中国広東省深セン市で、隣の部屋の火事に気づいた女性が119番通報したあと、指示に従って現場の動画を送ろうとしたところ、スマートフォンのブラウザに全画面広告が二度続けて表示され、送信までに1分近くかかりました。この出来事はネット上で大きな反響を呼び、以前から批判の多いアプリの起動時広告があらためて注目されています。

 中国メディアによりますと、9月2日、深セン市の張さん(仮名)がSNSに投稿しました。同じマンションの隣の部屋から出火し、ベランダから炎が噴き出しているのに気づいた張さんは、すぐに119番に通報しました。電話を受けた職員は消防隊を出動させると同時に、火の勢いを判断する材料にしたいとして、現場の動画を送るためのリンクをSMSで送ってきました。

 張さんがリンクを開くと、画面にまず現れたのは全画面の広告でした。急いで閉じようとして誤って画面に触れてしまい、ブラウザごと消えてしまったため、SMSに戻ってリンクを押し直すことになりました。二度目も同じ広告が出て、今度は「スキップ」を選び、ようやく消防の画面にたどり着いて動画を送ることができました。ここまでにかかった時間は、およそ30秒から1分です。

 張さんは、通報する前に近所の人がすでに119番していたので助かった、と話しています。消防車は約2分後に到着し、火事による深刻な被害はありませんでしたが、思い返すと今も肝が冷えるといいます。
翻訳・吉原木子

 深セン市消防救援局の指令センターは2日夜、119番を受けた時点ですぐに出動の手続きに入っており、動画の送信が出動の遅れにつながることはない、と説明しました。そのうえで、女性が目にした広告は本人のスマートフォンのブラウザアプリが配信したもので、消防が送ったリンクとは直接の関係はないとしています。

 この説明は広告の出どころをブラウザ側に向けるものですが、なぜ通報から現場の確認に至る経路に商業広告が入り込むのか、という点には触れていません。

 ネット上では、自分も同じような目に遭ったという声が相次ぎました。高速道路でカーナビを使っていたところ広告で画面が切り替わり、大型トラックに追突しかけたという人もいれば、QRコードを読み取ってバスに乗ろうとして、広告に誘導され、気づかないうちに有料サービスを契約しかけたという人もいます。救急車を呼ぼうと電話をかけた際に広告が画面をふさぎ、なかなかつながらなかったという声も出ています。

 同じような苦情はこれまでにも数多く寄せられてきました。今年1月には、バスの運行状況を知らせるアプリを開くとまず全画面広告が表示され、使っている途中でもう一度広告が出たり、端末を振る動きを検知して勝手に別の画面に飛んだりすると訴える市民がいました。バスに乗るには一秒を争うのに、その前に広告の中から閉じるボタンを探さなければならない、というわけです。6月には、フォロワー274万人の動画投稿者が、運転中に音声でナビを立ち上げて地図を開いたところ全画面広告が現れ、車の揺れが「振ると別の画面に飛ぶ」仕組みを作動させて、外部のサイトに切り替わってしまい、一瞬、運転どころではなくなったと投稿しています。

 もっとも、この種の広告に法律がないわけではありません。中国の広告法44条は、ポップアップなどの形で表示するインターネット広告について、閉じるためのボタンをはっきり示し、一度の操作で閉じられるようにしなければならないと定めています。インターネット広告に関する管理規則の10条はさらに踏み込み、閉じるボタンが実際には機能しないもの、見分けにくいもの、どこにあるか探しにくいもの、二度以上押さないと閉じられないものなどを禁じています。

 問題は罰則の側にあります。同じ規則の26条によれば、これらに違反した場合、地方の市場監督管理部門が是正を命じ、従わないときの過料は5000元から3万元、日本円でおよそ10万円から60万円です。膨大な利用者を抱え、起動直後の数秒間を広告枠として売っているブラウザにとって、上限が3万元という水準はほとんど痛手になりません。

 今回の一件には中国メディアも一斉に批判を寄せました。市民が公共の救助ルートを通ろうとすると、入り口で大きな広告看板を見せられることになる、と書いた論評があります。プラットフォームの収益のために利用者が時間を削られるのは当然だと誰が決めたのか、通報や救急、災害の警報といった場面で、広告とのやり取りに費やす時間の余裕があるのか、と問いかけた論評もありました。

 ネット上の反応はもっと辛辣でした。「普段アプリで広告を見せられるのは我慢するとして、人の命がかかった場面にまで広告を差し込むとは思わなかった」「命に関わるのに、まず広告を見ろっていうのか」「広告を見て火を消せと」「あの世に行く前にも1分の広告を見て、掛け声までかけないと死なせてもらえないらしい」。