安な価格で中古車市場に流通します。こうした車両は販売統計上では新車販売として計上されますが、実際には一般消費者の手には渡っていません。つまり、実際の需要不足を隠すための数字上の操作だと指摘されているのです。
業界関係者の試算では、2025年の中国におけるゼロキロ中古車の規模は最大で100万台に達する可能性があり、その深刻さに衝撃が広がっています。中国メディア『経済観察報』は業界団体関係者の話として、中国から輸出される新エネルギー中古車の90%以上がゼロキロ中古車に該当すると報じています。こうした販売実績の水増しは、業界全体の信頼性に大きな影を落としています。
専門家は、これらの問題は決して偶然ではなく、中国自動車メーカーが世界進出を進める中で直面している構造的な課題が一気に表面化したものだと指摘しています。米サウスカロライナ大学アイケン経営大学院の謝田教授は、中国のEV産業は参入障壁が比較的低いため、多くの企業が短期間で市場に参入したものの、品質管理や製品検証、サービス体制の整備が十分ではなかったと分析しています。
安全性への懸念は、すでに国防分野にまで広がっています。イスラエル軍は最近、BYD車両の使用停止を決定しました。同時にイスラエル国防省は、中国製自動車に搭載されたセンサーやデータシステムが情報漏えいのリスクを抱えている可能性があるとして、軍関係者に警戒を呼びかけています。この出来事は、中国車をめぐる議論が、単なる品質問題から国家安全保障上の問題へと発展しつつあることを示しています。
台湾の南華大学で国際関係および企業学を専門とする孫国祥教授は、研究開発の観点から次のように指摘しています。「中国の自動車メーカーには、海外の過酷な環境や高負荷な使用条件に対応するための長期耐久試験や環境適応テストが不足している」
中国車の輸出が加速する一方で、世界各国の貿易政策も徐々に厳しくなっています。米国は引き続き中国製品に高関税を課しており、米通商代表部のジェイミソン・グリア代表は、中国の政治・経済体制は根本的には変わらないとの認識を示しました。そのうえで、米国は今後も「管理型貿易」を進め、高関税政策を長期的に維持する方針だと述べています。こうした貿易障壁の強化によって、中国車がこれまで頼りにしてきた価格競争力も徐々に削られつつあります。
謝田教授は、一部の中国企業は市場競争によって安定した利益を得ているのではなく、政府補助金や政策支援に依存しているため、品質向上や長期的な投資に十分な意欲を持ちにくいと指摘しています。
孫国祥教授は、この問題の本質を次のように語っています。「今後、中国車の輸出における最大の課題は販売台数ではなく、信頼です」。彼は、「中国車は品質が低く保証も不十分だというイメージが海外市場で定着してしまえば、中国メーカーは今後も利益の薄い低価格市場での消耗戦から抜け出せず、世界の自動車産業の中で本来得られるはずの地位を確立することも難しくなるだろう」と警告しています。
低価格という強みや最新技術への新鮮さは、いずれ薄れていきます。本当に問われるのは、その先です。品質保証体制を確立し、世界規模のアフターサービス網を整備し、消費者からの信頼を取り戻せるのか。その答えこそが、中国自動車産業の世界進出がどこまで続くのかを左右することになるのです。
(翻訳・藍彧)
