中国各地で新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、広州市の三甲病院(さんこうびょういん、中国で最高ランクの総合病院)に勤務する医師が感染後に急死したというニュースが広まり、社会に大きな衝撃を与えました。中国当局は「全国的に感染状況は落ち着きつつある」と発表していますが、広州市や深セン市など南部都市の第一線にいる医師や国民は、まったく異なる実態を訴えています。彼らによると、実際の感染率や重症者、死亡者数は政府の発表を大きく上回っており、「白肺」や「突然死」といった症例も依然として頻発しているとのことです。
広州の病院医師がコロナで急死 医療界に衝撃
中国広東省広州市内でクリニックを経営する康弘(こう・ひろし、仮名)医師は、最近の感染状況について「人が亡くなると、やっぱり怖くなる」と語りました。彼によると、娘が勤務する市内の三甲病院で、年配の医師が新型コロナウイルスに感染し、症状が悪化した末に勤務中に急逝したといいます。
「だから娘は、私にすぐマスクをつけるよう言ったのです」と康医師は話しています。亡くなった医師は当初、体調の異変を軽視していたものの、症状が悪化してからPCR検査を受け、新型コロナウイルス陽性と判明しました。もともと基礎疾患を抱えていたため、病状が急速に悪化し、最終的に命を落としました。
この出来事は病院内で大きな衝撃を引き起こしました。外部への情報はほとんど公表されていませんが、医師たちの間では危機感が広がり、多くが再び個人の防護措置を強化し始めているといいます。しかし、公式な発表がないため、一般の国民には知られていません。
康医師は、こうしたケースは決して例外ではなく、最近では感染者が明らかに増えていると指摘しています。「うちのクリニックに来る患者の半分以上が風邪や発熱の症状を訴えている。でも今は誰もPCR検査を受けようとしない。皆、自分が新型コロナウイルスに感染していることを心の中ではわかっているからだ。100元(約2000円)以上も払ってPCR検査を受けたくない」。また、中国当局は社会にパニックが広がるのを恐れているため、感染者の報告義務を撤廃し、日常的な消毒やマスク着用などの基本的な対策のみを求めているといいます。
公式の発表では「感染は減少傾向」 民間の声とは乖離
中国疾病予防管理センターが今月発表したデータによると、4月以降、新型コロナウイルスの陽性率は全国的に上昇傾向にあり、とくに広東省や福建省など南部地域で高くなっているとされています。それにもかかわらず、国営・新華社通信は5月28日、「現在、全国的な感染の増加傾向は緩和されており、多くの省ではすでにピークを過ぎるか、下降局面に入っている」と報道しました。
こうした政府の発表は、広州市や深セン市の現場の実態とは明らかに乖離しています。
広州市民の李さんは記者に次のように語りました。「周囲で風邪を引いている人がすごく多く、我が家も家族全員が順番に風邪を引いた。私が一番ひどくて、妻は断続的な症状だった」
李さんによると、今回の症状は重い風邪に非常によく似ており、回復までに10日程度かかるとのことです。彼とその家族はすでに何度もコロナに感染しており、「今回もまた新型コロナウイルしに感染したのは間違いない」と確信しているそうです。
李さんはまた、「最近はSNSで突然死の話をよく見かけるが、メディアも報道しないし、公式な統計もない。だから、本当のところがわからないのだ」と語っています。
深セン市民の郭(かく)さんも、「つい最近風邪を引いた。全身の筋肉痛と腰の痛みがひどかった。20日間も治らなかった人もいる」と明かしました。また、「多くの感染者は五月のゴールデンウィークに旅行した後に発症しており、新型コロナウイルスの再拡大と見られている」とも指摘しています。
郭さんの周囲では、すでに2人が新型コロナウイルスで亡くなっており、そのうちの1人はわずか55歳だったといいます。
逼迫される医療現場 隠された「真実のデータ」
康医師は、過去3年間の感染ピークを振り返り、当時の感染者数や死者数が公式発表よりもはるかに多かったと明言しています。「あの時の感染者数は、今の数十倍はいたはず。死者も相当な数で、うちの三甲病院だけで600人以上が亡くなった。中国共産党はそういったデータをまったく公表していなかった」と述べました。
「霊安室に遺体を置くスペースすら足りなかったのである」と語ります。「でも(中国)共産党は一貫した姿勢で、何もなかったことにしようとした。全国的に遺体があふれていたのに、中国疾病予防管理センターが発表した当時の全国死亡者数の最多日は、たった5人であった。誰がそんな数字を信じるのだろう?誰も公式発表を見ようともせず、信じてもいなかった」
彼は、武漢市で最初に発生した感染時も同様に死者数が大幅に隠蔽されていたと指摘し、「家族全員が亡くなった家庭も少なくなかった」と述べました。当時の致死率は8〜10%にも上った可能性があると推測しています。
現在も広州市の三甲病院では「新型コロナ外来」が一部の検査業務を担っていますが、その費用は国が負担している一方で、実際には「監視拠点」のような役割を果たしていると康医師は述べています。
依然として覆われた感染の実態 広がる不信感
中国当局は繰り返し「透明な防疫」を強調していますが、社会全体では「現在も重要な情報が公表されていない」との声が強まっています。とくに、死亡率や重症化率といった重要データは依然として不透明なままです。
康医師は、自身のクリニックでも「明らかに通常の風邪とは異なる重い症状を示す患者が少なくない」と明かしますが、そのほとんどが診断もされず、報告もされていないといいます。
こうした情報の欠如が、政府への不信を一層深めています。広州市民の李さんも、「具体的な統計もなければ、信頼できるデータもない。だからみんな、SNSや口コミに頼るしかない」と語っています。このような状況では、デマや恐怖が広がるのも時間の問題です。
深セン市民の郭さんも、「新型コロナウイルスが流行して以降、亡くなった人は非常に多い。しかし、政府がその死因を公にすることは絶対にない」と指摘しました。
専門家「監視体制の再構築と透明性の確保を」
専門家は、現在急速に拡散している変異株(NB.1.8.1など)に対応するためには、政府が国民との透明な対話を進め、感染状況に関する基本的なデータ収集と報告制度を再び整備すべきだと指摘しています。さもなければ、国民と政府の間に存在する情報の溝はさらに広がり、感染対策や社会の安定に深刻な影響を及ぼしかねません。
繰り返される感染の波は、身体的なダメージに加え、社会の長期的な「信頼の危機」も引き起こしています。広州市で亡くなった医師の一件は、社会に対し改めて警鐘を鳴らしています。パンデミックは未だ去っておらず、真実はいまだ、霧の中に隠されたままです。
(翻訳・藍彧)