中国国家女子体操チームの元選手である呉柳芳氏は最近、中国版TikTokである抖音に、セクシーダンスの動画を投稿したことをきっかけに、広範な議論を巻き起こしました。彼女のダンスは「国家アスリートのイメージを損なう」と批判され、最終的に動画はプラットフォームから削除され、彼女の抖音アカウントも利用制限を受けました。この出来事は、引退後のアスリートが直面する生計の難しさを、浮き彫りにするだけでなく、引退後、呉柳芳氏は競技時代の輝かしい栄光を、引き継ぐことができず、一時は生活が困難な状況に陥りました。
最初に選んだ収入源はライブ配信でしたが、内容が単調で視聴者を集めることができず、月収はわずか3,000~4,000元程度にとどまりました。さらに、毎日6時間以上の配信が求められる、過酷な労働環境により、最終的に継続することができなくなりました。2019年には杭州の教育機関で教師を務めましたが、雇用主による給与の未払いに遭い、憤然として辞職。その後、嘉興の体育学校でコーチとして働きましたが、2年間の勤務後、最初に約束されていた正式採用枠を、他の人に奪われてしまいました。生計を立てるため、彼女は再び、ライブ配信に戻らざるを得なくなりました。
今年3月、呉柳芳氏はライブ配信を再開し、ネットアイドルとしての活動を試みました。11月にはセクシーダンスの動画を連続して投稿し、ガーターや黒タイツ、胸元が大きく開いた衣装、超短いホットパンツで、美しいスタイルを披露しました。しかし、この「セクシーダンス」はすぐに世論の強い反発を招き、多くの人々が「いやらしい」と非難し、「国家アスリートのイメージを損なう」と批判しました。一部のネットユーザーからは、「色気を売り物にして、注目を集めようとしている」という指摘もありました。
2021年東京オリンピックの平衡棒で、金メダルを獲得した同じ体操選手の管晨辰氏は、最初に公開の場で呉柳芳氏を批判しました。管氏は呉氏のコメント欄に「先輩、やるなら自分だけでやって、体操に汚名を着せないで」と書き込み、メディアのインタビューでは、「体操は神聖な競技だ。呉柳芳の行為は、体操に悪影響を与えている」と述べました。また、「体操チャンピオン」という肩書を利用しながら、公の場で露出度の高い衣装で、ダンスをする彼女の行為について、「色気を売り物にしているかどうかは、誰もが分かっている」と批判しました。
こうした批判にもかかわらず、この議論は意外にも呉柳芳氏に莫大な人気をもたらしました。それまでフォロワーが5万人未満だった彼女の抖音アカウントは、「管晨辰批判事件」の後、わずか1日で200万人以上のフォロワーを獲得しました。しかし、議論が激化する中、プラットフォームは11月24日に、彼女のアカウントを「フォロー禁止」に設定し、多数のセクシーダンス動画を削除しました。投稿動画は57本から7本に減少し、アカウントが解禁されたのは、12月1日になってからでした。予想に反して、解禁後の呉柳芳氏の人気は、さらに高まり、フォロワー数は600万人を超えました。
批判に対し、呉柳芳氏は動画で「注目を集めるためではなく、生活のためにやっている。私は運命を変えたいだけだ」と釈明。この発言は、多くのネットユーザーから共感を得ました。ある分析によれば、彼女の経験は、多くの中国人が直面する現状を反映しており、それが短期間で数百万人のフォロワーを、獲得する背景にあると指摘されています。現在の中国では失業率が高止まりし、多くの企業が大規模なリストラを行っています。その影響を受け、かつて会社に大きく貢献した従業員も、失業と生活苦の二重のプレッシャーに直面しています。
あるネットユーザーは「管晨辰はオリンピックで金メダルを獲得し、大量のメディア報道にも取り上げられました。彼女は人生の勝者であり、一生を天国のような環境で過ごすことができます。現実の冷酷さの中で生き残るために苦闘する痛みを知らないからこそ、道徳的な高みから、生活のために努力している人を批判することができるのです」とコメントしました。また、「本当に中国スポーツに汚点を残しているのは、現行体制ではないのか?国全体で幼少期から過酷な訓練を課し、数多くの栄誉を得たアスリートを引退後には顧みない。これこそ真の恥だ」と厳しい意見を述べる人もいました。
呉柳芳氏のケースは、中国で引退したアスリートが直面する、困難な状況を浮き彫りにしています。中国のアスリートの多くは、幼少期から閉鎖的な訓練環境で育ち、通常の学業を犠牲にして、国家のために全力を尽くしてきました。しかし、この単一的な育成モデルは、引退後のアスリートが、社会で必要とされる多様なスキルを欠く原因となり、生計に苦しむ状況を招いています。特に、オリンピックチャンピオンや、世界選手権の優勝者になれなかった選手にとって、引退後の生活は一層厳しいものとなります。中国では、トップアスリートに対して、大学教員のポジションや地方体育局の役職などが提供されるものの、これらの福利厚生はごく一部の人々に限られています。
専門家の中には、アスリートのキャリアプランニングが、スポーツ制度設計において重要な要素であると指摘する声もあります。例えば、オーストラリアのナショナルトレーニングセンターでは、キャリアプランニング専門の部署が設置されており、引退後のアスリートが、スムーズに社会に適応できるよう支援しています。しかし、西洋諸国でさえ、多様なスキルの育成には多くの課題があり、実際の運用面では困難を伴っています。中国では、スポーツ競技の競争が非常に激しいため、アスリートが閉鎖的な訓練環境で、多様な学習を行う時間を確保することは難しく、このことが引退後の適応問題を、さらに深刻化させています。
呉柳芳氏のケースは、中国社会における、個人の選択に対する不寛容さも明らかにしています。多くの批判者は、元国家アスリートという肩書が、彼女の行動に対する世間の期待と大きなギャップを生んだと考えています。カナダの時事評論家である公子沈氏は、この種の批判が中国社会のますます狭隘化する雰囲気を反映していると指摘しています。
(翻訳・吉原木子)