中国の新たな出入国管理規定が9月15日に施行されました。初日の上海と北京の空港では、出国手続きはおおむね平常どおりでしたが、係官が旅行者に質問する場面は増えていたようです。新規定では、管理機関が当事者に「電子データなどの情報」の提出を求められるとされており、個人のメッセージや会社の資料まで調べられるのではないかと不安視する声が出ています。

 当日の午前、上海浦東空港の出国ロビーは人もまばらで、手続きはほぼ通常どおり進んでいました。上海と香港を頻繁に行き来している趙さんは「特に変わったことはなかったよ。自動化ゲートを使ったからかもしれないけど。紙の旧型パスポートの人は有人ブースに並ばなきゃいけないからね」と話します。

 浦東空港で働く何さんによると、審査の強化はすでに内部で始まっており、9月15日は法律上正式に発効したというだけの日だそうです。「初めて出国する人は審査ブースでけっこう細かく調べられるし、税関は旅行者のスマホやパソコンを抜き打ちでチェックしてる」。当日、旅行者が連れて行かれる様子は見なかったものの、「だからって別室に連れて行かれた人がいないとは限らないよ」とも付け加えました。

 9月14日に上海から香港に着いた姚さんは、友人の体験を話しています。この友人は親族に会うため上海からアメリカへ向かおうとしたところ、出入国審査の係官に呼び止められたそうです。「親族に会う以外に何かするのか、何日いるのか、帰りの航空券は買ってあるのかって聞かれて、スマホやWeChat(微信)の中まで見られたんだって」。姚さんは、どういう場合に電子データの提出を求められるのか、新規定には何も書かれていないと指摘します。「今は出入国のたびにスマホの写真をひと通り確認して、FacebookやXのアプリも消してるよ。面倒なことになりたくないからね」

 北京首都空港の職員によると、ここ数日は出国する人が目に見えて減っています。「北京は審査が厳しいんじゃないかって、ほかの空港から出る人が多いらしいよ」。業界関係者の話では、北京と上海の空港はもともと他の都市より審査が厳しく、ここ数年は杭州や武漢、成都などから出国する人も増えているそうです。

 この規定は、日本の内閣に相当する中国国務院が7月31日に公布したものです。第3条では、管理機関が当事者に「文書や資料、電子データなどの情報の提示・提出を求めることができる」とされています。第4条では、中国国民が輸出管理や技術輸出入管理などの規定に違反し、国家の産業安全や技術安全を損なうおそれがある場合、所管部門が出国を認めないと決定できると定めています。国営メディアは以前、「一般人の出国が全面的に厳しくなる」という見方は新規定の「誤読」だと報じましたが、ネット上では冷ややかな反応が相次ぎました。

 上海の弁護士、黄さんは、新規定は当局が近年掲げる「総体的国家安全観」の流れをくむものだとみています。「独裁体制というのは、権力が脅かされるのを何より恐れるものなんだ。輸出管理だろうが技術管理だろうが国家安全だろうが、最終的には人の出入国を制限する話につながっていく」

 実は新規定の施行前から、各地の空港などで出国を止められる人が相次いでいると伝えられていました。パスポートを申請したときや出国審査の段階になって初めて、自分が出国制限リストに載っていると知る人も少なくありません。こうしたリストがどのように作られているのか、その手がかりとなるのが、流出した2017年の新疆ウイグル自治区イリ州公安当局の内部マニュアルです。

 マニュアルによると、新疆ウイグル自治区公安庁は35種類の「出国制限対象者」を定め、イリ州の公安当局はさらに、海外から戻ってくる人を警戒する「帰国者警戒」の重点対象として17種類を加えています。合わせて52種類です。対象には事件の関係者や体制に批判的な人だけでなく、ごく普通の人の暮らしの選択まで数多く含まれています。たとえば「家計が特に裕福でもないのに海外へ留学する人」はリスクがあるとみなされ、「海外の通信アプリで国外の人と頻繁に連絡を取る人」も対象になっています。多くの項目には「その親族や主な交友関係者」という連座の規定も付いており、一人が目を付けられれば、家族や友人までまとめて出国を制限されかねません。リストの最後には「公安機関が、出国後に国家の安全を脅かすと判断したその他の者」という、いわば何でも当てはめられる条項まで設けられており、現場の警察官がほぼ思いどおりに対象者を決められる仕組みになっています。

 帰国者警戒の対象とされた人は、帰国の際に空港などで長時間の取り調べを受け、スマホやパソコンのロック解除を迫られてデータを調べられることがあります。入国時に止められなかったとしても、地元に戻るとシステムから警報が届き、地域の警察官は7日以内に本人に直接会い、少なくとも90日間は監視と確認を続けるよう求められます。少しでも疑わしいと判断されれば、「再教育」のための施設に送られることもあるとされています。

 もともと新疆で使われていたこうした管理の手法は、いまや全国に広がりつつあるようです。長く海外で働いているという女性は、最近帰国してから警察に海外での仕事や出入国の状況を何度も確認され、母親のもとにまで連絡が来たとネットに投稿しています。再び出国する予定だと分かると、警察は彼女に派出所へ来るよう求めました。パスポートや卒業証書、採用通知、雇用契約書まで持って行ったものの、「まったく出番がなかった」そうです。警察は彼女にスマホのロックを解除させると、端末をそのまま持ち去り、2時間にわたってデータを収集しました。

 新規定の施行とともに審査の手法も厳しさを増すなか、かつて新疆で試された「出ることもできず、戻れば調べられる」という網は、一般市民にまで及びつつあります。

(翻訳・吉原木子)