5月中旬、世界保健機関(WHO)は、コンゴ民主共和国で発生した新たなエボラ出血熱の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると発表しました。これまで世界的な警戒を招いてきた「ザイール型エボラウイルス」とは異なり、今回コンゴ民主共和国北東部で拡大しているのは、長年大規模流行が確認されておらず、現時点で十分なワクチンも確立されていない「ブンディブギョ型エボラウイルス」です。しかも感染が広がっている地域は、長年武装衝突が続く不安定地帯でした。国際社会が正式に感染を確認する前の段階で、すでに約2か月にわたり水面下で感染が広がっていたとみられており、世界的な拡散リスクへの懸念が高まっています。
WHOが公表したデータによると、5月20日時点で、コンゴ民主共和国と隣国ウガンダでは、すでに数百件の疑い症例が確認され、死者も100人を超えています。感染が最初に確認されたイトゥリ州や北キヴ州は、長年戦乱が続く地域で、医療体制は極めて脆弱です。そのため、多くの感染者が初期段階では見逃されていました。最終的に、検体が首都キンシャサの研究機関へ送られて検査されたことで、ようやくウイルスの種類が正式に確認されたのです。
今回、中国国内でも大きな関心が集まっている理由の一つが、コンゴ民主共和国と中国との非常に深い鉱業経済の結び付きです。
コンゴ民主共和国は、世界の新エネルギー産業チェーンにおいて欠かせない戦略的要衝となっています。電気自動車、スマートフォン、高性能半導体などに必要不可欠なコバルトは、世界生産量の80%以上をこの国が占めています。そして、その大部分を中国企業が実質的に支配しているのです。
公開資料によれば、中国企業によるコンゴ民主共和国への鉱業投資は近年急拡大しています。洛陽モリブデン、紫金鉱業、華友コバルトといった中国大手鉱業企業はいずれも現地で重要な鉱山や製錬プロジェクトを保有しています。さらに、大手国有企業や上場企業だけでなく、中国各地から来た個人採掘者、鉱石ブローカー、一攫千金を狙う「淘金者」も大量に現地で活動しています。
一部の研究機関や華人商工会の推計では、現在コンゴ民主共和国で長期滞在し、鉱業や商業活動に従事している中国人は数万人規模に達する可能性があるとされています。その多くは比較的安定している南部の鉱山都市コルウェジやルブンバシに集中していますが、北東部の戦乱地域にも、多数の個人採掘者や小規模鉱山経営者が今なお入り込んでいます。
特にイトゥリ州や北キヴ州では、中国人鉱夫の中には奥地の鉱山地帯に深く入り込み、現地労働者と長期間共同生活を送りながら採掘を行っているケースも少なくありません。こうした鉱山地区は衛生環境が非常に悪く、人の出入りも激しい状態です。エボラウイルスは主に体液を通じて感染するため、一度感染者が出れば、宿舎や簡易作業小屋などで一気に感染が広がる危険があります。
さらに懸念されているのが、「ブンディブギョ型エボラ」の症状の分かりにくさです。医学資料によると、このウイルスの潜伏期間は最長21日にも及び、初期症状は発熱、頭痛、倦怠感など、インフルエンザに似た症状しか現れません。そのため、感染初期に見抜くことが難しいのです。致死率70%を超える従来型エボラに比べると、ブンディブギョ型は死亡率こそ低いものの、患者がより長く活動できてしまうため、逆に広域感染リスクを高める可能性があると指摘されています。
アフリカへの労働移動問題を長年研究している専門家たちは、正式な感染公表前の数週間の間に、すでに一部の中国人労働者が鉱山地帯を離れていた可能性を指摘しています。しかも、こうした個人採掘者の中には、ビザが不完全なまま活動している人も少なくなく、長年グレーなルートで移動してきたケースも多いため、帰国経路そのものが不透明なのです。
過去十数年間、中国メディアや学術界では、「広西チワン族自治区の上林(じょうりん)県出身の採掘者グループ」など、中国系民間採掘グループが西アフリカや中部アフリカで活動している実態がたびたび報じられてきました。これらの集団は主に広西や湖南出身者で構成され、民間ルートを使ってアフリカの鉱山地帯へ流入しています。一部の戦乱地域では、正規の航空網や出入国管理体制が整っていないため、陸路で周辺国へ移動し、そこから複数回の乗り継ぎを経てアジアへ戻るケースも珍しくありません。
公衆衛生関連の研究論文でも、アフリカ由来のマラリアなど輸入感染症において、「移動履歴の断絶」が問題視されてきました。一部の労働者は、区間ごとに別々の航空券を購入し、複数国を経由して中国へ戻るケースがあります。例えば、まずアフリカからドバイへ移動し、その後クアラルンプールやバンコクなど東南アジアの都市を経由して中国へ入国するという流れです。こうした移動方法は、感染追跡をさらに難しくすると見られています。
現在、中国税関総署は防疫公告を出し、コンゴ民主共和国やウガンダなど感染地域からの入国者に対する検疫と健康申告を強化しています。しかし、エボラには長い潜伏期間が存在するうえ、一部の人々はアフリカから直接入国するわけではないため、感染持ち込みリスクへの警戒は続いています。
公衆衛生の専門家は、「本当に警戒すべきなのは、ウイルスそのものよりも、初期の誤診や情報伝達の遅れだ」と指摘しています。エボラの初期症状は、マラリア、デング熱、インフルエンザなどと非常によく似ています。もし患者本人がアフリカ滞在歴を申告しなければ、地域の医療機関では見抜けない可能性もあります。
また、中国では過去にもアフリカ由来の感染症が持ち込まれた前例があります。近年、中国各地では輸入性マラリアやエムポックスの感染例が確認されており、中には初期症状が典型的でなかったため、診断が遅れたケースもありました。そのため、一部の医療関係者は、アフリカから帰国する人々への健康監視をさらに強化するとともに、地域医療機関の輸入感染症への識別能力向上が必要だと訴えています。
現時点で、中国政府は国内でのエボラ感染確認例は出ていないと説明しています。しかし、世界的な人の移動が回復し、中国とアフリカの経済的結び付きがさらに深まる中で、経済交流を維持しながら公衆衛生リスクをどう防ぐのかが、現実的な課題となっています。
コンゴ民主共和国北東部の鉱山地帯では、今も鉱山が稼働を続け、金やコバルトが掘り出され続けています。その一方で、ウイルスもまた、密林、村、鉱山地帯の間を静かに広がり続けています。高度にグローバル化したサプライチェーンに依存する世界にとって、この感染拡大がもたらす影響は、単なる地域的な公衆衛生危機では終わらないのかもしれません。
(翻訳・藍彧)
