前回の動画では、中国警察が犯罪捜査を口実に企業家から資産を奪う手口が横行していると紹介しました。今回は、時代劇さながら、司法官僚の汚職と職権濫用が渦巻く中国社会のリアルに迫ります。
かつて中国で企業を経営していた王安娜氏は、「警察がほかの省で捜査を行うのは、手を下しやすいからだ」と語りました。さらに王氏は、警察がほかの省で捜査活動を行う際に、「民事事件を刑事事件に切り替え、さらに刑事事件を組織犯罪事件に切り替える」というスキームをよく用いると話しました。なぜなら、組織犯罪事件として認定されると、警察は当事者の全財産を没収できるようになるからです。しかし、単なる民事案件や一般的な刑事事件であれば、警察にとって旨味がありません。
中国で事業を営む事業家のZ氏は、匿名を条件に取材に応じました。Z氏は、中国の警察がわざわざ他の省に乗り込んで捜査活動を行う理由を2つ上げました。一つは、捜査対象の企業が所在する地元政府が現地企業を守る可能性があること。そして、地元警察に任せてしまうと、利益を得るのが難しくなるとのことです。
弁護士の游飛翥(ゆうひしょ)氏によると、以前、広東省の地方裁判所は、広西省にある企業の銀行口座を凍結する命令を出しました。しかし、広西省の裁判所は広東省の裁判所の命令を知るや否や、先手を打って当該企業の銀行口座を凍結しました。その結果、当該企業が所有する約40億元(約824億円)の資産は広西省の司法当局の管轄下に入り、広東省の地方裁判所が凍結できたのは2億元(約40億円)だけでした。
一方、浙江省警察がほかの省からやってきた警察官を逮捕し、有罪判決を獲得した今回のケースは非常に珍しく、游弁護士は、二つの省の間に利益の対立があったのかもしれないと分析しています。
「つまり、ほかの省の警察が地元の『肥えた羊』を持ち逃げしようとしたのだろう。地元企業の経営環境が破壊され、倒産すれば数千人が失業する。地元政府にとって堪ったものではない」と游弁護士は述べました。加えて、浙江省が今回の事件を通じて、自らの管轄内で「遠洋漁業」を行うなという警告を発したのではないかと推測しています。
王安娜氏は、「今回逮捕されたのは県公安局(警察)の一般警察官であり、浙江省の検察院にとって、見せしめとして格好の標的だっただろう」と述べました。そして「もし2人が省レベルの警察組織に所属していたならば、同じ結果にはならなかっただろう。さらに、誘拐されかけた企業家も只者ではなく、地元政府に強い後ろ盾を持っていた可能性がある」と論を展開しました。
監視されない権力の実態
多くの関係者が自由アジア放送に対し、中国の民営企業のほとんどが何らかの「違法性」を抱えていると指摘しています。
王安娜氏は、この状況は中国独特の制度的問題に起因すると説明しています。王氏は、「中国では、法律の起草を各政府部門が担当する。その際、各部門は自らの利益を合法化し、最大化することを優先する。しかし、部門間での連携が欠けているため、法律同士で互いに矛盾し抵触することが多い。その結果、企業経営者はいくら遵法意識が高くても、事業活動を展開する以上、必ず何かしらの法律に抵触してしまう」と語りました。
また、企業にとって「合法的な節税」であっても、税務当局が「脱税」であると主張すれば罰金を科されることになるとZ氏は述べています。
弁護士の游氏によれば、企業経営者は司法機関の前で極めて弱い立場に置かれています。游氏は、「経営者はときに、官僚に賄賂を渡します。しかし、それでも必ず守ってもらえるわけではない」と述べました。
Z氏は、中国の司法機関は官僚の私利私欲によって支配されており、現状は簡単に変えることはできないと考えています。極端な場合、刑事事件の量刑は賄賂の額によって決まることもあるとのことです。Z氏は、「例えば、ある犯罪の法定刑の期間が1年から5年であると法律に書いてある。その場合、刑期が1年になるか5年になるかは裏での交渉次第だ。私の知人はかつて、通常の司法手続きで保釈されるはずだったが、司法官僚からは、600万元(約1億2000万円)を支払わなければ保釈手続きを行うことはできないと言われた」と話しました。
王氏は、司法機関の官僚たちは捜査や裁判の過程で、個人的な利益を得ていると指摘しました。「例えば、司法官僚が100万元(約2000万円)の罰金を命じたとしよう。しかし、この官僚はすでに非公式的なルートで被告人から200万元(約4000万円)を手に入れているといった具合だ。これが司法官僚たちの稼ぎどころでもある。このような構造がある限り、司法官僚は権力の濫用をやめることはない」と王氏は述べました。
Z氏は「根本的な問題は、官僚の権力が監視されず、彼らの違法行為に対する罰則が極めて軽いことだ」と指摘しました。そして、「汚職官僚の裁判を見ると、30億元(618億円)ほど横領しても終身刑だ。これでは、官僚たちが「遠洋漁業」のような権力濫用を抑止することができない」と述べました。
企業家たちの抵抗
メディア関係者の王安娜氏は、民間企業の対応を二つのパターンに分類しています。「一つ目は、事業規模を縮小するケースで、大規模な事業を小規模事業に移行し、最終的に事業を閉鎖する」と王氏は語ります。そして、「二つ目は、政府関連のプロジェクトに限定して事業を継続する方法で、案件があれば対応し、なければ何もしない極めて消極的な戦略を取る」と話しました。
米国在住の中国企業家である胡力任氏は、中国当局の姿勢について、「浙江省政府が『遠洋漁業』の具体的な事例を公表し、記者会見を開いた。彼らは企業家を守りたいというメッセージを伝えたかったかもしれないが、徒労だ。『遠洋漁業』の事例は無数に存在し、政府の保護体制は機能していない」と指摘しました。
胡氏によると、中国では多くの企業家まで「躺平(タンピン)」を選択し、隠居しているとのことです。胡氏は、「現在ではインターネットを使えば遠くにいてもコミュニケーションを取ることができる。そのため、多くの企業家は事業を閉じ、雲南省や貴州省といった自然豊かな地域に移り住んで休養をとっている」と述べました。
一方、より大胆な対応を取る企業家もいます。例えば、国内に借金を残したまま国外に逃亡するケースです。中国の企業家たちは現在、アメリカやカナダ、ヨーロッパ、オーストラリアなど、世界各地に逃げています。これは一種の「反動形成」であるとの指摘もあります。彼らの考えは単純明快です。「これまで政府に多額の税金を納めてきた。しかし、政府自らが経済の崩壊を招いた。なのに、何ら救済措置もない」と企業家たちは考えています。このような不満から、国内に借金を残し、資産を現金化して国外に脱出するという手段を取っています。
実際、中国国内では2024年上半期だけで数多くの企業が破産を宣告しました。中国の裁判所が公表したデータによると、100社以上の不動産関連企業、60社のインテリア業者、30社の照明関連企業が破産または清算を発表しました。また、化学関連産業を専門とする「世界化工ネット」のデータによれば、化学企業だけで1,000社以上が破産を宣告しました。さらに、中国登記プラットフォーム「企査査(きささ)」のデータでは、登録された飲食店の軒数が2024年だけで約100万店減少しています。
(翻訳・唐木 衛)