中国では外食産業の低迷が続く中、北京や上海など大都市の高級ホテルが相次いで、料理の残りを詰め合わせた格安セットを販売し始め、大きな話題になっています。
近年、深セン、上海、杭州、南京、重慶、北京といった一・二線都市では、ほぼすべての高級ホテルが当日の残り料理を詰め合わせた格安セットを打ち出しています。約220円前後の朝食セット、約650円前後の昼食セット、約880円〜2,200円前後の夕食セットまであり、その手頃さから多くの会社員が利用しています。SNSには「約440円でビュッフェ料理が4箱分入っていた」「香港のホテルのセットは量が多すぎて食べ切れない」「長沙の約350円セットは持つとずっしり重い」といった投稿が相次ぎ、その人気がうかがえます。
上海・陸家嘴の高級ホテルでは、約1,940円前後のセットに酔っ払い蟹や海鮮、ラムチョップ、牛肉などを自由に詰められ、容器いっぱいにすると数斤になるという映像も話題になっています。約880円前後で2箱購入し、肉料理がぎっしり詰まっていたという声もあります。南京の高級ホテルでは、約330円前後の朝食セットで点心やペストリーが詰まった大きな箱を持ち帰ることができます。
高級ホテルがこうした残り料理セットを販売する背景には、単なる話題作りではなく、景気の下振れが長引く中で業界全体が生き残りをかけている現実があります。中国の高級ホテルは長年、ビジネス出張、会議・宴会、富裕層の消費に大きく依存してきました。しかし、近年は外資企業の撤退や民間企業の出張費削減が常態化し、多くの企業が年会や接待を取りやめるなど、主要顧客の支出が大幅に落ち込んでいます。結婚式や接待を含む宴会需要も縮小し、かつては一人当たり数千元のコース料理を提供していたホテルでも、数百元のビュッフェですら満席にならない状況となっています。消費構造の変化は極めて顕著です。
一方、ホテルの運営コストは依然として高く、館内設備の維持、専門スタッフの確保、大規模な厨房運営など、多額の費用がかかります。しかし消費者側は節約を優先し、高額な飲食サービスに対して以前ほど支払おうとしません。客足が遠のけば遠のくほど赤字が膨らむという悪循環に陥り、ホテル業界の経営環境は厳しさを増しています。
さらに、ビュッフェは一定の品数を維持しなければ質の低下と見なされるため、客数が減っても仕込み量を大きく減らせません。その結果、毎日のように多くの食材が余り、従来は社員食堂か廃棄処分とされてきました。残り料理セットの販売は、こうした余剰食材をわずかでも現金化できる数少ない手段であり、業界内でも「これは革新ではなく、損失を抑えるための苦肉の策」と受け止められています。
一方で、こうした格安セットが急速に広まっている背景には、中国の一般市民の生活がかつてないほど逼迫している現実があります。給与の伸び悩み、ボーナスの削減、業界全体の収益悪化が続き、一・二線都市の若者ですら生活に余裕がなくなっています。収入は増えない一方で、住宅費、教育費、交通費、医療費は上昇を続け、家計の節約は避けられない状況になっています。このような中、数百円で数食分の牛肉や海鮮を持ち帰れる残り料理セットは、「最も費用対効果の高い選択」として受け入れられました。
こうした経済状況の変化に伴い、若者の消費観も大きく変わりました。かつてのように高級体験を重視するのではなく、限られた支出で最大の価値を得ることを重視し、共同購入や中古市場、節約生活が広がっています。残り料理セットが歓迎されるのは、お得感だけではなく、多くの若者が直面している経済の現実を反映しているためです。
このような流れの中で、高級ホテルは富裕層だけの空間ではなくなり、都市の一般市民とある種の共存関係を築きつつあります。ホテル側は損失を抑えたい、消費者は生活費を抑えたいという双方の思惑が一致した結果、残り料理セットが一気に普及しました。「月給数万円の若者が高級ホテルの残り料理を食べる」という光景は本来なら矛盾して見えるはずですが、現在の中国ではむしろ合理的な選択になりつつあります。
実際、多くの会社員は「高級ホテルを社食代わりにする」ようになっています。朝の約220円前後のセットで昼まで腹を満たし、夜は約880円前後のセットを二食に分けて翌日の昼食までまかなう。外食より安く、調理の手間もなく、味も十分に満足できる。SNSには「自分の専属シェフは高級ホテルのシェフだ」と冗談めかした投稿も見られます。
景気の低迷が続く中、こうした残り料理セットはホテル業界の苦境を映し出すだけではなく、都市生活者が現実と折り合いをつけながら生活を維持しようとする新たな手段として定着しつつあります。高級ホテルの残り料理が広く受け入れられている現象は、ホテル側の生存戦略と消費者の節約意識が交差した、現在の中国社会を象徴する出来事と言えます。
(翻訳・吉原木子)
