12月10日午前、甘粛省(かんしゅくしょう)臨夏回族自治州(りんかかいぞくじちしゅう)で大規模な土砂崩れが発生し、農家45世帯の住宅が土砂に埋まりました。中国当局は災害の規模を大規模と認定していますが、この出来事が国営メディアで報じられたのは、発生から4日後のことでした。しかも、公式発表では「人的被害はなかった」と結論づけられています。

 情報公開の遅れと死傷者ゼロという発表は、ネット上で瞬く間に強い反発を招きました。多くのネットユーザーが「とても信じられない」と指摘し、情報発表の遅さや透明性の欠如に疑問を投げかけています。

 今回の土砂崩れについて、中国国営メディアの中央テレビは12月14日、12月10日午前11時20分に臨夏回族自治州の黄茨村(こうしそん)で土砂崩れが発生したと報じました。初期調査によると、崩れた土砂は幅およそ390メートル、長さ約722メートル、平均の厚さは24メートルに達し、総量は約677万立方メートルに上ります。土砂の移動距離は約310メートルで、現在はおおむね安定しているとされています。

 公式発表によれば、直接的な経済損失は約9億円(約4135万元)に達し、災害の規模は「大規模」と認定されました。警戒区域内では45戸の住宅が倒壊または埋没し、さらに118戸の住民が緊急避難を余儀なくされました。避難した住民は、ホテルに集団で滞在するか、親族や知人を頼って一時的に身を寄せているということです。

 また、紅星新聞は、現地政府の応急管理部門の情報として、今回の土砂崩れによる死傷者は出ていないと伝えています。応急管理局は、その理由について、土砂の崩落速度が比較的遅く、住民が逃げる時間を確保できたためだと説明しました。

 紅星新聞が「権威ある情報源」から得た内容によると、土砂崩れは10日午前10時ごろから明確な兆候が現れ始め、同日午後3時ごろまで続いたとされています。この間、異変に気づいた村民が村のグループチャットで警告を発信し、それを受けて村幹部が一軒一軒を回って避難を呼びかけました。その結果、住宅を失ったおよそ90人余りの住民が、集団で避難先に移されたということです。

 中国当局は、異常の発見、警戒の発令、住民の移動がいずれも迅速に行われたことが、人的被害を防いだと強調しています。なお、今回の土砂崩れの詳しい原因については、現在も調査が続いています。

 当局は詳細な技術データや対応の流れを示したものの、大規模と認定される重大な地質災害が、発生から4日間にわたって公表されなかったことと「死傷者ゼロ」という結論は、世論の強い反発を改めて招きました。

 SNS上では、甘粛省の地元住民だけでなく、他地域のネットユーザーからも、情報公開の深刻な遅れに対する不満が相次ぎました。

 「14日になってやっと出たのか」
 「今ごろ発表?情報統制が相当厳しい」
 「甘粛省は広くないのに、まるで奇跡を作り出したみたいだ。情報が4日も封じられていた」

 さらに議論を呼んだのが、「45戸の住宅が埋まったにもかかわらず、死傷者は1人もいなかった」という発表に対する疑念です。多くのネットユーザーが理解できないと感じています。
 「40戸、50戸もあって、たまたま誰も家にいなかった?」
 「数十棟も家が埋まって、死傷者ゼロ?まさに奇跡だ!」

 中には皮肉を込めて、「甘粛省の村幹部はなんて先見の明があるのだろう。完璧に事前避難させて、誰一人けが人が出なかった」と書き込む人もいました。

 疑問の矛先は地方メディアにも向けられました。
 「この地域には記者がいないのか」
 「甘粛省の地元メディアは消えてしまったのか」
 「今さっき編集したばかりだろう。発表内容は完全に統一されている」

 一方で、当局の説明を支持する立場からは、早期に兆候を把握し、幹部による戸別訪問が実際に行われていたのであれば、人的被害を防ぐことは可能だったという声も出ています。しかし、疑問を呈する側は、もし以前から地滑りの危険がある地域だと認識されていたのであれば、なぜ平時には体系的な対策や集団移転が進められず、災害が起きてから突然「重視」が語られるのかと指摘しています。

 情報発表の深刻な遅れを受けて、一部のネットユーザーは、中国当局が各レベルの政府で発表内容をすり合わせた後に、ようやく公表したのではないかとの見方も示しています。ある投稿では、「犠牲者が出なかったのではなく、誰も真実を語れなかったのだ」とまで書かれていました。

 これらの疑念の多くは重大な災害が発生した際、情報がどれだけ迅速に公開されるかが、当局に対する信頼を判断する重要な基準になっているという現実を、はっきりと浮かび上がらせています。

土砂災害が頻発する2025

 甘粛省の事例は決して例外ではなく、中国各地で発生している土砂崩れの多くが、異常気象と密接に関連しています。

 2月8日、四川省筠連県(じゅんれんけん)で突然、土砂崩れが発生し、住宅10棟と生産用施設1棟が土砂に埋まりました。最終的な公式発表では、この事故により1人が死亡、2人が負傷し、さらに28人が一時行方不明になったとされています。

 5月22日には、貴州省大方県(たいほうけん)で土砂崩れが起き、少なくとも8世帯、19人が閉じ込められました。複数の目撃者によると、土砂崩れは突然発生し、異音を確認しようとした村民の1人が一瞬で巻き込まれたということです。現場での救助活動は非常に困難を極めたと伝えられています。

 8月6日には、広州市白雲区で連日の豪雨により土砂崩れが発生し、大源村の複数の住宅が被害を受けました。公式発表では、当日14人が一時的に閉じ込められ、そのうち7人が救出されたとされており、この事故は都市部における地質安全をめぐる議論を呼び起こしました。

 これらの事故と比べても、甘粛省で起きた土砂崩れは、規模や土砂量、災害レベルにおいて決して小さくありません。それにもかかわらず、死傷者ゼロという結論が示された点に、世論が強い違和感や疑問を覚え続けていることが、議論が沈静化しない大きな理由となっています。

 2025年に入って以降、中国全土では異常気象が集中的に発生しており、洪水、地震、雹、台風、竜巻、土石流、土砂崩れが次々と起きています。これに加え、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の拡大も重なり、ネット上では「明らかに災害が増えている」と嘆く声も少なくありません。

 こうした状況の中で、地質災害はもはや単なる自然現象ではなくなっています。都市と農村の計画、リスクの事前警告、住民の移転や避難、そして情報公開の在り方と密接に絡み合う、構造的な問題となっています。甘粛省で起きた今回の土砂崩れが、的確な避難によって被害を防いだ成功例なのか、それとも行政による情報操作の疑いが残る事例なのかについては、今後、より透明で継続的な調査を待つ必要があります。

 ただ一つ確かなのは、大規模とされる災害が、発生から4日も経たなければ人々の目に触れない状況そのものが疑念を生み、その疑念自体が、この災害の一部となってしまっているという現実です。

(翻訳・藍彧)