「60台の車のうち、脱出できたのは10台だけだった」これは映画の災害シーンではありません。7月26日、甘粛省のある観光地で実際に起きた光景です。目の前で人が流されていくのに、誰も助けることができませんでした。同じ日、四川省の九寨溝(きゅうさいこう)では、観光客が泥水の中を歩いて山を下り、命からがら避難するしかありませんでした。ここ数日、中国でいったい何が起きているのでしょうか。
ここ数日、中国のSNSに注目していた人なら、ある異変に気づいたはずです。鉄砲水、土石流、山崩れのニュースがほとんど途切れることなく、息つく間もないほど次から次へと伝えられています。今回は、この一連の災害をつなげて見ながら、いったい何が起きているのか、そして公式発表と現場の目撃者の証言に、どれほどの食い違いがあるのかを見ていきます。
まず、最も日にちが近い被害から見ていきます。7月26日午後、甘粛省定西市(ていせいし)の双石門(そうせきもん)観光地で、突然、鉄砲水が発生しました。公式発表によると、同日午後6時までに10人が死亡し、23人がけがをし、174人が救助されました。しかし、脱出した観光客が大紀元の記者に語った状況は、公式発表の数字よりはるかに深刻でした。
観光客・劉さんは、5人の一行は全員無事だったものの、車は洪水に流されたと話しました。「水の勢いがあまりにも強く、道路まで流されてしまい、逃げることができなかった」
当時、多くの人が川の中や川沿いでキャンプをしており、流された人の多くは、谷間や車の中で雨宿りをしていた人たちだったといいます。劉さんは当時、山の上にいましたが、洪水が押し寄せてくるのを見ると、すぐに山の下にいた仲間へ電話をかけ、車を道路脇へ移動させるよう伝えたため、かろうじて被害を免れました。山の上には200人を超える観光客が集まっており、豪雨が降ったのはおよそ30分間で、すべてが突然起きたと話しています。
劉は衝撃的な言葉を口にしました。「60台の車のうち、出てこられたのは10台だけだった。山の上から、人が(被洪水)流されていくのを、ただ見ているしかなかった」
しかし、観光地の管理当局は、事前に警報を出していませんでした。被害を免れた別の観光客も記者に対し、現地を訪れたとき、ちょうど大雨が降りそうだったため、中には入ラズ、結果的に助かったと証言しています。その観光客の友人が無事だったのも、川沿いでキャンプをしていなかったからでした。これらの証言をつなぎ合わせると、一つの事実がはっきりと浮かび上がります。この悲劇は、本来なら避けられた可能性があったのです。
同じ日の午後、四川省の九寨溝観光地でも災害が発生しました。突然の土石流と一部の山崩れによって道路が寸断され、大勢の観光客が山の上に取り残されました。観光客たちは、ぬかるんだ滑りやすい山道を歩いて下山するしかありませんでした。
メディアの取材を受けた上海市から来た女性観光客によると、午後4時半ごろ、仲間と観光地の観光バスに乗って見学していたところ、途中で突然、車両が通行できなくなりました。足止めされた観光客は全員バスから降り、人の流れに従って歩き、避難することになりました。3キロから4キロほど歩いたときには、すでに疲れ果てていたといいます。
取材に対し、女性は今、最も望んでいることをこう話しました。「ただ一刻も早く山を下りて、家に帰りたい」
ここまで見て、こう疑問に思うかもしれません。ここ数日の中国は、たまたま不運が重なったのでしょうか。それとも、こうした災害は以前から起き続けていたものの、私たちが普段あまり注目していなかっただけなのでしょうか。
その答えは、さらに意外なものかもしれません。
双石門の鉄砲水が発生する2日前、山西省臨汾市(りんふんし)のある村では、黄土でできた斜面が崩れ、民家一軒が丸ごと土砂に埋まりました。8人が閉じ込められ、最終的に5人が死亡し、3人が救助されて病院へ搬送されました。
この地域はもともと、丘陵地や山のふもとの傾斜地、川沿いの段丘が多い地形です。丘陵地は県全体の面積の3分の1を占めており、もともと地滑りや土砂崩れが発生しやすい危険な地域でした。
さらに、それ以前に重慶市彭水県(ほうすいけん)で発生した大規模な山崩れでは、公式の最新発表による死者数が14人に増え、50人が行方不明、10人がけがをしています。
しかし、現地のネットユーザーからは疑問の声が上がっています。現場では十数棟の建物が土砂に埋まり、通りかかった旅客バスも巻き込まれたとされているため、実際の死者数は「絶対に公式発表を下回ることはない」と指摘しています。
さらにさかのぼると、7月7日、甘粛省隴南市(ろうなんし)のある村でも地滑りが発生し、少なくとも21人が死亡し、7人がけがをしました。
つまり、わずか3週間足らずの間に、甘粛省、四川省、山西省、重慶市など、中国南西部から華北地方にかけて、少なくとも5件の大規模な鉄砲水、地滑り、山崩れが発生したことになります。どの災害でも死傷者が出ており、ほぼすべての現場で、地元住民や目撃者が「公式発表の数字と、現場で見た状況が違う」と証言しています。
これは、もはや一つの事故が偶然起きたという問題ではありません。同じような状況が繰り返される、一つのパターンとなっています。
では、なぜ今年は自然災害が特に深刻なのでしょうか。
気象学的には、台風10号の残った雨雲と、東北地方上空の寒冷渦、さらに南西モンスーンが重なったことが原因とされています。7月上旬から、中国南部、中部、東部では極端な大雨が続き、一部の地域では降雨の強さが過去の記録を更新しました。長江、珠江、海河など、多くの河川で大規模な洪水が発生しています。
さらに台風9号が上陸し、残った雨雲が北上して冷たい空気と重なったことで、被害の範囲は華北地方や中国東北部にまで拡大しました。
中国政権の応急管理省も、地球温暖化と、いわゆる「スーパーエルニーニョ」現象が重なった影響により、今年は中国で極端な気象現象の発生頻度も強さも増していると認めています。7月には中国北部、東部、中南部、南西部、北西部の多くの地域で、地滑りや土砂崩れなどの災害リスクが例年より高くなっているとしています。
しかし、自然災害だけが原因なのでしょうか。人為的な問題はなかったのでしょうか。
双石門では、豪雨が降る前に観光地側から警報はまったく出されませんでした。観光客は「料金を取ることしか考えていなかった」と話しています。
山間部の川沿いでテントを張ったり、キャンプをしたりすることには、もともと危険が伴います。しかし、管理や規制はほとんど行われず、危険への対応を観光客任せにし、事実上放置していたとも言えます。
そして事故が起きるたびに、地方政府が死者数を少なく発表したり、報告を遅らせたり、事実を隠したりする行為が繰り返されています。そのため外部からは、これらの災害で実際に何人が命を奪われたのか、そして今も説明を待ち続けている家族がどれほどいるのか、知ることが困難になっています。
「60台の車のうち、出てこられたのは10台だけだった」
この言葉の裏に隠された数字は、永遠に公式発表に記載されることがないのかもしれません。
(翻訳・藍彧)
