中国で旧正月を迎える時期になると、お年玉として現金を包む習慣があります。ところが2月16日、除夕の夜に、四大国有銀行の複数地域の支店やATMで、現金が引き出せないという情報がネット上で広がりました。必要な時にお金が出せず、ネット上では不満と怒りの声が噴き出しています。

 山西省では、あるネットユーザーが5つの銀行を回っても、現金を口座に預け入れようとしても受け付けてもらえなかったと訴えています。

 ATMの画面には、現金は引き出せないが、入金はできるという表示が出ていたといいます。

 除夕の夜に、少し現金を下ろしてお年玉を用意しようとしたところ、農業銀行や建設銀行をいくつか回っても引き出せなかった。最後は郵政貯蓄銀行でようやく下ろせた、という投稿も出ています。

 中国の旧正月は本来、家族団らん、お年玉を渡し合い、街も家も晴れやかな空気に包まれる時期です。ところが今年の2月16日、除夕の夜に、各地で現金が引き出しにくいという話が相次ぎ、祝祭ムードに水を差しました。ネットに出回った動画やSNSの投稿によると、中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行という四大国有銀行で、地域によっては支店やATMで現金が切れていて引き出せない状態が起きたとされ、国民の間に疑問と不満が広がっています。

 よりによって、1年でいちばん大事にされる旧正月のタイミングで起きたことの意味は小さくありません。お年玉は単なるお金ではなく、家族のつながりや祝福を形にする習慣です。現金供給に乱れが生じれば、平時以上に人々の心理に響きます。社会の安心感や、金融への信頼そのものに触れてしまうからです。

 複数地域のネットユーザーの投稿を総合すると、2月16日当日、いくつもの都市でATMに「入金のみ可能」や「現在、現金なし」といった表示が出たといいます。何軒も銀行を回ったのに引き出せなかったという人もいて、中には「10か所の窓口を回っても結局ダメだった」と訴える声もありました。窓口でも、並んだのに現金を下ろせないケースが出たとされています。

 投稿された動画では、利用者が苛立ちをあらわにし「銀行同士で示し合わせていたのでは」と疑う場面も見られます。別の利用者は、旧正月は現金需要がピークなのに、肝心のタイミングで銀行が機能しないのは納得できないと不満を口にしていました。

 需要の側から見ると、中国ではモバイル決済が極めて普及していますが、旧正月だけは今でも現金への依存がはっきり残っています。子どもに渡すお年玉は紙幣が基本ですし、地方や伝統的な市場では現金取引が好まれがちです。高齢層は電子決済に慣れていない人も少なくありません。さらに、赤い封筒(紅包)は手渡しする儀式感そのものが大事だと考える人も多いです。そのため、除夕に現金が足りないとなれば、それが単なる調整ミスなのか、一部地域の不足なのかに関わらず、感情面では一気に大きな問題として受け止められ、すぐに社会的な話題になっていきます。

 現場動画では、銀行のロビーで利用者同士が声を掛け合う様子も映っていました。「現金2000円分ぐらい持ってる人いない?同じ額をすぐ携帯で振り込むから」と頼む人がいます。「500円分だけでも替えてくれない?今すぐスマホで送金する」と列の中で呼びかける人もいました。さらに、親族のグループや地域のコミュニティチャットに「お年玉を渡したいから現金1000円分が急ぎで必要。同額を振り込むのでお願い」と投稿する人もいたといいます。

 一部の支店やATMで現金不足が発生する中、臨時の民間ルートが急速に現れました。それは預金者による自発的な現金交換です。

 現金交換の具体的なやり方は次のようになっています。現金が必要な人が、スマホの銀行アプリや決済アプリで、その場で現金を持っている人に送金します。現金を持っている側は着金を確認したうえで、同額の紙幣を相手に手渡します。やり取りは銀行のロビーやATMの近くで行われることが多く、互いに不安を減らすためでもあります。こうした「オンラインで送金して、現金は現場で渡す」という形は、ある意味で小さな民間の決済手段のようなものになっていました。

 地方の小さな支店では、さらに「その場で仲介する」ような動きも見られたといいます。片方は口座残高があるのに現金がありません。もう片方は現金は持っているが、電子マネーの残高が欲しいのです。そこで、双方がその場で条件を合わせ、等価交換します。銀行が本来担うはずの役割を、利用者同士が一時的に補っているような光景です。

 さらに、三者で回す交換まで出てきました。AがBに送金し、BがCに現金を渡し、Cが今度はAに送金して一周させます。こうして帳尻を合わせ、最後に全員が欲しい形のお金を手に入れるというやり方です。

 公表されている報道によると、2025年12月8日までの時点で、その年に合併や解散によって登録を抹消した銀行は377行にのぼり、前年より大きく増えたとされます。さらに、年間で営業を終えた銀行の拠点は9661か所で、前年からの増加幅は200%を超えたというデータもあります。打撃が大きかったのは農村商業銀行や村鎮銀行で、国有大手銀行でも約1000の支店が姿を消したとされ、銀行の窓口そのものが目に見えて縮んでいる流れがうかがえます。

 銀行システムの安定を支える中心は、結局のところ信用です。旧正月のような需要のピークに、現金が引き出せない場面にぶつかれば、それが一部の地域や短期の出来事であっても、人はすぐに「資金は回っているのか」「仕組みは本当に頼れるのか」と疑い始めます。

 今回の騒ぎでも、「倒産するのじゃないのか」と口にする人がいました。これは特定の支店に対する怒りというより、環境全体に対する不安感を反映しています。
金融の安定は数字だけの問題ではなく、人の気持ちの問題です。銀行のロビーで人々が自発的に現金を融通し合う光景は、助け合いの温かさであると同時に、制度がスムーズに回っていない現実を映す縮図でもありました。

 窓口の前で焦って列を作り、ATMには「現在、現金なし」の表示。そうしてロビーでは、知らない人同士が送金して紙幣を交換する。こうした一連の映像が組み合わさって、今の時代を象徴する場面になっています。デジタル金融がここまで発達した社会なのに、肝心の節目では、最後は結局いちばん原始的な現金のやり取りに戻ってしまう。そのギャップが、強烈に浮かび上がった出来事でした。

(翻訳・藍彧)