現在、中国の複数の地域で新型口蹄疫の感染が相次いで発生しており、これまでに新疆ウイグル自治区、甘粛省、貴州省、山西省、内モンゴル自治区など、少なくとも12の省や自治区に広がっています。中国農業農村部および現地メディアの報道によると、今回確認されたのは南アフリカ1型(SAT1)の口蹄疫であり、同株が中国国内で大規模に感染拡大するのは今回が初めてとなります。広大な農牧地帯に急速に広がっただけでなく、中国の畜産業および関連サプライチェーン全体に深刻な打撃を与えています。

 主にアフリカ大陸で流行してきた南アフリカ1型が、どのようにして厳重な検疫をすり抜け、中国国内に侵入したのかは現在も明らかになっていません。専門家や防疫当局は、国境付近での安価な冷凍肉の密輸、生きた動物の違法取引、あるいはウイルスに汚染された輸入農産物などが侵入経路になった可能性が高いとみています。このウイルスの侵入と急速な感染拡大は、越境性の感染症リスクに対する中国の監視体制に、依然として死角や抜け穴が存在していることを浮き彫りにしました。

 感染源の特定以上に懸念されているのが、現在中国国内でこのウイルス株に対するワクチンが事実上存在しないという点です。これまで中国の口蹄疫対策は主にO型とA型に重点が置かれており、南アフリカ1型に対する技術的、生産的な備えはほとんどありませんでした。新ワクチンの開発から承認、実用化に至るまでには長い期間を要します。有効なワクチンがない中、空気や水源、車両など複数の経路を通じて急速に感染が広がり、発症率は最大80%に達するとされています。感染した家畜は40度以上の高熱を出し、口や蹄が潰瘍化するほか、蹄の殻が脱落することもあります。特に幼畜は心筋炎を併発して突然死するケースが多く、死亡率は50%以上に上ります。さらに厄介なのは、羊が感染した場合、症状が軽微であるか無症状のまま、長期にわたってウイルスを排出し続ける点です。この特徴は中国国内で一般的なO型の症状と酷似しており、現場での発見が遅れ、水面下での感染拡大を招く要因となっています。

 感染の拡大を受け、各地方政府は迅速に厳格な措置を講じ、最高レベルの警戒態勢を敷きました。感染が確認された新疆ウイグル自治区伊寧県(飼育数513頭、発症142頭)や甘粛省古浪県(飼育数5716頭、発症77頭)の農場などでは、地域の封鎖、同じ群れの家畜の殺処分と無害化処理、および徹底的な消毒作業が実施されています。しかし、村や道路の封鎖、家畜の移動制限といった厳格な措置は、発生地だけでなく畜産サプライチェーン全体に急速に波及し、深刻な経済的混乱を引き起こしています。

 この混乱は、単に家畜が売れないという問題にとどまらず、畜産業の川上から川下に至るサプライチェーン全体の機能停止を意味しています。物流が滞る中、飼料の搬入や家畜の出荷ができなくなり、各地の食肉加工工場は処理する家畜が確保できず操業停止を余儀なくされています。同時に、感染した乳牛の乳量が80%以上減少することから、一部地域では生乳の供給にも支障が出始めており、原乳市場の変動は徐々に乳製品メーカーなどにも波及しつつあります。そして、最も過酷な状況に直面しているのが現地の畜産農家です。多くの地域で家畜取引市場が閉鎖され、他省からの買い手が姿を消したことで、高品質な牛であっても買い手がつかない状態が続いています。収入が絶たれる一方で、毎日の飼料代はかかり続け、さらに銀行ローンの返済が重なることで、多くの中小農家の資金繰りは破綻の危機に瀕しています。

 こうした経済的損失と生活苦から精神的に追い詰められ、違法行為に走る農家も現れ始めており、これが公衆衛生上の深刻な脅威を引き起こす原因となっています。損失を少しでも埋めようと、感染した家畜を密かに解体し、市場に流通させる事件が後を絶ちません。過去にも、2022年に甘粛省のある農家が病畜を違法に解体したことで周辺の10の農場が連鎖的に封鎖され、1000万元を超える直接的な経済損失が発生した事例があります。さらに問題なのは、検疫を経ていない肉の消費が、人々の健康を直接脅かすという点です。2023年には、江蘇省で違法に解体された羊肉を食べた一家3人が集団で下痢を起こし、残った肉から口蹄疫ウイルスとリステリア菌が検出されています。2024年には、山東省の農家が発症した豚を自ら解体して食べ、夫婦が高熱を出したほか、息子が急性心筋炎で入院する事態となりました。その後の調査で、この豚はサーコウイルスにも感染していたことが判明しています。直近の2025年にも、河南省で農家が病牛を安価で密売し、それを食べた周辺の住民12人が健康被害を訴える事態が起きています。

 このような食品安全を脅かす事件の続発は、SNS上で市場の肉は安全なのか、肉を食べたら感染するのではないかといった消費者の不安を急速に広げています。長引く経済的な課題を背景に、今回の新型口蹄疫の発生は、市民の生活不安にさらなる追い打ちをかけています。インターネット上ではまた苦しい日々がやってくるといった嘆きや、コロナ禍の次は家畜の感染症かといった声が見受けられ、人々の不安は食卓の安全にとどまらず、物価上昇や生活そのものに対する深い懸念へと広がっています。今回の感染拡大は、中国の動物防疫体制やワクチン開発能力に対する厳しい試練であると同時に、サプライチェーンの強靭さや、地方における行政の危機管理能力が問われる事態となっています。

(翻訳・吉原木子)