フリージャーナリスト兼サイバーセキュリティ研究者であるオランダ人のマルク・ホーファー(Marc Hofer)氏は、中国のあるネットワーク管理画面で「記者ファイル検索」というタブをクリックした際、見覚えのある顔写真が次々と表示されたと明かしている。
それは、2021年前後に北京へ駐在していた外国人記者全員の名簿を含むデータベースだった。出入国管理局で撮影された公式パスポート写真をはじめ、個人の携帯電話番号、ビザ情報、生年月日などが詳細に記録されていたという。この中国警察の監視リストには、ホーファー氏自身の正確な個人情報も含まれており、同氏は「背筋が凍る思いがした」と振り返っている。
2026年5月19日、ホーファー氏は調査報道記事を公開した。同氏によると、2022年北京冬季オリンピックの開催地の一つである張家口市の公安局が使用していた、外国人遠隔追跡システムのデモ版を独自入手したという。
記事によれば、このシステムは、リアルタイムデータとの完全な連携には至っていないテスト用パネルにすぎない。しかし、そこに含まれていた実際のデータセットは、中国が近年推進してきた「データ融合型監視システム」の構想を具体的に示していたという。
中国は長年にわたり、「雪亮工程」と呼ばれる世界最大規模の監視カメラネットワークを構築してきた。ホーファー氏は、真に警戒すべきなのは個々の監視装置ではなく、「データ統合能力」にあると指摘している。
このシステムは、「可能な限り多くのセンサーから得られるデータをリアルタイムで処理」し、個人の位置情報、社会的関係、移動経路、消費習慣などを統合した、いわゆる「ホログラフィック・プロファイル(holographic profile)」(立体的な人物像)を作成できるという。
記事によると、このシステムは単に「どこに現れたか」を記録するだけではない。対象者が高速鉄道で到着した際の車両番号や座席番号まで正確に記録し、スキー場の顔認証ゲートを通過した際の写真も、リアルタイムで追跡システムに同期されていたという。
また、ホーファー氏の友人が以前、張家口へスキーに行った際の行動履歴も、このシステムによって詳細に把握され、一連の移動経路がリスト化されていたという。さらに、ガソリンスタンドでの給油頻度や買い物履歴、さらには「冤罪陳情エリア」への出入りの有無といった情報まで記録されていたとしている。
ホーファー氏は、このような監視はすでに「治安維持」の範囲を超え、予測型ガバナンスの段階に入っていると指摘している。報道によれば、このシステムの設計目的は、「包括的な人物プロファイル」を構築し、異なるデータベース間のクロス分析によって、「異常行動」や「高リスク人物」を特定することにあるという。
公開された管理画面では、一部の人物に対して「重要人物」「薬物関与」「高リスク」といった分類ラベルが直接付与されていることも確認された。
また、一部の外国人記者に対しては、「軌跡」と呼ばれる特殊なリアルタイム追跡機能が適用されていた。対象者が管轄区域に入ると、システムが自動的に警察へ通知を送る仕組みだという。
かつて外国人記者は、新疆などで取材する際、路地裏を利用して尾行する私服警官を振り切ることもあった。しかし現在では、こうした「追いかけっこ」は、高度化した警察システムの前では意味を失いつつある。
ホーファー氏は、「当局は記者の行動を事前に予測し、到着時には見せたいものだけを見せることが可能になっている」と指摘する。さらに、システムは記者が特定人物と接触したことを感知すると、裏側から直接電話をかけ、対象者を威圧することさえあるという。そのため、「政府の監視を避けながら調査を進めることは、極めて困難になった」と述べている。
一方、民主主義国家においても、監視技術の乱用をめぐる議論は存在する。しかし、ホーファー氏は、「民主主義国家には少なくとも権力のチェック・アンド・バランスや公開討論の仕組みがある。一方、中国では国家安全保障を理由に、警察や国家安全機関がほぼ制約なく行動できる」と指摘している。
記事の中で特に注目される点として、一部の試作システムが米国のサーバー上に配置されていたことも挙げられている。ホーファー氏は、中国の開発者や外注チームがテスト段階で残した公開ネットワークへの入り口である可能性や、学生コンテストやビジネスデモ用プロジェクトの残骸である可能性があると推測している。
こうした管理上の不備によって、外部から中国のデジタル監視システムの内部構造を垣間見ることができた。同記事は、「こうした忘れ去られたバックエンドこそが、中国の監視体制を理解するための最も透明性の高い窓口となっている」と指摘している。
ホーファー氏の調査は、形成されつつある監視システムの実態を浮き彫りにしている。それは、人々の移動経路、消費習慣、社会的関係、さらには日常行動に至るまで、あらゆる情報を一つの画面に統合しようとする試みだ。
最後に、ホーファー氏は次のように記している。
「このシステムにおいて、人間は数字やパターン、ベクトル演算へと単純化され、意のままに制御され、形作られ、脅迫されることのできる『データ化された身体』へと変貌してしまった。」
(翻訳・文遠)

