中国の高齢化が加速する中、いま奇妙な新ビジネスが急拡大しています。それは、お金を払って「息子や娘」を外注するというものです。家族の代わりとなる存在を求める高齢者が増える一方で、「家族をお金で買うのか」という倫理問題も議論を呼んでいます。

 国家の老後支援が追いつかない中国で、いま何が起きているのでしょうか。その実態に迫ります。中国民政部と全国老齢工作委員会が公表した『2024年度国家高齢者事業発展公報』によれば、2024年末時点で中国の60歳以上人口は3億1000万人を超え、総人口の22%以上を占めています。

 一人暮らしの高齢者が増えるなか、子どもが遠方で暮らす家庭も多く、日常生活のサポートに大きな空白が生まれています。こうした背景から、第三者が「子ども」や「親族」の役割を代わりに担うサービスが広がり始めました。

 話し相手になったり、外出や通院の付き添いをしたり、家庭内の問題を調整したりと、生活面を幅広く支える仕組みです。

 これが「代行息子・娘」と呼ばれているサービスです。

 「代行息子・娘」は法的な定義があるわけではなく、市場が自然に生み出したサービス形態です。要するに、本来は家族が担うはずの「親とのコミュニケーションや日常的な見守り」を、第三者へ有料で委ねる仕組みです。多くの高齢者が求めているのは専門的な介護ではなく、話し相手になってくれること、週に一度顔を見に来てもらうこと、通院の付き添い、生活管理、家庭内の調整役、銀行や年金などの手続きのサポート、さらには不当な扱いを受けた際の「後ろ盾」になってくれる存在です。こうした需要は、従来の介護職や家事サービスとは性質が大きく異なります。

 遼寧省大連市では、警備員が「代行息子・娘」へ転身するケースが象徴的な例として注目されています。

 『半島晨報』2024年6月の報道によると、警備や個人護衛を専門としていたチームが2024年3月に「代行息子・娘」事業へ転換し、わずか3か月で千人規模にまで拡大しました。警備出身のチームがこの分野に参入した背景には、多くの高齢者が「守られている感覚」を強く求めていることがあります。詐欺被害への恐れ、しつこい営業の勧誘、病院で順番を抜かされる不安、家庭内トラブルや財産争い、親族からの理不尽な扱いなど、さまざまな不安を抱える高齢者にとって、警備員の「安全で力強い」外見は精神的な安心につながります。独り暮らしの高齢者にとっては、単なる付き添いよりも「安全」のほうが重要になる場合もあります。

 報道によれば、同チームはボディーガードとしての経験を付き添いサービスに応用しています。メンバーは「息子」「娘」「甥」などの立場で定期的に高齢者を訪ね、日常的な見守りを担うだけでなく、必要に応じてトラブル時に前に出て守る役目も果たします。小規模から始まったサービスは短期間で急速に拡大し、1回あたりの料金はおおむね約1万円(500元)から約4万円(2000元)以上で、メンバーの中には月収が約20万円(1万元)を超える人もいるとされています。

 メディア関係者の分析では、このようなボディーガード出身チームが高齢者向けの「子ども役」サービスに参入できた理由は主に三つあります。

 第一に、見た目で伝わる「安心感」です。体格の大きいメンバーは高齢者や家族に強い印象を与え、人身や財産への不安を和らげます。

 第二に、実行力と規律の高さです。退役軍人や法律・警備の経験者は、コミュニケーション、仲裁、突発的なトラブルへの対処に強みがあります。

 第三に、商業的な信頼構築です。付き添いや見守りといった情緒的なケアと、安全確保という役割をセットで提供することで、家族の不安を解消しつつ、一定の社会的役割も果たす点が評価されています。

 中華網の報道によると、33歳の凱(カイ)さんは「代行息子・娘」を始める前、債権回収、電子タバコ販売、ボディーガードの副業など、さまざまな仕事を経験してきました。彼が最初に受けた依頼は、一人息子を亡くした高齢男性のものでした。凱さんとチームのメンバーは「義理の息子」あるいは「遠い親戚」という設定で老人の生活に関わり、買い物や散歩、囲碁、雑談などの日常に寄り添いました。ただ一度訪問して終わりではなく、継続的に足を運び、生活のペースを整え、気持ちを和らげ、「家庭の温かさ」を取り戻す手助けをしたといいます。

 中華網の報道では、子どもを持たない高齢女性が老人ホームで孤立していたケースが紹介されています。性格が内向的で家族の訪問もなかったため、同じ部屋の入居者から疎まれ、居心地が悪くなっていました。そこで家族がボディーガードチームに連絡し、メンバーが「遠縁の甥」として女性の生活に関わることになりました。彼らは定期的に訪問するだけでなく、老人ホーム側とも話し合い、特にトラブルの多い入居者を別の部屋へ移してもらうなど環境改善も支援しました。さらに、小さな贈り物を女性や他の入居者に持参することで、人間関係の緊張をほぐし、女性の精神的な負担や孤立感を和らげる効果があったといいます。

 吉林省の『新文化報』が2024年5月に伝えたところでは、長春市に住む68歳の陳さんは2019年に独り子を失い、長く落ち込んだ状態が続いていました。2023年からは33歳の「代行息子」である劉さんを雇い、週に一度の買い物の付き添い、月に2回の墓参り、祝日の食事を共にしています。陳さんは「息子を買おうとしているわけではない。ただ、気にかけてくれる人がいるように見えるだけで、日々の過ごし方が変わる」と語っています。

 『北青深一度』の報道によれば、このようなサービスを利用する年代はすでに50代から60代へと広がっています。彼らはまだ介護が必要な状態ではないものの、子どもが遠方で暮らしている、あるいは独身で身内がいないといった理由から、早い段階で情緒面や生活面の支えを求めるようになっています。

 53歳で独身の呉薇(ウーウェイ)さんもその一人です。呉さんの家族には高齢者が多いものの、若い世代は仕事などで手が回らず、彼女は2011年から「代行息子・娘」と呼ぶ若者たち7〜8人と長く交流を続けてきました。最初は依頼者とサービス提供者という関係でしたが、次第に家族のような結びつきに変わっていったといいます。呉さんは「彼らにはそれぞれ本当の親がいる。私はただ、そのついでに少し甘えさせてもらっているだけ。ちょうどWi-Fiを借りるような感覚だ」と語ります。

 「娘役」の若者が用事で外出する時には、呉さんが子どもの世話を手伝い、家に洗濯物が残っていれば代わりに洗って干してあげることもあります。自分が困った時には逆に「代行息子・娘」が助けてくれるなど、互いに支え合う関係になっています。

 一方で、「代行息子・娘」には大きな批判もあります。お金を払って子どもの役割を依頼することを「家族倫理のねじれ」と指摘するネットユーザーもいます。反対に「老人が子どもを『買っている』のではなく、社会が老人に他の選択肢を与えていないだけだ」と擁護する声もあります。

 北京大学の社会学者・顧教授は「代行息子・娘は高齢化問題の根本的な解決にはならず、あくまで空白を埋めているにすぎない。本当に重要なのは、国家レベルの高齢者支援システムや地域コミュニティのケア体制を整えることだ」と述べました。

(翻訳・藍彧)