中国では結婚件数の減少と出生数の激減が続いており、政府が様々な手段で結婚を促す中、その状況を逆手にとった「短期スピード婚」という詐欺ビジネスが静かに蔓延しています。神聖な婚姻関係が金銭目的の短期契約に成り下がり、悪質な結婚相談所が暗躍しています。男性が高額な結納金を支払った直後、午前中に離婚したばかりの女性と午後に籍を入れるケースや、婚前診断で女性の梅毒感染が発覚するケースも起きています。入籍後すぐに女性が音信不通になり、あの手この手で離婚を迫って結納金を騙し取るのが典型的な手口です。
近年、貴州省貴陽市にある「花果園」と呼ばれる巨大住宅街などでは、このスピード婚を謳う詐欺グループが大規模に活動しています。結婚相談所と仲介業者が結託し、結婚を焦る地方の独身男性をターゲットに「全額返金保証」などの甘い言葉で素早く入籍へと誘導します。しかし、多くの被害男性は結婚後に女性の実態を知り、間もなく女性が金銭を持って逃走するため、財産も結婚相手も失う結果となっています。
実際の被害事例を見てみます。建設現場で働く江西省出身の33歳の男性は、2024年12月、貴州省の結婚相談所の紹介で「結婚歴は短く出産経験はない」と自称する女性とお見合いをしました。約600万円の結納金と手数料を支払うと、わずか4日後、女性は午前中に離婚手続きを済ませ、午後に男性と婚姻届を提出しました。ところが男性の実家に戻って2日も経たないうちに、女性は「友人のパーティーに行く」と言い残して失踪しました。不審に思った男性がSNSのスピード婚チャットグループを潜入調査した結果、業者が女性の借金や悪癖を故意に隠し、結婚後にわざと夫婦喧嘩を起こしてDV被害を偽装し、結納金の返還を拒みながら離婚する手口を指南していたことが判明しました。
湖北省に住む37歳の男性も同様の罠に陥りました。2024年11月、彼は別の業者から「離婚歴があり娘が1人、母親の治療費のために約90万円の借金がある」という女性を紹介されました。男性が計約560万円の費用と結納金を支払って結婚したものの、同居した5ヶ月間は口論が絶えませんでした。婚前診断で女性の梅毒感染が発覚しても、業者は「軽い病気ですぐ治る」と受け流しました。その後、女性のスマホから夜の店で働いていた過去や他の男性とのやり取りが発覚します。女性が音信不通になった後、彼女の親戚から、実は今回が3度目の結婚で子供が3人おり、借金も母親の治療費ではなく美容整形のためだったという事実を知らされたのです。
このような結婚詐欺の背後には、組織化されたシステムが存在します。かつて義理の弟を連れて前述の住宅街へお見合いに行ったある男性は、現地の手続きが異常なほど早いと証言しています。まず数十万円の手付金を払わせて健康診断を受けさせ、問題がなければ残りの数百万円を全額支払わせて入籍へと急がせます。業者が用意する女性の多くは複数回の離婚歴や子供がいました。効率よく稼ぐため、業者は女性に「わざと男性を怒らせて殴られる動画を撮り、弱みとして握る」といった早期離婚のノウハウまで訓練しています。現地を訪れた人のスマートフォンには、位置情報を利用してスピード婚を促す動画広告が次々と表示されるなど、手口は巧妙です。人口40万人のこの巨大住宅街は、今や特殊詐欺グループの拠点と見なされ、違法行為が公然と行われていると言います。
このような歪んだ取引の原型は、かつて一部の女性が結納金目当てに短期の結婚・離婚と出産を繰り返した「輪婚」に遡ります。現在のスピード婚詐欺は、出産というプロセスすら省かれた単なる金銭詐取へと悪化しています。海南省で長年家族問題などを扱うベテラン弁護士も、昨今の結納金をめぐるトラブルの背後には、こうしたスピード離婚の影が潜んでいると指摘しています。
根本的な原因は、長年の「一人っ子政策」がもたらした深刻な男女比の不均衡にあります。国勢調査によると中国の男性は女性より約3500万人多く、20代から40代の結婚適齢期ではその差が約1750万人に上ります。一部の農村部では男女比が13対2に達するなど極端な嫁不足が起きており、「跡継ぎを残すべき」という伝統的な重圧から、全財産をなげうつ独身男性が後を絶ちません。一方で、利益至上主義の風潮が広がる中、これが一部の女性や悪徳業者にとって効率のよい金儲けの手段となっているのです。
さらに皮肉なのは、政府の少子化対策が詐欺に悪用されている点です。結婚を促すために2023年から拡大された「省をまたいだ婚姻届の受理」政策は、本来の利便性向上という目的とは裏腹に、意図せず広域な結婚詐欺を容易にしてしまいました。詐欺の拠点とされる貴陽市では、この政策拡大以降、100以上の結婚仲介業者が異常な活発化を見せています。
事態に気づいた被害者からの訴えが増え、警察も一部の業者を摘発して逮捕者を出したり、関連法人の登録を抹消したりと動き始めています。しかし、被害届が出されてからようやく動くという現在の後手後手の対応では、組織化された新型詐欺に対抗しきれません。崩壊しつつある婚姻制度への信頼をいかに回復し、背後にある巨大な利益構造を断ち切るかが、中国社会に突きつけられた大きな課題となっています。
(翻訳・吉原木子)
