リトアニア、中国外交官「全員追放」 中国大使館は「空き家」に.
リトアニアの首都ビルニュス市の市庁舎広場(Marcin Białek, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

 バルト海に面する国・リトアニアではこのほど、中国の外交官が全員国外退去処分になったことが明らかになりました。現地メディアによると、最後の中国外交官は今年5月、首都ヴィリニュスの空港で入国を拒否され、そのまま第三国に送還されました。中国の人権問題や台湾問題について中国共産党が圧力を強める中、リトアニアが断固とした姿勢を示しています。

最後の外交官、空港で入国拒否

 現地メディアLRTやBNS通信の報道によると、最後の中国人外交官は5月18日、ヴィリニュスの空港で入国を拒否され、その後トルコのイスタンブールに送還されました。

 リトアニアの出入国管理当局によれば、送還された中国の外交官は外交パスポートを所持していたものの、滞在可能期間を超過しており、シェンゲン協定の免除措置も適用されませんでした。

 国営LRT放送の取材に対し、リトアニア国境警備局の報道官は「すでに外交資格は失効しており、特権は認められない」とコメントしています。

「台湾問題」をめぐる対立

 この外交的な対立の背景にあるのが、「台湾代表処」の呼称をめぐる問題です。2021年、リトアニア政府は台湾による「台湾代表処(Taiwanese Representative Office)」の設置を許可しました。諸外国では「台北代表処」とするのが一般的な中、台湾の呼称をそのまま使用したことで、中国共産党が強く反発しました。

 中国側はただちに外交関係を格下げし、大使館を「臨時代表部」に変更しました。さらに、リトアニア外交官の中国駐在資格を認めず、リトアニア側は大使館員を引き上げる事態となりました。

 その後、中国側はリトアニアにある「臨時代表部」に外交官の派遣を続けようとしましたが、リトアニア政府はこれを公式に認めず、外交ビザの発給を拒否しました。一部の中国外交官は過去の認証を根拠に短期滞在していましたが、次第に規制が厳しくなり、国外退去せざるを得なくなりました。

中国外交官の事故や脱法行為も問題に

 2024年末には、中国人外交官3名が「外交慣例違反」を理由に国外退去処分を受けたことも事態の悪化を後押ししました。

 うち1名は、リトアニア南部の都市・ドルスキニンカイで交通事故を起こしたまま逃走しました。調査の結果、事故を起こした中国外交官は外交資格が失効していたことが明らかになり、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去させられました。

 リトアニアのギンタウタス・パルツカス首相は6月17日、記者会見で「外交関係の正常化に向けた提案を中国側にすでに提示している」と明かしました。ただし、提案の中には「台湾代表処」の名称を変更する内容は含まれておらず、リトアニアの基本的な姿勢は変わらないとしています。

 ケストゥティス・ブドリス外相も、「我々は対話の再開を望んでいるが、今やボールは中国側にある」と述べ、関係再開の主導権は中国側にあることを強調しました。

 リトアニア政府は「法の支配に基づく外交関係の再構築」を条件とし、一方的な圧力には屈しない姿勢を明確にしています。

中国人ネットユーザー、期待の眼差し

 リトアニアは近年、人権問題や台湾問題をめぐり中国共産党に対して最も厳しい姿勢をとっている国の一つです。リトアニアと中国の外交関係そのものは維持されていますが、現在は中国の駐EU代表部を通じた連絡に限定されています。

 中国の外交官が全員国外退去されたことを受けて、中国語圏のネットユーザーの間では、リトアニアの行動を支持する声が上がっています。

 ある投稿者は、「中国共産党の『一つの中国』原則は、もはや国際慣習に反する政治的圧力でしかない」と批判しました。

 さらに、「リトアニアはソ連崩壊の先駆けとなった。今度は、中共崩壊の先導役になるのだろうか」と期待を込めました。

 また、他のユーザーからは「世界中の民主国家は、リトアニアに続くべきだ」「これで中国共産党のメンツは丸潰れだ」といった投稿が見られました。

(高瀬 陽一)