中共当局は近年、国民の海外渡航を継続的に制限してきましたが、最近になって中国が事実上“鎖国状態”へ向かい、全国的にパスポートを回収し始めているとの情報が広がっています。新規取得は極めて困難となり、既に所持している人でさえ没収されるケースが相次いでいます。理由を尋ねても、当局が返すのは「規定です」という一言だけだといいます。

 市民らの証言をまとめた動画によれば、中国ではいま、明確な法的根拠も説明もないまま、数百万人規模でパスポートの提出が強制されており、教師や銀行職員、さらには退職者まで幅広い層が対象にされています。多くの人々は突然呼び出され、「提出しろ」と命じられるだけで、その背景や条文の提示は一切ありません。当局が問題視している“理由”は、ただ海外に行きたいという意思があるというだけです。

 ある女性は、海外から帰国した当日に係員に呼び止められ、パスポートの提出を強制されたと訴えています。理由を尋ねると「規定だからです」と冷たく言い放たれたといい、彼女が投稿した怒りの声はSNSで急速に拡散し、数十万件の反応を呼びました。同様の経験を語る声も少なくありません。

 かつては単なる旅行証だったパスポートが、今では国民管理の手段に変わりつつあるとの指摘もあります。内部関係者によれば、2024年以降、「国家安全」を名目としたパスポート回収の通達が各地に出され、とくに失業者や退職者が「海外に出る可能性がある」とみなされて重点的に対象にされているといいます。

 12月3日に投稿された別の動画では、「パスポートを取りたいなら急いだほうがいい。多くの地域では、渡航先からの正式な招へい書類がないと受け付けてもらえなくなっている」と警告する女性の姿が映されていました。国民に認められているはずのパスポート取得は、省によっては著しく難しくなり、すでに取り上げられた例も報告されています。

 ある男性は「この数日ずっと申請しているのに、まったく発給されない」と嘆き、別の男性も「出国したいのにパスポートを作ってくれない」と不満を漏らしました。「パスポートすら作らせないなんて、本当にひどすぎる!」という怒りの声も上がっています。

 さらに出国審査そのものも、以前と比べてはるかに厳格化されています。空港で引き返させられる人や、荷物や携帯電話の中身を徹底的に調べられる人が増え、少しでも“当局にとって不都合なもの”が見つかれば、その場でパスポートやビザが無効にされるケースもあるといいます。

 動画のコメント欄には、「中国は世界から孤立しつつあり、鎖国化は当然の帰結だ」との声や、「本当の理由は、世界がもはや中共を相手にしなくなったということ。排除されたのに、自分から距離を置いたかのように装っているだけだ」と皮肉る意見も寄せられていました。

 実際、中共当局はコロナ後に国境を再開した2023年以降も、公務員や国有企業の職員に対して出国規制を一段と強化しています。ロイター通信は2023年、現職や元職を含む複数の関係者への取材をもとに、2021年以降、出国禁止や出国回数の制限、煩雑な承認手続き、出発前の保密教育など、さまざまな規制が厳しくなったと報じました。

 人の移動だけではありません。資金の海外移動にも強い制限が加えられています。中国当局が最近発表した新たな厳格規制では、2026年1月1日以降、5,000元(または1,000米ドル相当)を超える海外送金には、送金者の身元確認が義務付けられることになりました。ネット上では「中共は資金繰りに行き詰まり、国民のお金はもはや国民のものではなくなった」と批判が相次いでいます。

 中国当局が出国を厳格に管理する背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。まず、政治的安定を最優先する現体制にとって、国民が自由に海外へ行き、外部の情報や価値観に触れることは、予測できないリスクを生みやすいと考えられています。加えて、景気減速や外貨不足が深刻化する中、資産や人材の海外流出を防ぐことも急務となっています。最近では、公務員や国有企業の職員など内部情報を持つ層が海外に逃れる可能性が懸念され、彼らへの出国規制が特に強まっています。

 また、社会不安が高まるにつれ、国内で発生した問題が海外メディアに直接伝わることを当局は嫌い、個人の渡航を抑えることで情報の外部流出を防ごうとする動きも見られます。さらには、人口減少や若者の移民志向を背景に、「人」そのものを国家資源として国内に留めておきたいという思惑も働いています。こうした要因が重なり、現在の中国では国境管理の強化が一つの“統治モデル”として定着しつつあります。

 中国問題研究者の王赫氏は、パスポート管理の強化について「中共が危機感を覚えるほど統制を強めるが、それがかえって状況悪化を招く」と指摘しています。いまや一般市民だけでなく中共内部の官僚の間にも深刻な停滞感が広がり、政権がいつ崩壊してもおかしくないとの認識が共有されつつあるため、「共産党と運命をともにしたくない」という気持ちが強まっているということです。

(翻訳・吉原木子)