中国の「手抜き工事」問題は長年にわたり国民から非難を浴びており、その背後には建設現場での手抜き施工だけでなく、元請企業の違法な下請け構造や利益供与など深刻な腐敗問題が存在しています。最近、ある建設業界関係者が大紀元の取材に応じ、自らの内部告発が原因で迫害を受け、最終的に中国からの逃亡を余儀なくされた経緯を明かしました。
雲南省出身の張正林(チャン・ジョンリン)さんは土木施工員として、雲南省曲靖市の高速道路トンネル工事における深刻な手抜き施工や設計変更の違法行為などを目撃しました。彼は大量の現場映像や写真、原設計図面などの証拠を収集し、実名で繰り返し当局に告発しましたが、一切受理されることなく、逆に地域の利権ネットワークの怒りを買い、標的にされました。
公的資料によると、問題の宣会(せんかい)高速道路は雲南交通投資グループが投資・建設した全長96.74キロの道路で、宣威(せんい)区域が30.75キロ、会沢(かいたく)区域が65.99キロを占め、中国南北を結ぶ銀昆高速道路の一部となっています。全線には約30か所の二方向トンネル、合計60本のトンネルが設置されています。
張さんが担当していた施工区間では、背後で不正を操る業者が22本のトンネルを請け負っていました。2022年末、彼は犀牛山(さいぎゅうざん)トンネルの第3工区でショベルカーの運転手として、土砂の除去や仰拱(ぎょうきょう)の掘削作業を担当していました。その中で不正施工の実態を目撃し、位置情報や原設計図とともに動画や写真で記録しました。
張さんによれば、トンネル工事は掘削・鉄筋の設置・コンクリートの注入という工程を経る必要がありますが、実際には鉄筋やコンクリートの量が大幅に削減されていました。例えば、往復2,800メートルのトンネル1本あたりで削減された建材費は、2,000万元(約4億円)以上になると見積もっています。
具体的な施工例として、仰拱では設計上7メートルごとに12組の拱架(こうか)を設置する必要があるのに、検査対策で端の2組のみを取り付けていました。また、鉄筋アーチは側壁部分のみ象徴的に溶接され、中央部はまったく設置されていませんでした。
さらにコンクリート充填にも深刻な手抜きがあり、下地に泥土や廃材でかさ増しされ、本来150センチ必要なコンクリート厚が50センチ以下しかなかったといいます。
また張さんは毎月社長からの指示で、大量の鉄材をショベルカーで大型トラックに積み込み搬出していました。搬出先は不明で、材料は特定ルートで売却されていた可能性があります。
「総請負会社は鉄筋加工や労務管理を全て施工会社に丸投げしていました。国営企業は設計に基づく材料搬入しか管理せず、工程を省略すればその分の材料が余る仕組みです。監査があっても帳簿上は問題がないように見せかけられていました」と張さんは話します。このような杜撰な管理体制の下、事故も頻発しました。張さんは2017年から道路工事に携わり、業界全体に手抜き施工が蔓延していると感じていました。施工後数年は問題が発覚しないこともありますが、やがてトンネルの崩落や道路の陥没・隆起といった危険が表面化します」。
「告発を決意したのは、その高速道路が実家からわずか10キロしか離れておらず、目の前でこんなことが起きているのを見て、あまりにひどいと感じたからです。インフラは人々のためにあるはずなのに、人民を食い物にする連中が好き勝手することは許されません」。
2023年5月、徐家村トンネルで重大事故が発生しましたが、施工会社は事故を報告せず、遺族と個別に処理しました。張さん自身も2022年5月に作業員が生き埋めになる事故を目撃しています。会社は遺族に多額の補償金を渡し、事故を隠蔽していました。
張さんは施工不良の証拠を雲南交通投資グループの監理部門に提出しましたが、その資料は直接、彼の上司に渡されました。その後、彼は地元の警察に拘束され、さらに偽の恐喝容疑をかけられました。
その後も脅迫を受け続け、家族も恐怖を感じたため引っ越しを余儀なくされました。張さんはAIツール「ChatGPT」で国外への脱出方法を調べ、2024年5月にドイツへ逃れました。出国直前、最後の望みをかけて中央第六巡視組に証拠資料を送りましたが、返答はありませんでした。
「建設業界の闇は中国共産党体制の氷山の一角です。この体制下では役人は上の顔色ばかりをうかがい、人民や事実に責任を負いません。悪循環が続いているのです」。張さんは静かにこう語りました。
(翻訳・吉原木子)