世界中の人々がサッカーの祭典に熱狂する中、中国の人々はテレビの前で傍観者として試合を見つめるしかありません。2026年のFIFAワールドカップは、アメリカ・カナダ・メキシコの3か国で盛り上がりを見せています。今大会は史上初めて出場チームが48チームに拡大され、過去最大規模の大会となりました。ピッチでは前回王者のアルゼンチン、2度の優勝を誇るフランス、5度の世界王者ブラジル、さらにドイツ、スペイン、イングランドといった強豪国が次々と登場し、世界最高峰の戦いを繰り広げています。

 また今大会では、多くの歴史的な「初出場」も生まれました。パナマ、アンティグア・バーブーダ、コソボなどの小国が初めてワールドカップの舞台に立っています。人口200万人にも満たず、国土面積も北京市より小さいコソボが、不屈の精神でワールドカップ出場を果たしたのです。世界では50億人を超えるサッカーファンが4年に一度の祭典に熱狂し、SNSでは1ゴールごとに数億件もの反応が巻き起こっています。

 しかし、人口14億人を抱え、世界第2位の経済大国である中国は、再びこの祭典に姿を見せることができませんでした。中国男子代表は何大会も連続してワールドカップ出場を逃しています。最後にワールドカップの舞台に立ったのは2002年の日韓大会で、それは今なお中国男子代表にとって唯一の本大会出場です。当時はグループリーグ3戦全敗、1得点も挙げられずに敗退しました。その後20年以上にわたり、中国サッカーは改革と巨額投資を繰り返してきましたが、再びワールドカップの扉を開くことはできませんでした。

 さらに皮肉なことに、中国男子代表が再びワールドカップ出場を逃した今、広州市にある、かつて中国サッカーの夢を託された巨大スタジアムもまた、別の形で中国サッカーの虚しさと悲哀を象徴する存在となっています。この未完成のスタジアムの経緯を理解するには、まず広州恒大の黄金時代を振り返る必要があります。

 2010年、中国の不動産市場が絶頂期を迎えていた頃、恒大グループ創業者の許家印は約23億円(1億元)を投じ、八百長事件で処分を受け2部リーグへ降格していた広州広薬を買収し、「広州恒大」へと改名しました。これが、中国における「資金力にものを言わせるサッカー時代」の幕開けでした。

 当時の許家印は勢いに乗り、2006年ワールドカップでイタリアを優勝に導いた名将リッピ(Lippi)監督や、2002年ワールドカップでブラジルを優勝させたスコラーリ(Scolari)監督を招きました。さらに巨額を投じて、ブラジルの中盤の名手コンカ(Conca)や、高額な移籍金で獲得したパウリーニョ(Paulinho)など、世界的スター選手を次々と獲得しました。この陣容は、当時のアジアでは他に並ぶものがありませんでした。

 こうした時代背景の中、2020年、絶頂期にあった恒大グループは驚くべき計画を発表します。広州市で取得した約1600億円(68億元)の土地に、総工費約2760億円(120億元)を投じ、10万人を収容できる新スタジアムを建設するというものでした。これはイギリスのウェンブリー・スタジアムやスペインのカンプ・ノウを上回る、世界最大のサッカースタジアムとなる計画でした。この発表に全国が注目し、多くのサッカーファンは中国サッカーの輝かしい未来が目前にあるかのような興奮に包まれました。

 しかし、事態は急変します。スタジアム建設が始まって間もなく、恒大帝国を覆っていた巨額の負債問題が隠しきれなくなりました。2021年には恒大の資産運用商品が債務不履行に陥り、数万人の投資家が資金を失いました。

 2022年末には、恒大の負債総額は約58兆円(2.44兆元)に膨れ上がり、史上でも最大級の負債を抱える不動産企業の一つとなりました。2023年9月、かつて総資産約7兆円(2900億元)を誇り、中国一の富豪となった許家印は、当局によって身柄を拘束されました。今年3月には恒大地産の深セン法人が正式に破産清算を宣告され、4月14日には許家印の一審公判が開かれました。許家印(67歳)は資金詐取など8つの罪に問われ、法廷で罪を認め、いずれの起訴内容についても反論しませんでした。

 恒大の崩壊とともに、広州市の巨大スタジアムも工事が停止し、この世紀的な債務危機を象徴する最も衝撃的な負の遺産の一つとなったのです。

 2022年10月、国有企業の広州城投が約750億円(31.5億元)でこのプロジェクトを引き継ぎ、「広州サッカー公園」と改名されました。建設は中国建築第四工程局が担当しています。スタジアムの収容人数は当初の10万人から7万3000人へ縮小されましたが、それでも国内最大規模であり、世界でもトップ10に入る規模です。周辺にはスポーツをテーマにした複合施設、屋外スポーツ公園、マンションや住宅などが整備される計画で、青写真だけを見れば今なお壮大なものです。

 しかし今年4月、ある動画投稿者が現地を訪れて公開した動画では、この半年間ほとんど工事が進んでいないことが明らかになりました。工事現場は静まり返り、未完成のまま放置された雰囲気が漂っていました。現在は恒大の債務整理の結果を待っている状態で、いつ工事が再開されるのか、いつ完成するのかは、依然として全く見通しが立っていません。

 6月22日には、香港紙『信報』の記者が現地を訪れました。そこに広がっていたのは、ため息を誘う光景でした。スタジアムの外壁や内部の内装工事は未完成のままで、周辺施設もほとんど整備されていません。広大な敷地の中で、すでに入居が始まっているのは10棟のマンションだけでした。工事現場には数人の作業員が出入りするだけで、作業員の登録や健康診断を行うための「ワンストップ入場サービスセンター」もすでに閉鎖されていました。

 入口の警備員は、工事が遅れていることを認め、「完成まではまだかなり時間がかかる」と語っています。スタジアムの向かい側でマンション販売をしている不動産仲介業者によると、このプロジェクトは昨年末、資金不足で数か月間工事が停止していたものの、その後、政府から資金が投入され、今年の旧正月後にようやく工事が再開されたといいます。施工会社の従業員の一人は苦笑いを浮かべながら、「たぶん、一生かかっても完成しないだろう」と漏らしました。

 ワールドカップの会場では、ファンの歓声が北米3か国に響き渡り、1つひとつのゴールが世界中の人々の心を揺さぶっています。一方で、広州市に残され、雑草と足場に囲まれた未完成のスタジアムは、沈黙のまま、ある物語を語り続けています。

 それは、バブルの物語であり、虚栄の物語であり、そして夢と現実の間に横たわる、あまりにも大きな溝の物語です。かつて国民の大きな期待を背負い、2度にわたりアジアの頂点に立った広州恒大サッカークラブは、2025年1月に正式に解散を発表し、中国プロサッカー界から姿を消しました。資金力にものを言わせたサッカーの宴は終わりました。

 残されたのは、数十兆円規模の負債、引き渡されない住宅を待つ無数の購入者、今なお返済を求めて奔走する債権者たち、そして、いつになれば最初のホイッスルが鳴り響くのか分からない、一つの未完成の巨大スタジアムだけなのです。

(翻訳・藍彧)