6月14日に北京市は激しい豪雨に見舞われ、午後には故宮にも突如として暴風雨が襲いかかりました。
ネットユーザーが投稿した動画によると、「楽林泉——中外園林文化展」の展示会場内で、展示ケースの天井から雨漏りが発生したと見られ、複数の「豆大の雨滴」が、明代四大家の一人・文徴明(ぶん・ちょうめい)による『東園図』の巻物に直接落ちていました。文字の「東」の左側には水濡れの跡があり、多くの注目を浴びています。
現場の観光客は「顔に雨滴が当たったような気がした」と述べ、下を見るとすでに画巻に水滴が落ちていたとのことです。事態を受けて、故宮側は直ちに展覧会場を閉鎖し、文化財の更なる損傷を防ぐ措置を講じました。
『東園図』は、文徴明が61歳のとき、明の嘉靖9年(1530年)に描いた彩色絹本の長巻で、明代の園林での雅集(文人たちの集い)を記録したものです。芸術的価値はもちろんのこと、明代の園林文化を研究する上でも重要な実物資料です。この展覧会は4月1日から午門正殿とその両脇の雁翅楼(がんしろう)で開催されており、国内外の博物館から借用された書画、文房具、家具、異国の美術品など200点以上が展示されていました。その中でも今回のような貴重な真筆が雨漏りにより湿気に晒されたことに、世論は強い関心を寄せています。
繰り返される雨漏り 設備管理に不安の声
実は、故宮ではこれまでも幾度となく、雨漏りや水漏れにより文物の安全が脅かされてきました。2008年には、武英殿で展示されていた董源(とう・げん)の『瀟湘図巻』がエアコンの水滴により一部が湿ったことがありました。故宮側はその後「目立つ損傷は見られなかった」と説明しましたが、責任者の公表や明確な改善策は示されませんでした。
同様に、文物の保管庫である南庫や宝蘊楼(ほううんろう)でも、屋根からの雨漏りが原因で古琴や玉器が湿気で劣化した複数の事例が報告されています。なかには古琴の表面に泥水のような汚れが広がり、歴史資料で皮肉を込めて「ボロ琴」と呼ばれるほどの状態となっていたものもありました。国家重点文化財保護機関である故宮において、インフラ面にこうした水害リスクが根強く残っていることが明らかになっています。
故宮で露呈するのは雨漏りだけではない
雨漏り問題に加え、故宮ではかねてより「特権の乱用」とされる現象も発生しており、社会からの批判を浴びています。2020年1月17日には、微博(ウェイボウ)ユーザー「@露小宝LL」が故宮太和門広場にて、約300万元(約6500万円)のメルセデス・ベンツAMG G63を披露し、「閉館日を利用して」故宮に車で入り撮影を楽しんだと投稿しました。この車は「先行特別版」と呼ばれる高級モデルで、運転手は「故宮の招待を受けて閉館日のイベントに参加した」と語り、「合法的に入った」と主張していました。
しかし、ネットユーザーらはその人物の素性や「権力を利用した富の誇示」に疑念を示し、歴史的建築物への潜在的な破壊行為と受け取りました。また、文化財保護への国民の期待と信頼を踏みにじる行為であると非難が広がりました。
故宮の公式発表では、この出来事の事実関係を認め「深く痛心している」と述べました。今回のイベント手配では、審査手続きを厳格に実施せず、午門内の金水河南側に一時的な駐車を許可したとしています。これを受けて、王旭東(おう・きょくとう)院長は関係する副院長級幹部および警備部長に対し停職処分を下しました。しかし、世論からは事件の経緯についての説明が不十分であり、承認プロセスの不備が公表されていないとして、責任体制そのものへの不信が指摘されています。
管理不備が信頼危機を招く
これら2つの事件は発生の経緯こそ異なりますが、共通して浮かび上がったのは次の2点です。第一に、故宮が自然災害など極端な状況に対して有効な緊急対応策や設備管理体制をいまだ構築できていないこと。第二に、権力と制度の間に監督の空白が存在し、それが管理不行き届きを生んでいるという問題です。
今回の雨漏り事件では、北京市内に大雨警報が出ており、事前に予測されていた状況でした。故宮側は本来であれば展覧会場の閉鎖や防護措置の強化などを講じるべきでしたが、実際には何ら調整を行わず、雨水がそのまま展示空間に侵入し、貴重な文物を危険にさらす結果となりました。
一方、2013年に故宮は明確に「敷地内への車両進入禁止」を打ち出していましたが、その後も「閉館日には特別対応を認める」といった曖昧な方針が残り、それが「@露小宝LL」による車両進入を引き起こしたと見られます。また、こうした事態への対応が一貫しておらず不透明であり、社会的な信頼性が大きく揺らいでいるという点です。
故宮に対する国民の期待は、単に中国文化の象徴としての役割だけでなく、国有文化機関として、文化財保護の体制・管理基準・運用の透明性などにおいて模範となる存在であることを求めるものです。しかし、今回の2件の出来事は、リスク認識の甘さ、責任体制の曖昧さ、制度運用の不徹底といった構造的な問題が管理層に根付いていることを次々に露呈しました。
雨漏り被害のあった『東園図』を含む文物の多くは、複数の国内外の機関と連携して貸し出されていたものであり、万が一、保護管理の不備によって実質的な損害が生じれば、それは単なる文化的損失にとどまらず、今後の国際的な協力関係にも影響を及ぼしかねません。
同様に、ベンツ車両の事件も、現場での直接的な損壊こそなかったとはいえ、その象徴的意味は極めて大きいものです。こうした特権的行動に対して、国民は強い敏感さを抱いており、故宮という国家文化の象徴に寄せる敬意と信頼が深く傷つけられました。
濡れたのは『東園図』だけではない
今回の暴雨は、まるで鏡のように故宮が抱えるリスクと問題点を浮かび上がらせました。『東園図』が雨に濡れたことは、視覚的に衝撃的な出来事でしたが、それ以上に、2013年以降に繰り返されてきた設備面・制度面でのほころびこそが、より根深く、日常的に積み重ねられてきた病巣と言えるでしょう。
国民の目に映るのは、文物に付着した水跡よりも、管理体制の「ほころび」のほうが消すことのできない傷跡として残ります。これらの雨漏り事件は、単なる偶発的な事故ではなく、自然災害や権力監督の両面において、現行の管理体制が長年にわたって蓄積されてきた「亀裂」の表れなのです。
元首都師範大学の李元華(り・げんか)教授は、6月15日の大紀元の取材に対し、次のように語っています。
「中国共産党の体制下では、権力がすべてに優先するため、ときに管理職の幹部が思いつきで規定を破るようなことをするのはよくあることだ。実際、過去にも富をひけらかすために車を故宮内に乗り入れた例があり、報道を通じてそれが特権であると人々に知られた。調査の結果、その運転者の親が故宮の管理者よりもはるかに上位の官職にあったことが分かり、上司に媚びるためにこのようなばかげた行為が行われたのだ」
(翻訳・藍彧)