今年、広東省や広西チワン族自治区、海南省などでライチが豊作を迎えました。しかし、中国経済の減速や市場の需要低迷が重なり、価格が大きく下落しています。現地では500グラムあたり1元(約20円)前後、場合によってはそれ以下にまで値下がりしており、それでも売れ残るケースが相次いでいます。多くの農家は、収穫したライチを牛や豚、鶏の餌にするほか、大量に畑や道端に廃棄せざるを得ない状況に追い込まれています。「1元まで値崩れするなんて、これまでにないことだ」と農家は嘆いています。
中国のSNSには、ライチ農家や関係者が苦境を訴える動画が多く投稿されています。多くの地域で買い取り価格は1元を下回り、一部では「5角で3斤(約1.5キロ)」という信じがたい安値での投げ売りも行われています。
映像によると、広東や広西のライチは豊作だったものの、市場の低迷で買い取り所には農家の車が列をなし、果物を売りたい農家の数が買い手を大きく上回っているといいます。買い取り業者を探し回っても買い手がつかず、結局ライチを大量に道端や畑に廃棄する農家も少なくありません。中には、廃棄されたライチを拾い、家畜の餌にする農家もいます。
中国メディア「界面新聞」によると、昨年のライチ価格の高騰を受けて栽培面積が拡大し、広東省だけでも木ごとの実の付き方が30%以上増えたとのことです。今年は特に広東、広西、海南の三大産地が同時に「豊作の年」となり、総生産量は212万トンを超え、前年より37.5%の大幅増加が見込まれています。
同じ報道では、中国全土のライチ栽培面積は約751万ムー(約50万平方キロメートル)にのぼり、2025年には総生産量が365万トンに達すると予測されています。これは前年比で倍以上の増加にあたり、過去最高の記録になる可能性があるといいます。広東省高州市ではライチの栽培面積が約59万ムーに達し、生産量も28万トンを超える見込みです。
しかし価格面では、今年の一般的なライチの買い取り価格がすでに原価を下回り、農家は1斤(約500グラム)売るごとに0.3元の赤字を抱えるといいます。高級品種のライチも例外ではなく、ある農家は「夜明け前から収穫しても、輸送費すら稼げない」と嘆き、別の農家も「ライチを売っても人件費すら出ない。いっそ収穫せず、畑で腐らせる方がマシだ」と語っています。
ネット上では「広東省高州市の桂味ライチ市場は壊滅的な状況で、価格は下落の一途をたどり、打つ手がない」との声も出ています。また、別の農家は「何日も収穫を続けたが、価格は1斤あたり1.3元から0.6元にまで下がった」と述べています。
「今年のライチは町中にあふれている。少ない農家でも数十斤、多い農家は数千斤から1万斤が余っている。食べきれず、売っても大したお金にならない。去年と比べたら雲泥の差だ」と話す農家もいます。さらに「収穫したライチは食べきれず、放置して腐らせ、最終的には鶏の餌にするしかない。木が高くて手が届かない実はそのまま木の上で腐らせるしかない」との嘆きも聞かれます。
中国メディア「九派新聞」は6月18日、茂名市高州市の農業協同組合の責任者、蘇さんの話を伝えました。蘇さんによると「今年はライチの価格が1斤あたり1元余りにまで下がったが、その理由は分からない。例年、どんなに安くても1斤あたり6元を下回ることはなかった」ということです。同組合では約200ムーのライチを栽培していますが、今年は豊作にもかかわらず収穫量はわずか8~9万斤にとどまり、ほぼ半分が無駄になったそうです。
蘇さんは「市場価格があまりにも低いので、収穫を諦めることにした。人件費すら出ないのに収穫しても仕方がない」と語り、ただし高値が見込める桂味ライチだけは引き続き収穫・販売を続けるとしています。
近年、中国経済は低迷が続いていますが、政府は「経済は順調だ」と強調し続けています。ライチ市場の深刻な現状についても、当局は情報の抑制に努めているようです。茂名市農業農村局は取材に対し「価格が非常に低く、原価割れするケースはごく一部の個別事例に過ぎず、現在のところ市場価格はおおむね正常だ」と答えています。
一方、共産党系メディア「人民網」は6月14日に広東省茂名市を取材した報告を掲載し、「広東省茂名市は中国最大のライチ産地で、ライチ産業はまさに“黄金の四季”だ」と伝えました。報道では、現地の農家が「忙しくて大変だけど、実が甘いからやりがいがある」と語り、生産量は約1万3千トン、産値は1億5千万元に達するとされています。しかし、ライチの買い取り価格が崩壊している現状については一切触れられていません。
SNS上では「最近、“10元で3斤”という激安ライチの広告が出回り、多くの人が果物が安く買えると喜んでいるが、それを見て農家はやるせない思いを抱えている」との声も上がっています。
「果物が10元で3斤だなんて、本当に自由なのか?喜ぶべきことなのか?農家は『収穫しても人件費すら出ないなら、いっそ畑で腐らせた方がましだ』と言っている」という投稿もあります。
さらに「肥料の値段は毎年上がるのに、農家は朝から晩まで太陽の下で汗を流し、蚊や虫に刺されながら必死に働いている。それなのに、豊作を迎えても喜びはなく、深い絶望しかない。白菜並みの価格では元も取れない」といった嘆きも広がっています。
中国で売れ残りのライチが大量廃棄される状況について、台湾のネットユーザーは「昔、台湾でも果物が余った時にはライチの缶詰などに加工していた」と振り返ります。しかし、中国産ライチの安全性を不安視する声もあり「農薬が多く使われている」や「スーパーで売られる果物には長距離輸送のため多くの保存料が使われている」といった指摘も聞かれます。
あるネットユーザーは「自分もブドウ農家だが、激安の果物を羨ましがる人たちには分かってほしい。安い果物で浮いたお金が、結局は病院代になるかもしれない。安物買いの銭失いだ」と語っています。
また別の人は「甘いライチなんて、ハエや蚊ですら寄り付かない。なぜなら……薬漬けだからさ」と辛辣にコメントしています。
(翻訳・吉原木子)