「牡丹」清・惲 寿平(うん じゅへい、1633-1690)(イメージ:パブリック・ドメイン)

 「天道は親なし、常に善人に与す」という古くからの言い伝えがあります。「天道は親しさによって分け隔てることなく衆生を平等に扱うが、徳を積むことは天道に一致している」という意味です。つまり天道は常に善人の味方をし、善人には神様のご加護があるということです。

 昔の人は、因果応報を信じ、利を軽んじて義を重んじました。困っている人がいれば助け、慈悲の心を持ってものごとと向き合うため、良い行いが報われ、福と徳に満ちています。天が善人の味方をし、祝福するのも、その美徳のためなのです。

 では北宋時代の因果応報(いんかおうほう)にまつわる物語をいくつか見ていきましょう。

粥(せがゆ)の報い

 延平沙県(えんぺいさけん)には祝染(しゅくせん)という人がいました。勤勉で、質素な生活を送り、善行や喜捨をよくしました。凶作の年に、おかゆを施し、そのおかげで数万もの人々が餓死を免れました。のちに、祝染には男の子が生まれ、利口で勉学に励みました。そして舉人に合格し、殿試に参加しました。結果発表の前夜、多くの人が、黄色の服を着た使者が「施粥の報い」という文字が書かれた状元(しょうげん)(注1)の名簿を持って、祝染の家の前に立つ夢を見ました。その後、祝染の息子は見事に状元に受かりました。

穀物を買い取り、人々を助ける

 四川省には黄兼済(こうけんさい)という人がいて、節操を守り礼と義を講じ、他人のためなら惜しみなく善行を行っていたため、周りの人からは善人と呼ばれていました。

 ある日、四川省成都府の府知事である張詠(ちょうえい)は不思議な夢を見ました。張詠は夢の中で紫府真君(しふしんくん)という神様と話していたところ、道士の服を着た黄兼済が来ました。紫府真君はわざわざ階段を下りて、黄兼済を張詠の席に迎えました。

 次の日、張詠は黄兼済を尋ねました。実際に会って、夢で見た人だと確信した張詠は夢のことを話しました。紫府真君に厚くもてなされた黄さんは、いったいどんな善行を積まれたのでしょうかと聞きました。

 黄兼済は、「大した事ではありません。ただ毎年、穀物が収穫される時に、三百串の銭(串=お金の単位)の価格で買い取り、翌年、収穫できず百姓が生活に苦しんでいるときに、買い取った価格で穀物を売っただけです。私には何一つ損益はないですが、民を助け、苦しい時を乗り越えさせました」と答えました。張詠は「それは私より上に座るべきです」と感心し、黄兼済を上座に座らせようと周りの官吏に命令し、黄兼済を厚くもてなし、善行への感謝を示しました。

 黄兼済は生涯、恙なく幸せな暮らしを送り、その子孫もまた、善良で名高い人物ばかりでした。

真珠を返す林積

 林積(りんせき)は、南剣州(みなみけんしゅう)出身の者です。少年のとき、殿試のために京へ向かった際に、蔡州(さいしゅう)の宿に泊まりました。宿の部屋に小包の落とし物があり、その中には数百粒の真珠がありました。林積は、昨日どんな人がこの部屋に泊まったのかと宿の支配人に聞いたところ、大商人とのことでした。林積は、これは自分の友人の落とし物だと支配人に伝え、自分の住所を教え訪ねてもらうように頼み込みました。

 さらに、支配人がこのことを忘れないように部屋の中に「某年某月某日、南剣州出身の林積という者が某所におりますので、探し物をしている人は訪ねて来てください」と書き残しました。

 その頃、大商人の張客(ちょう・かく)は真珠を落としたことにようやく気が付きました。「東奔西走して数年、やっと手に入れた真珠を無くしては、私と家族はどうやって生きていこう」と焦りながら探しまわり、林積が泊まった宿にたどり着きました。林積の伝言を聞いた張客はすぐ京に向かい、林積を訪ねました。

 林積は事情を確かめてから、真珠を全部張客に返しました。張客はたいへん感激し、真珠の半分を謝礼として林積に贈ろうとしましたが、林積は断固として受け取りませんでした。張客は、真珠の半分を売ったお金を使って、林積の生祀(せいし)(注2)を立て、真珠を返してもらった恩を返そうとしました。

 のちに、林積は科挙試験に合格し、循州(じゅんしゅう)の判官に任命されました。

 ある日、林積は海賊事件の裁判を任されました。林積の上司は昇進のため、林積に厳しく断罪するように命じ、そうすれば林積の昇進も保証すると言いました。しかし、林積は動じることなく、公正に裁判した結果、無実の58人を釈放しました。林積の上司はしばらくして朝廷から免職処分を下されました。一方の林積は後に三公(注3)まで昇進し、息子の二人も高い官職に就くことができました。

(出典:《太上感應篇例證》、《尤溪縣志.林積傳》)

(文・智真/ 翻訳・常夏)

注1:状元とは、中国の科挙制度で第一等の成績を修めた者に与える称号のこと。今でも中国などで、大学入試での成績最優秀者に使われる。
注2:生祀(せいし)とは、存命中の人間の霊をまつる建造物のこと。
注3:三公とは、最高位に位置する3つの官職。太師、太傅、太保を指すことが多い。