中国では、電気自動車(EV)の修理費用が想定以上に高額になるケースが相次いでいます。車の下まわりを軽く擦っただけにもかかわらず、メーカー正規ディーラーでバッテリー全体の交換が必要と判断され、数十万円規模の修理費を提示された事例もあります。
こうしたケースは決して例外ではありません。中国のEVオーナーの間では、「車は買えても修理ができない」「充電で節約した分が、そのまま修理費に消えてしまう」といった不満の声が広がっています。調査によれば、軽度の擦り傷程度であっても、EVの修理費は同じラスのガソリン車の2〜2.5倍に達するケースが多く、バッテリーやモーターなど主要部品が関係すると、負担はさらに大きくなるとされています。
中国メディア「新京報」の取材によると、数十人に及ぶEVオーナーの多くが、同じ価格帯のガソリン車と比べて修理費が明らかに高いと感じているといいます。
車両価格が約315万円に満たないにもかかわらず、バンパーの交換と塗装だけで修理費が数万円に達した例もあり、目立たない程度の小さな傷であっても、見積もりが約6万〜7万円となるケースは珍しくありません。
また、販売価格が約270万円のEVが軽く擦っただけで正規ディーラーに持ち込まれたところ、前方ヘッドライト1個の修理費用だけで約13万円を請求された例も確認されています。リアバンパーの擦り傷についても、修復ではなく部品交換が前提とされ、修理費が約8万円近くに上るケースが多いとされています。
修理がバッテリーや車の下まわりに及ぶ場合、負担は一段と重くなります。約420万円以下の車両で、フロントバンパーやドア、Aピラー、ミラーなどを交換しただけで、修理費が約63万円を超えた例もあります。前方を軽く擦っただけにもかかわらず、点検後にバンパー、グリル、ヘッドライト一式、インナーフェンダーの交換が必要とされ、総額が約42万円以上になったケースも報告されています。
さらに、動力用バッテリーの交換は、EV修理の中でも特に高額になりやすい分野です。ある事例では、テスラ・モデルSのオーナーがバッテリー修理として約336万円を提示され、バッテリーパック全体を交換する場合は約462万円前後になると説明されました。この金額は、年数を経た同車の市場価値に匹敵する、あるいはそれを上回る水準です。
こうした極端な事例は、EVが抱える構造的な問題を浮き彫りにしています。動力用バッテリー自体が非常に高価で、車両価格に占める割合も大きいため、修理や交換時の負担は一般部品とは比べものになりません。調査では、バッテリー交換費用が車両販売価格の約5割に達するケースもあるとされています。
高額な修理費は、自動車保険にも影響を及ぼしています。軽い衝突事故でバッテリーケースに軽微な損傷が生じただけで、正規ディーラーでの修理を前提とした場合、修理費として約59万円を提示された例もあります。保険関係者からは、「EVは修理費が高いため、同じクラスのガソリン車より保険料も高くなりやすい」との指摘が出ています。
一方で、アフターサービス体制の問題も深刻です。EVの修理には高度な専門知識が求められるにもかかわらず、中国で正式な資格を持つEV整備士は10万人に満たず、アフターサービス分野の人材不足は80万人以上に達するとされています。バッテリーやモーター、先進運転支援用システムなどは高価で一体化が進んでおり、部分修理が難しく、ユニット単位での交換になりやすいことも、修理費高騰の一因です。
複数の整備工場や技術者への取材でも、「EVは修理費が高く、技術的なハードルも高いため、独立系の修理工場では対応を断らざるを得ないケースが多い」という声が上がっています。その結果、オーナーは正規ディーラーに依存せざるを得ず、修理先の選択肢は限られたものとなっています。こうした状況の中で、「EVは修理費が高すぎる」という認識が、中国のEVオーナーの間で静かに、確実に広がっています。
(翻訳・吉原木子)
