中国各地でこの春、雷や大雨の夜に「龍みたいな長い影が雲の中を動いた」、「空から低いうなり声が聞こえた」という映像や音声が数多くネット上で拡散されました。三月から五月までに少なくとも七つの都市で同じような現象が報告され、人びとの関心を集めました。
最初に話題となったのは、3月15日夜、広東省深圳市に大雨と強い風が襲来したときのことです。稲妻が光るたびに、雲の中に大きな頭と長い体、四本の足のような影が何度も映り、まるで生きものが泳いでいるように見えました。動画の再生回数は1,000万回をこえ、「今年、初の『龍の影』だ」と騒ぎになりました。
その後、内陸の古都西安でも、同様の現象が観測されました。5月2日21時ごろ、強い雷雨が街を襲い、空が光るたびに三本以上の黒い影が雲の間を回ったり急に落ちたりしました。映像を撮った人は、「龍がボールを追いかけて遊んでいるみたいだった」と語りました。5月8日にはさらに騒ぎが大きくなり、夕方、西安咸陽国際空港の新しいターミナルT5で、屋根の排水口が氷の粒でふさがれ、天井から水が落ち、ロビーが水びたしになりました。その為、その52分の間に、11便が別の空港に向かう事態となりました。
同日22時、同じ雨雲が山を越えて南の安康市へと流れました。青緑の光の筋が二本、雲の中をぐるぐる回り、左下に、半透明の黒い影が上下に動く様子が撮影されました。5月2日と8日の夜、他の都市でも似た現象が見えました。遼寧省大連の海上では、白く光る大きな影が15分以上くるくる回転しており、山東省泰安の泰山近くでは、雲の中を二本の白い影がからみ合うように動きました。四川省成都の北では、墨のように黒い長い影が雨雲を突き抜けたという報告もありました。
この現象が、離れた場所でほぼ同じ時間に起きたため、ネット上では「まるで全国同時中継の『龍のショー』だ」と冗談を載せるもいました。西安では、青い光よりも「音」に驚いた人も多く、5月8日夜、雁塔区のブロガーが約30秒続く低いうなり声を録音しました。まるで巨大な龍が雲の上でほえているようで、町の猫が一斉にビクッとしたという話もあります。昔の本『子不語』には「雷の夜、龍は牛のように鳴く」と記されており、これを思い出した人たちは「やっぱり龍だったんだ!」とコメントしました。この現象を巡って、古代の文献を参照する人も増えています。古代の記録も、ネットユーザーたちによって「参考文献」として繰り返し引用されています。『宋史』には「龍の声は牛の鳴き声のようである。(声如牛鳴」)、東漢の馬融が書いた『長笛賦』では「龍のうなりは笛を吹くようである。(龍吟如吹竹)」と形容されています。また、明代の李時珍が編纂した『本草綱目・翼』には「龍の音は銅盤を叩くようである。(声如戛銅盤)」と記されています。さらに、その外見については、羅貫中が『三国演義』の中で、「龍は大きくも小さくもなり、天に昇り姿を現すこともあれば、小さくなって隠れ姿を潜めることもできる。(龍能大能小,能升能隠;大則興雲吐霧,小則隠介藏形)」と記されています。
SNSでは様々な反応が飛び交いました。「LEDライトのショーではないか?」、「四次元の生き物がちらっと出たのか?」「私はずっと不思議に思っていました。中国の十二支の中で、なぜ龍だけが現実に存在しないのかと。今になってようやく分かりました。龍は存在しないのではなく、ただ私たちの様な普通の人が見たことがないだけなのです」「突然、こんなにたくさんの龍の影が現れるなんて、本当に何か大きな出来事が起きる前触れなのでしょうか。まさか次元の壁が破られようとしているのでは?」といった声が寄せられました。多くの人々が子どもの頃から龍の物語を聞いて育っているため、SNSには驚きと同時に胸が高鳴る声が広がりました。
専門家によると、気象台の職員は「強い雷や雨のとき、光が雲や水滴に反射して長い影を作ることがある」と説明しています。雹や雨粒がスクリーンのようになり、そこに稲妻の光が映ることで、まるで生きものが動いているように見えるということです。しかし、遠く離れた場所で同じ夜に似た影が出た理由や、録音された低いうなり声の正体については、「今のデータでははっきりわからない」としています。
古代の人々は、雷や稲妻を「龍が雲をかきまわしている」と考えていました。現代の私たちはスマホや科学の知識を持っています。しかし、不思議な映像や音を前にすると、やはり胸がドキドキします。安康の撮影者は、「天地の大きな力を前に、人は小さい。だからこそ自然を敬おう。」と動画の最後に書き残しました。雷の季節はまだ続きます。次の雨雲が来たら、あなたも夜空を見上げてみませんか。そこには科学でまだ説明されていない、美しくミステリアス世界が広がっているかもしれません。
(翻訳・吉原木子)