7月20日、中国四川省内江市(ないこうし)で不可解な光景が見られました。何日も雨が降っていなかったにもかかわらず、街が何の前触れもなく、突然押し寄せた洪水にのみ込まれたのです。ネットに流出した映像には、濁流が家具やさまざまな物を巻き込みながら激しく流れ、子どもまで急流に流される様子が映っていました。沿道の商店や住民は不意を突かれ、店や家から飛び出し、必死に家財を運び出していました。
目撃者によると、街の水深は一時ふくらはぎほどに達し、水の流れは異常なほど激しかったといいます。不可解なのは、現地では何日も雨が降っておらず、川の水位にも上昇が見られなかったことです。この突然の洪水がどこから来たのか、さまざまな臆測が飛び交いました。
中国メディア「新京報」によると、当局は近くの農場にある養魚池の堤防が崩れ、池の水が下方の街へ流れ込んだことが原因だと説明しています。農場側は、二次災害を防ぐため堤防の緊急補修に全力を挙げているとしています。現地政府も、災害後の対応や被害額の集計を始めたと発表しましたが、現時点で死傷者の有無は明らかにしていません。
しかし、この説明に納得しないネットユーザーも少なくありません。海外のSNSでは、次々と疑問の声が上がりました。
「晴れているのに洪水?これは放流じゃないのか!」
「明らかに、どこかのダムがまたこっそり放流したんだろう」
「ダムを放流したのに全く知らせないなんて、人命を何とも思っていない」
「この国が共産党に支配され、国民は苦しめられている」
地方政府がダム放流の真相を隠しているのではないかとの批判が集中しました。
同じ日、湖南省株洲市(しゅうしゅうし)は突然の豪雨に襲われ、市街地で深刻な浸水被害が発生しました。最も深い場所では水深が2メートルを超え、複数の車が屋根近くまで水没しました。ネットに投稿された映像には、道路のマンホールのふたが水圧で吹き飛ばされ、噴き出した水が噴水のように高く上がる様子が映っています。撮影者は、驚いた様子でこう話しました。「水の威力はやはりすごい。わずか数時間で、こんなに一気に水位が上がった。本当に怖い!」
女性住民張さんは、水位があまりにも速く上昇したため、荷物を上の階へ運んでいる間にも水が押し寄せ、逃げられなくなったと振り返りました。「荷物を運んでいる間に水が上がってきて、もう出られなくなった。水深は2メートル以上あった」
現地の民営刺繍工場では、工場内の水深が一時1.2メートルに達し、冷蔵庫や洗濯機、生産設備などがすべて水につかり、使用できなくなりました。経営者の潘さんは、損失額が約2100万円(100万元)を超えると見積もっています。「家の資金をすべて工場に投じていた」と嘆き、被害は極めて深刻だと話しました。
一見すると別々に発生した二つの災害ですが、いずれも外部から長年疑問視されてきた同じ問題につながっています。中国各地のダムでは、異常気象の際に行われる放流やダム決壊の危険性について、どれほどの情報が隠されているのかという問題です。この疑問は、その少し前に広西チワン族自治区横州市(おうしゅうし)で発生した六藍ダム(ろくらんダム)の決壊事故によって、よりはっきりと浮かび上がりました。
7月6日、広西チワン族自治区横州市の六藍ダムでは、激しい雨の後に堤防の一部が崩れ、最終的に、当局の発表では「26人死亡、7人行方不明」という重大な被害が発生しました。広西チワン族自治区全体で39人が死亡し、9人が行方不明となった今回の洪水災害の中でも、最も多くの犠牲者が出た場所です。
この中規模ダムは1958年に建設が始まり、2025年には現地の水利局が、「問題のあるダム」から「模範的ダム」へ生まれ変わったと宣伝していました。しかし、ダムの複数の職員によると、2009年に始まった安全補強工事は、現在に至るまで完成検査に合格していなかったといいます。「完成検査を受けていないということは、多くの設備を設計どおりの性能で使用できないということだ」
2020年に作成されたダムの安全鑑定報告書にも、雨量や水位を観測・報告するシステムが以前から故障しており、修理されていなかったことが記されています。安全監視の方法も「原始的で時代遅れ」で、依然として職員が目視で数値を読み取らなければならない状態でした。
7月14日、中国メディア「南方週末」は、ダム管理所の謝植傑(しゃ・しょくけつ)所長へのインタビューを掲載し、決壊までの24時間に何が起きていたのかを報じました。
それによると、緊急時に使用する5基の放流ゲートが肝心な時に故障しました。さらに上流の水文観測所も、激しい雨のためデータを送信できなくなりました。本来は緊急放流の際、水圧によって崩れるよう設計されていた自壊式の堤防も、長年にわたって過積載の木材運搬車がを長年通行させていたため、異常なほど固く締め固められ、本来の役割を果たせなくなっていました。
謝所長は、事故当日、横州市長に救援を求めるようと、続けて11回電話をかけたものの、一度もつながらなかったと明かしました。「私たちには衛星電話がなかった。これは大きな問題だ。私はずっと電話をかけ続けたが、つながらなかった」
報道によると、ダム管理所の定員は74人でしたが、実際に配置されていた職員は45人しかいませんでした。事故当日、主要ダムで勤務していたのはわずか14人で、しかも別の小規模ダム4か所の管理も同時に担当しなければなりませんでした。
この報道は掲載からわずか1日で、中国国内のネット上から一斉に削除されました。海外に拠点を置くウェブサイト「中国数字時代」にのみ、記事のバッっ句アップが残されました。
真相に関する報道が封じられる一方で、内情を知る人物にも当局の調査が及びました。7月21日、中国共産党中央規律検査委員会と国家監察委員会のウェブサイトは、1972年生まれで、最高位の上級技術者資格を持つ呉啓仁(ご・けいじん)が、重大な規律違反と法律違反の疑いで、規律審査と監察調査を受けていると発表しました。
呉啓仁は2025年2月から、中国三峡集団広西支社の法定代表者兼経営責任者を務めていました。中国の社会問題を長年追ってきたブロガーは、呉啓仁が私的な会食の場で、広西チワン族自治区の洪水災害や三峡ダムの内部事情を漏らしたため、問題になったと投稿しています。「今、上層部は全力で隠そうとしている。そんな中で不用意に口を滑らせたため、問題になった」
情報提供者によると、呉啓仁は、横州市の洪水で、ある母親が自分と3人の子どもをロープで結び付けたものの、最終的に全員が死亡したと話していたといいます。また、捜索現場では、川の水が逆流する場所から数百体の遺体が発見され、「その光景を見て足の力が抜けた」とも語っていたとされています。
これらの情報では、当局が発表した「39人死亡、9人行方不明」という数字と大きく食い違っています。災害が発生すると、当局が簡略化した説明を発表し、それに対する疑問の声はすぐに抑え込まれます。そして真相を追及する人物も、次々と公の場から姿を消していきます。
中国各地のダムや堤防に、まだ公表されていない危険がどれほど隠されているのか。その答えを外部の人々が知ることは、現在も極めて困難な状況です。
(翻訳・藍彧)
