中国では失業者が急増しており、多くの人が家族に失業を知られたくないため、毎日「出勤しているふり」をしています。最近では、「偽装出勤」のできる会社が各地に登場し、話題を呼んでいます。
北京、上海、杭州、重慶、広東など、今年初頭から、中国各地で「偽装出勤会社」が出現しています。運営者によると、失業者が毎日30元(約600円)を支払って朝9時から夕方5時まで会社に座り、「働いている芝居」を演じているそうです。月末には「給与明細」も提供されるといいます。
一部の学者は、この現象は多くの人が職を失い、就職先がないことを示しており、同時に中国の社会保障制度の不備を露呈していると指摘しています。
「偽装出勤」の一日
最近、ある女性ネットユーザーがリストラ後に両親をごまかすため、「偽装出勤」をした1日を公開しました。彼女は朝9時45分に「会社」に到着し、料金を尋ねた後、30元(約600円)を支払い、1つのデスクを借りました。給湯室でコーヒーを入れていると、「CEO」に遭遇し、60元(約1200円)を払って社長室で「出勤」しました。
デスクで朝食をとった彼女は、ネットで仕事を探し始め、休憩中はスマホをいじっていました。ふと周囲を観察すると、「同僚」たちは皆なにか思い悩んだ様子で、「きっと私だけが無職じゃない」と思ったそうです。
12時15分、デスクで昼食をとっていると、父親の友人もここで「出勤」しているのを見かけました。午後4時過ぎ、会社で「仕事中」の写真を撮って母親に送り、「今日は残業」と伝えました。
午後5時半を過ぎても「同僚」たちはまだ「残業」中で、夜8時近くになってようやく彼らが「退勤」しはじめ、彼女もその30分後に「帰宅」しました。
あるブロガーは、このような「偽装出勤会社」が増えている理由について「景気が悪く、失業者が多すぎるからだ。若者たちは親から結婚や就職を急かされるのを恐れて、毎日出勤しているふりをしている」と指摘しています。
また、中国経済の悪化によりオフィスの空室率が上昇し、多くの投資家が商業スペースをシェアオフィスとして貸し出すようになっています。短期でデスクを貸し出し、個人向けに収益を得る新たなビジネスとなっているようです。
全国で「偽装出勤会社」が続々登場
中国メディアの報道によると、5月18日、劉冠傑(りゅう・かんけつ)が設立した「偽装出勤会社」が営業を開始しました。会社は深セン(しんせん)市龍華(りゅうか)区清湖(せいこ)のオフィスビル内にあり、約20席のワークスペースはほぼ毎日満席だそうです。
劉氏は元々フリーランスで、深セン市内の無料の図書館やカフェを転々としていましたが、こうした需要を見つけて「偽装出勤会社」を創設しました。
劉氏の募集広告には次のように書かれています。「現在、就職活動の空白期にいて、勤務時の生活リズムを維持したい人には、ここで『偽装出勤』のデスクをご提供します。1日たったの30元(約600円)。ここでは読書、勉強、履歴書の送付、リモート面接、さらには昼寝やサボり、スマホ操作も自由です」
四川省成都市の「偽装出勤会社」の女性経営者は動画の中で次のように語っています。
「表向きは一応『会社』であるが、実態は『成人の託児所』である。ここでは自由にスマホやパソコンを使うことができ、Wi-Fiも冷房も完備されている。朝10時から夕方5時まで滞在できるが、出勤打刻などは一切不要である」とし、「『会社の社長』も社員に業務指示を出すふりをしてくれるが、その時はどんな理由をつけて断っても構わないし、クビになる心配もない。上司に企画書を投げつける快感すら体験できる」と笑って紹介しました。
重慶市にも「偽装出勤会社」が出現しています。運営者は「最近、重慶市では失業率が高く、失業した人たちの多くが家族に言い出せない状況にある。そこで、出勤しているふりをできる場所を作った。毎日パソコンの前に座って働いているふりができる。社長になってみたい人は、料金を払えば社長室で『勤務』することも可能」と述べました。
「偽装出勤会社」は広東省にも広がっています。あるブロガーは、「最近、友人が東莞(とうかん)市で『出勤しない会社』という名前の会社を立ち上げた」と紹介しています。「この『出勤しない会社』では、社長を罵倒することも、仕事をしないことも、寝ることも、小説を読むことも、動画を見ることも、何をしても許される。1日30元(約600円)を払えば専用デスクが与えられる。朝10時に来てもいいし、午後3時で帰ってもいい」
中国の企業登記情報サイトによると、北京市、上海市、湖南省長沙市、山西省太原市、江蘇省杭州市など多くの都市ですでに同様の「偽装出勤会社」が登録されています。ある動画では、上海市静安区の「新时代大厦」では9.9元(約200円)でシェアオフィスの席を借り、「偽装出勤」が可能だと紹介されていました。
社会保障制度の欠如が背景に
あるネットユーザーは「悪くないと思う。1日9.9元なら、自宅で仕事をするより電気代やネット代が安く済むかもしれない。ずっと家にいると気が滅入るから、会社の雰囲気を味わいに行く。こんなところに来ている人は、本当にみんな事情があるのだろう」と語っています。
あるブロガーはこうも語っています。「まさかとは思ったが、奇妙な現象が毎年起きるとはいえ、今年は特に多い気がする。我々80後(80年代生まれ)・90後(90年代生まれ)の世代は、SARSを経験し、下水油(げすいあぶら)を食べ、三鹿の粉ミルクを飲み、シノバック(科興)のワクチンを接種してきた。大学を卒業して就職しようと思ったら、ちょうど就職分配制度が廃止されていた。大切な人と結婚したくても、家や車が条件になった。節約して頭金を貯めたと思ったら、不動産価格が高騰するピークに遭遇した。やっと家を買って入居したと思ったら、不動産価格が暴落し、さらに前例のないリストラの波に直面している」
首都師範大学の元教授・李元華(り・げんか)氏は、6月22日のインタビューで次のように語っています。「偽装出勤会社の登場は、中国全体の経済環境が極めて厳しいことを意味している。多くの人が職を失い、働く場がない。これは正常な社会では起こるべきではない、非常に異常な現象である。もし国家が職業訓練や再就職の支援、社会的なキャリア相談を充実させていれば、多くの人が再就職の機会を得られたはずだ。自ら金を払ってまで働いているふりをする必要はなかった。この現象は、経済の低迷、社会保障制度の不備、そして社会全体が個人を顧みずに運営されている証左であり、そうした中国社会のゆがみが生んだ異様な現象だ」
(翻訳・藍彧)