6月3日の夜、中国湖南省衡陽市常寧市の尚宇学校で、高校3年生の生徒たちが目前に迫る大学入試の重圧を発散し、互いに士気を高めるために、キャンパス内で自発的な「叫び声による応援イベント」を行いました。これは、中国の一部地域において、高校生が校舎の窓や廊下から声を張り上げて感情を共有し、試験前のストレスを発散するという伝統的な行為で、中国語では「叫び楼」と呼ばれています。

 しかし、この夜はイベントがあまりに熱気を帯びていたため、学校側が騒ぎを問題視し、警察に通報。駆けつけた警察によって「主導者」と見なされた3名の生徒がその場で連行されるという異例の事態に発展しました。

 複数の生徒の証言によりますと、イベントは学校の主導ではなく、生徒たち自身が自主的に企画、実行したものでした。2棟の校舎の間に設置されたドラムセットの演奏に合わせて合唱が始まり、盛り上がりを見せた現場には下級生たちも次々に集まりました。

 やがて状況は混雑し、当直の教員たちは場を収めようと試みたものの制止できず、最終的に警察に通報しました。その後、現場に到着した警察は、高校3年生の中から3人を組織的な中心人物と特定し、連行しました。

 この事態を受けて、生徒たちの間に強い反発が広がりました。大勢の生徒が集まり、パトカーの前に立ちはだかって“人間の壁”を作り、「生徒を解放しろ!」などと声を上げながら抗議しました。しかし、警察は強制排除を行い、群衆を押し分けて車を発進させ、最終的に3名の生徒は連れ去られてしまいました。

 流出した動画や現場にいた生徒たちの証言によると、警察の対応は非常に強硬で、威圧的な言動も見られたといいます。特に、この事件が「六四天安門事件」の記念日前夜に発生したことから、当局が過敏に反応した可能性も指摘されています。高校生による感情発散の行為に、異例の警備対応がなされた背景には、政治的な配慮があったのではないかという疑念が広がっています。

 6月4日午後、尚宇学校は公式WeChatアカウントを通じて本件に関する説明を発表しました。発表によれば、3日午前には高校3年生の卒業式および18歳の成人式が行われ、夜になってから一部の生徒がインターネット上で流行している応援文化を模倣し、ドラム演奏や合唱などの出し物を自発的に披露したといいます。それに惹かれた他学年の生徒が集まり、騒ぎが拡大したため、当直教員が対応困難と判断して通報したとのことです。学校側はまた、「生徒に責任を問うことはない」とも述べています。

 しかし、現場にいた生徒たちの証言は、学校の説明と食い違っています。ある生徒はこう語りました。「昨日は成人式だったので、夜に僕たち高3が自分たちで応援イベントを企画しました。ところが、衡水グループの人が警察を呼び、パトカー3台と10人以上の警察官がやってきて、ドラムを叩いていた子を含む3人の生徒が連れて行かれました。」

 別の生徒もこう話します。「その後、ほぼ全校生徒が集まりました。約3000人がキャンパスに出て、パトカーの前に立ちふさがり、30分以上にわたって『連れて行かないで』『ドラムの賠償をしてほしい』と叫びました。でも結局、警察はドラムセットごと連れて行ってしまいました。」

 さらに別の生徒は次のように語っています。「僕たちはただ、学校のやり方に納得できなかったんです。応援の意味で集まっただけなのに、警察まで呼ばれて、生徒が連れて行かれるなんておかしいです。パトカーを止めようとしたけれど、それもできず……。車が出て行った後、みんな自然に解散しました。」

 また、「私たちはただ歌って励まし合いたかっただけです。あんなに準備して、盛り上がっていたのに、それが理由で警察に連行されるなんて…。活動しただけで犯罪のように扱われるのは、あまりにもひどいです」と憤る声も聞かれました。

 事件の背景には、学校が教育グループと提携し、管理体制が大きく変わったことも影響しているとみられています。4月14日、常寧市尚宇高級中学と衡陽市衡州高級中学は、河北省に本部を持つ有名私立教育グループ「衡水正先教育グループ」と提携を発表しました。「名門校のノウハウを活用し、資源を共有し、特色を共に築く」ことを掲げ、湘南地方における民間教育の新たなモデル校として両校を位置づけるとしています。

 しかし、この提携後に学校の管理方針は一変し、多くの生徒が戸惑いと不満を感じているといいます。

 ある生徒は語ります。「次の学期からは衡水式のスケジュールになります。朝5時起床で、1日15コマの授業、全員で校庭ランニングが義務づけられています。」

 また、女子寮に住む生徒はこう訴えます。「衡水から来た先生たちは、毎晩、1フロアにつき7人もいて、全6階の寮に40人以上の教師が巡回しています。以前は1人だけが見回りをしていただけなのに、今はプライバシーなんてありません。」

 さらに、環境面や経済的負担も問題視されています。「暑くて倒れそうなのに、空調をつけさせてくれないんです。今まではそんなことありませんでした。しかも、学費は基本が1.1万元なのに、資料代などの追加料金が加わって、1学期で2万元近くになります。」

 こうした不満が蓄積した結果、当日の夜、生徒たちはパトカーの前に立ちはだかり、「退学させろ」、「学費を返せ」といったスローガンを叫びながら抗議を行ったのです。行動は切実な訴えでしたが、3人の生徒が目の前で連れて行かれるのを止めることはできませんでした。
この出来事はすぐにSNSで拡散され、「X」にも映像が投稿され、多くの反響を呼びました。

 「高校生が受験のストレスを発散するのは自然なこと。時期が『敏感』だったせいで、学校と警察が過剰に反応しただけだ」「六四事件の再来か?」「こんな小さなことを行政の力で封じ込めようとするのは愚かすぎる。逆効果だ」という声が寄せられました。

 一方で、冷静な視点からは次のような指摘もあります。「叫び声の応援は、長年にわたり高校生が受験前に団結して気持ちを高める伝統的な文化だ。それに対して学校が警察を呼び、警察が強制的に介入することは、生徒たちとの対立を深めるだけだ。若者たちの素直な表現を『治安維持』の視点で抑え込もうとすればするほど、不信感は増すばかりだ。本質的な問題は、叫び声ではなく、自発的な秩序を理解しようとしない体制側の姿勢にある。」

 また、あるユーザーはこう記しています。「彼らはまだ国家権力を止められなかったが、あのように勇気を持って立ち上がった若者たちの姿を見ただけで、中国にはまだ希望があると思えた。」

 この事件は、教育の現場において、「自由」と「管理」、「表現」と「抑圧」、「個人」と「体制」のせめぎ合いを浮き彫りにしました。青春の叫びが「警察沙汰」になる社会に、私たちは何を問われているのか。その答えは、まだ出ていません。

(翻訳・吉原木子)