先日、浙江省で旅客列車同士の衝突事故が発生し、乗客が車内におよそ3時間閉じ込められ、換気もままならない状況となりました。事故の混乱と車内の酷暑、さらに体調を崩す乗客が相次いだことを受け、ある男性乗客が非常用ハンマーを使って窓ガラスを割り、自身を含む乗客たちを救おうとしました。しかしこの行為を理由に、男性は警察に連行され、「批判教育」を受ける事態となっています。「窓を割る行為は正しかったのか」という議論は中国のネット上で大きな関心を集め、当局の発表も繰り返し疑問視されています。
7月5日、中国共産党系の鉄道広州局集団長沙客運段は公式ウェイボーを通じ、K1373次列車が浙江省金華市の東孝駅で立ち往生した件について説明を公表しました。発表によると、7月2日の夜、K1373次列車は走行中の貨物列車と側面衝突し、東孝駅で停止を余儀なくされました。事故現場は線路両側にホームがなく、列車のドアは地面から1.5メートル以上の高さにあったうえ、夜間で周囲に照明もなかったことから、ドアを開放すると乗客が転落する危険があるといいます。車内は蒸し暑い状態だったものの、当局は直ちにドアを開けたり窓を割ったりするほどの緊急性はなかったと説明しています。
しかしこの最中、黒い服を着た若い男性乗客が車内に備え付けられた非常用ハンマーを取り外し、窓ガラスを割る行動に出ました。ネット上に投稿された複数の動画には、事故の影響で車内の空調が停止し、乗客たちが汗で全身を濡らしながら息苦しそうにしている様子が映っています。多くの乗客が呼吸困難やめまいを訴え、乗客の一人は「こんなに人がいて、本当に耐えられない。頭がクラクラする」と語っています。
男性はまず車掌に対し、乗客を外へ出して空気を入れ替えるよう強く求め、「私たちを外に出してくれないなら、ガラスを割るしかない」と訴えました。しかし話し合いは平行線をたどり、やむを得ずハンマーで勢いよく窓ガラスを叩き割りました。車掌は制止を試みましたが、男性は力強く叩き続け、ついに窓に穴を開けました。この様子を見ていた別の乗客は、「いいぞ!英雄だ!英雄だ!」と大声で叫んでいました。
窓ガラスが割れた後、複数の鉄道警察官が車内に入り、職員が割れた窓を板でふさいで乗客が外へ出るのを防ぎました。また年配の乗客の一人は、別の窓も割って空気を通すよう警察に求めましたが、返事はなかったといいます。その後、列車が金華駅に到着すると、複数の鉄道職員が割られた窓の状況を確認し、黒い服の男性は警察に連行されました。
上海鉄道金華車務段は事故当夜、死傷者は出なかったものの、乗客に多大な迷惑をかけたことを深く謝罪する声明を発表しました。しかし、窓を割った男性が連行されたことが伝わると、中国のネット上では強い反発が広がりました。鉄道公安は7月3日、「男性を拘留したわけではなく、批判教育を行っただけだ」と説明しました。
多くのネットユーザーは、男性は称賛されるべきであり、批判されるのはおかしいと疑問を呈しています。「緊急事態で数百人の命がかかっている。密閉された空間では深刻な問題が起きかねない」との声も相次ぎました。
揚子晩報や大河報などの中国メディアによると、複数の乗客が「車内に3時間閉じ込められ、まったく空気が流れず、気温がどんどん上がり、強い窒息感を覚えた」と証言しています。また、一部の乗客からは、事故発生後に列車の緊急システムが作動しなかった、もしくは全く機能しなかったのではないかとの指摘も上がり、列車の緊急対応体制の不備が浮き彫りになりました。弁護士の中には「個人的には、この男性の行為は緊急避難に該当し、公物への賠償義務は発生しない」と指摘する声もあります。法律上、緊急避難とは、公共の利益や本人、または他人の生命や健康、財産などの権利が危険にさらされた場合、より大きな利益を守るため、やむを得ず小さな利益を損なう行為を指します。
7月5日に鉄道当局が改めて説明を発表したものの、多くのネットユーザーは疑念を拭えないままです。ある投稿者は、「乗務員全員、鉄道警察を含め責任を負うべきだ。3時間も乗客を閉じ込め、熱中症寸前の状況で、男性たちは上半身裸になっていたのに、乗務員はドアを開けようとしなかった。あの若者は乗務員に二度も訴えたがダメで、やむなく窓を割った。彼は本来、乗務員がやるべきことを代わりにやったのだ。怠慢だったのは誰なのか。なぜ若者だけが批判教育を受け、乗務員は処分されないのか」と批判しています。
また別の人は、「3時間も停車していたのに、車内の温度がどの程度上がれば緊急と判断するのか」と疑問を呈し、さらに「動画を見ると、多くの乗客の服が汗でびしょびしょだった。室温が31度という数字だけでは体感温度は表せない。空調もなく、乗客が密閉空間に押し込められ、換気も不十分なら酸素濃度も下がる。そんな状況を医学の知識もない乗務員や運転士が、常識だけで判断できるはずがない。一日中、当局は言い訳ばかりしている」と強い不満を示しています。
注目すべきは、2021年7月20日に鄭州市で発生した地下鉄5号線の浸水事故です。公式発表では死者14人、負傷者5人とされていますが、外部からはさらに多いのではないかとの疑念が根強く残っています。当時の生存者である王均(仮名)は、その後大紀元の取材に「自分はあの日、何とか助かったが、今も後悔が残っている。あのとき、もっと早く車窓を割っていれば、酸欠で亡くなった人たちを救えたかもしれない」と語っています。
(翻訳・吉原木子)