毒性試験や危険廃棄物の処理を行う高リスクな実験室が、住宅街からわずか27メートルしか離れていない場所に建設されようとしています。この立地選定をめぐり、湖北省武漢市武昌区では地元住民による大規模な抗議デモが発生しました。6月10日以降、連日数百人の市民が抗議活動を行い、当局に工事の即時中止を求めています。その間、警察との激しい衝突も起きており、複数の抗議者が連行される事態へと発展しました。

 住民の強い反発を招いた最大の要因は、計画されているプロジェクトの立地と、それに伴う環境への影響です。公開された入札や計画の資料によると、湖北省生態環境科学研究院が主導し、2億元(約40億円)以上の投資が予定されているこの施設は、武昌区公正路28号に建設される予定です。施設内には、危険廃棄物の有害特性の識別、毒性試験、環境リスク評価を行う実験室や、サンプルの保管庫などが設けられるとされています。問題は、このような施設が人口の密集する都市の中心部に計画されていることです。ネット上で拡散されている「武昌区公正路周辺の皆様へ」という呼びかけの文章によると、建設予定地の周囲数百メートル圏内には複数の住宅地、学校、商業施設が集中しており、最も近いマンション「一号院第2期」からは約27メートルしか離れていません。排気や排水、危険物の管理に少しでも不備が生じれば、多くの住民の健康と生活環境が脅かされるとして、周辺住民は強い危機感を抱いています。

 こうした生活環境への切実な不安から、6月10日から16日の夜にかけて、数百人の地元住民が街頭での抗議行動に踏み切りました。複数の報道やSNS上の動画によると、住民たちは建設現場や湖北省生態環境庁の前に集まり、計画の見直しを訴えました。現場には多数の警察官が配備され、厳戒態勢が敷かれています。6月12日夜の映像には、住民たちが声を合わせて抗議する中、警察官に無理やり連行される男性や、揉み合いの中で地面に倒れ込む女性の姿が記録されていました。中には気を失って救急車で搬送される人もいたとされています。生態環境庁の前では、数十メートルに及ぶ列の中で座り込みを行う高齢者の姿も見られました。武昌区の住民である劉さんは、メディアの取材に対し、衝突の際に若い参加者が警察に連行されたと証言しています。

 高まる世論の反発と住民の訴えに対し、当局の対応は事務的なものにとどまっています。湖北省生態環境庁は、市民サービスホットライン(12345)を通じた回答の中で、プロジェクトの環境アセスメント報告書はすでに審査に提出されており、実験室の排気は適切に処理され、基準を満たした上で排出されると説明しました。また、建設予定の杭打ち地点と隣接するビルとの距離が近すぎるとの指摘については、建設請負業者の責任の範囲であるとする見解を示しています。

 しかし、このような公式見解が住民の理解を得ることは難しく、事態の収束には至っていません。湖北省の環境保護活動家である陳さんは、当局が環境アセスメントの手続きのみを理由に工事を進めるべきではないと指摘しています。万が一事故が起きた場合の責任の所在が不明確であること、そして何より事前の住民への説明や合意形成が著しく欠けていることが、今回の集団抗議を招いた根本的な原因であると述べています。陳さんはさらに、これまで中国各地で発生した化学工場やゴミ焼却場をめぐる建設反対運動(NIMBY問題)と同様に、住民参加のプロセスを経ずに強行されたプロジェクトは、結果的に頓挫することが多い点も強調しました。

 さらに、武漢という都市が抱える特殊な背景も、住民の不安を増幅させています。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行以降、武漢の研究所の安全管理に対して、国内外から厳しい視線が注がれるようになりました。このような歴史的背景があるからこそ、今回の危険廃棄物処理施設の建設計画は、地元住民の警戒心を強く刺激する結果となっています。

 現在、この抗議デモに関する情報は、中国国内のインターネット上で厳しく統制されています。微博(Weibo)、抖音(TikTokの中国版)、小紅書(RED)などの主要SNSでは、関連する画像や動画、議論の検索が制限されている状態です。一方で、これらの映像は検閲を逃れて海外のSNSに拡散されており、広く波紋を呼んでいます。ネット上では、十分な情報公開や住民協議を経ずに高リスクな施設建設を進めようとする当局の姿勢に対し、住民の安全や知る権利を軽視しているとの批判が相次いでいます。また、こうした不透明な対応が行政への不信感をさらに高め、人々のトラウマを再び呼び覚ましているとの声も上がっています。

(翻訳・吉原木子)