1987年の冷戦時代、19歳の西ドイツの青年が単発の小型飛行機を操縦し、世界で最も厳重と言われたソ連の防空レーダーを奇跡的にかいくぐり、モスクワの赤の広場に着陸しました。この有名な「赤の広場事件」は、ソ連軍の威信を失墜させ、無敵の防空神話をも打ち砕きました。歴史は時に驚くほどの類似性を見せます。数十年が経った現在、これと酷似した劇的な事件が北京の上空で繰り広げられました。6月26日の午後、まだ空が明るい時間帯に、中国国産の軽量小型飛行機が、中国の最高指導部が拠点を置く中南海からわずか数キロしか離れていない、北京随一のランドマーク「CITICタワー(通称:中国尊)」に激突したのです。この出来事は、世界中のメディアから大きな注目を集めると同時に、北京が長年心血を注いで築き上げてきた警備神話に対し、かつてないほどの強い疑念を抱かせる結果となりました。

 高さ528メートル、全108階建てのCITICタワーは、北京の中心業務地区で威容を誇っています。その位置は政治的に極めてセンシティブな場所にあり、中国共産党指導部が執務や居住をする中南海からは目と鼻の先にあります。長期にわたり、この空域の管轄と高層建築の計画には極めて厳格な制限が設けられてきました。政治的中枢を見下ろしたり、潜在的な脅威となり得たりする要素は一切排除されてきたのです。しかし、まさにそのような厳重な保護の下にあるべきランドマークが、一見何の脅威も持たない小型飛行機によって、いとも簡単に防空網を突破されてしまいました。

 事件発生後、当局は情報の厳重な封鎖という常套手段を講じました。今日に至るまで、具体的な死傷者数、パイロットの動機、そして事件の真の原因は依然として伏せられたままです。しかし、情報化時代において、このような徹底した情報統制は、しばしば強烈な反発を招きます。沈黙すればするほど、国際社会の様々な憶測や、国内の民衆が抱く見えない不安を煽る結果となるからです。今回の衝突事件がもたらした心理的衝撃は、物理的な被害よりもはるかに深いと言えます。それは外部に向けて、ある不穏なシグナルを発信しました。すなわち、世界で最も巨大かつ高価な警備システムを持っていたとしても、脅威が外部の強敵からではなくシステムの内部から密かに現れた時、権力の中枢は依然として脆弱であるという事実です。「城塞は内部から崩れる」を地で行くこの出来事は、間違いなく上層部の安全保障に対する自信に、多大な心理的ショックを与えたことでしょう。

 公表されているデータを見る限り、北京の防空力はまさに鉄壁の守りと言えます。国際的な戦略シンクタンクの長期的な追跡調査によると、北京および周辺の河北省や天津市などの外郭地域は、中国大陸で最も防御密度の高い「中部戦区首都防空圏」を構成しています。その中核的な防衛線には20から30の地対空ミサイル大隊が密集し、数百発のミサイルが常に発射可能な状態で維持されており、厳重な防空網を形成しています。しかし、一部の海外メディアの分析は、この巨額の資金を投じて構築されたシステムが、実際には外側ばかり強固で内側が極めて脆い「見掛け倒し」の状態に陥っていると鋭く指摘しています。

 この防空網の根本的な弱点は、外部からの脅威のみを想定し、内部からの脅威を想定していないという戦術的な前提にあります。驚異的な抑止力を持つ防空陣地は、ほぼ100%が北京市の外周を走る「五環路」より外側の郊外や山頂に配備されており、その仮想敵は国外から飛来する高高度かつ高速の戦闘機や弾道ミサイルに設定されています。その結果、都市内部においては、超低空での防御に対する巨大で致命的な死角が生じています。

 今回のように内部から離陸する民間の飛行物体に直面した際、北京の警備システムは二つの大きな死角を露呈しました。第一の死角は、捕捉できないということです。実際のところ、現代の軍事や警備の分野において、低空、低速、小型の目標に対する防衛は、世界的に見ても技術的な難題とされています。軽量飛行機やドローンが都市のスカイラインすれすれを低空飛行する際、密集した鉄筋コンクリートの高層ビル群やガラス張りの外壁、さらには地上の車の流れさえもが、防空レーダーの画面上に膨大なノイズを生み出します。このような都市部特有の巨大なバックグラウンドノイズを取り除くため、レーダーシステムはしばしば感度を下げ、速度が遅くレーダーに反射しにくい目標を自動的に無視するように設定せざるを得ません。これは、騒々しいライブ会場で床に落ちた針の音を聞き分けるような困難を伴います。複雑な地形を隠れ蓑にして、この小型飛行機は巨費を投じたレーダーの死角に見事に潜り込んだのです。

 第二の死角は、迎撃できないことであり、これが最も厄介な現実です。北京の五環路内、特に中南海やビジネス街など、人口が極めて密集し政治的にも極めてセンシティブな都心部において、軍は常設の近距離防空機関砲を配備することなど到底できません。仮に今回のような小型飛行機を発見したとしても、都心部で防空ミサイルを発射することは大惨事を意味します。甚大な民間人の死傷者を出すだけでなく、計り知れない社会的なパニックを引き起こすからです。この「二次被害を恐れて手が出せない」というジレンマが、莫大な予算を投じて構築された防空網を、一機の安価な小型飛行機の前で完全に機能不全に陥らせました。CITICタワーに激突したこの小型飛行機は、ビルの外壁に穴を開けただけでなく、北京の警備システムの強固な外観の下に隠された脆さと無力感を浮き彫りにしたと言えます。

(翻訳・吉原木子)