清華大学第一附属医院の小児科主任、靳永強(きん・えいきょう)医師は次のように説明しています。
 「雷が鳴って雨が降るたびに、なぜ救急外来がいっぱいになるのか。不思議に思う人も多いはずだ。最近はまた、柳の綿毛や花粉が空中を大量に舞う季節になっている。毎年この時期は、そこに雷雨まで重なると、救急外来に患者が一気に増える。さっきまで元気だった人が、次の瞬間には胸が苦しくなり、せきが出て、息ができなくなる。重い場合は窒息しかけて、救命処置が必要になることもある。これが最近よく耳にする『雷雨ぜんそく』だ」

 最近、中国南方では雷雨や強風、ひょうを伴う激しい対流性の天気が相次いでいます。そうした異常気象とともに広がっているのが、医学界で「雷雨ぜんそく」と呼ばれる呼吸器疾患の急増です。湖北省や湖南省など各地の病院によると、ここ最近、呼吸器科や救急外来の受診者が爆発的に増えており、多くの患者がせき、胸の圧迫感、息苦しさといった急性症状を訴えています。医療体制への負担も急速に強まっています。

 中国中央テレビや各地メディアの報道によると、4月8日夜から9日朝にかけて、武漢市で激しい雷雨が発生し、その直後から各病院の救急外来に患者が殺到しました。中部戦区総医院の救急医学科では、わずか数時間のうちに呼吸困難の患者42人を受け入れたとされています。注目すべきなのは、その大半が、それまでぜんそくの持病を持っていなかったことです。武漢協和医院のデータはさらに衝撃的で、過去72時間のあいだに、雷雨ぜんそくに関連する患者が287人に上ったとされています。

 同じような事態は、数百キロ離れた湖南省の省都・長沙市でも起きました。4月9日に雷雨が通過したあと、長沙市中心医院や長沙市第四医院など複数の医療機関で受診のピークが発生し、診察室の外には長い列ができました。湖南省児童医院の集計によると、4月9日夜から10日午前までのあいだに、救急外来ではせきや喘鳴(ぜいめい)の症状を訴える子ども60人以上を連続して受け入れました。このうち一部の子どもは症状が重く、すぐに酸素吸入やネブライザー治療が必要だったといいます。SNS上で拡散された現場映像や自媒体の報道では、長沙市中心医院の小児救急外来は人であふれ、待ち時間が一時4時間を超えたとされています。保護者たちは不安そうに順番を待ち、医療スタッフは休む間もなく次々と診察にあたり、救急エリア全体が張り詰めた空気に包まれていました。

 今回これほど大規模な発症が起きた理由について、医学の専門家は臨床面と気象面の両方から詳しく説明しています。いわゆる「雷雨ぜんそく」とは、雷雨の最中、あるいは雷雨直後の短い時間に、空気中のアレルゲン濃度が急激に上昇し、それによってぜんそく患者やアレルギーに敏感な人たちが一斉に急性発症する現象を指します。この概念はもともとオーストラリアやイギリスなどでの臨床観察から知られるようになりましたが、近年は中国南方でも発生頻度が目に見えて増えており、公衆衛生の分野でも強い関心を集めるようになっています。

 武漢大学人民医院の臨床研究では、この現象の背後にある生物物理学的な仕組みが系統的に分析されています。研究によると、雷雨のときは強い電場と高湿度の環境が生じ、空気中を漂う花粉が水分に触れることで急速に水を吸って膨張し、その後破裂してしまいます。すると、直径2.5マイクロメートル未満の超微粒子が何千、何万と発生します。こうした粒子は非常に小さいため、鼻で止まらず、そのまま下気道を通って肺の奥深くまで入り込み、激しい免疫反応や炎症を引き起こします。さらに研究では、破裂したあとの花粉粒子は、通常の完全な花粉よりも病原性が10倍以上高いと指摘されています。ふだんは花粉にあまり敏感でない人が、雷雨のあとに突然ぜんそくのような症状を起こすのは、そのためだとみられています。

 32歳のある患者は、発作時の感覚について、「呼吸をするたびにゼーゼーという音がして、胸の上に何かが強くのしかかっているようだった。まるで息を奪われるような感覚だった」と話しています。臨床データでは、今回受診した患者のうち約65%が、これまで一度もぜんそく症状を経験したことのない人だったとされます。この割合は通常のぜんそく発作とは大きく異なっており、雷雨ぜんそくの特殊性と、誰にでも起こりうる広い感受性を示しています。

 さらに不安を強めているのは、この「呼吸の危機」が武漢市や長沙市だけにとどまっていないように見えることです。浙江省や広東省などからも、同じ時期に鼻水、のどの痛み、激しいくしゃみといった上気道症状を訴える声がネット上に相次いでいます。

 さらに異常なのは、目立った雷雨がなかった陝西省西安市でも、一部の住民が「ふいごのような」喘鳴や激しい空せきに襲われ、病院でネブライザー治療を受けざるを得なかったと訴えている点です。現地の医師も一時、原因の判断に戸惑ったとされています。こうした地域をまたぐ症状報告が相次いだことで、今回の呼吸器疾患の原因はますます分かりにくくなっています。

 その一方で、もう一つのリスクも静かに重なり始めています。中国疾病予防コントロールセンターが最新の監視データとして公表した内容によると、全国のインフルエンザ陽性率はすでに3週連続で上昇しており、流行の中心もA型からB型へと移っています。特に5歳から14歳の子どもが主な高リスク層とされています。

 ネット上では、浙江省、湖南省、湖北省の一部ネットユーザーから、「今出ている症状はインフルエンザや新型コロナの感染ととても似ていて、自分では見分けがつかない」という声も出ています。

 これについて中国疾病予防コントロールセンターは警戒を呼びかけており、雷雨ぜんそくは、かつてのような北部限定の季節的な現象ではなく、すでに全国に広がる公衆衛生上の脅威へと変化していると指摘しています。

 専門家の分析では、雷雨ぜんそくとインフルエンザが同時に重なり、相互に悪影響を及ぼしている可能性も否定できないとされています。そうなれば、患者の症状はさらに複雑化し、重症化もしやすくなります。病院側には、これまで以上に高い鑑別診断能力が求められることになります。

 急増する受診需要を受け、武漢市救急センターはすでに警報を出しており、当面は救急要請への対応時間が長引く可能性があるとして、重症患者については緊急時に直接病院へ向かうよう呼びかけています。

 中国国家応急放送も緊急の注意喚起を出しています。現在はアレルギー性花粉の飛散がピークを迎えているため、アレルギー体質の人は雷雨の際、できるだけ窓やドアを閉めて室内にとどまること、外出が必要な場合はしっかり防護し、帰宅後は鼻や顔を洗うことが勧められています。

 現在、南部各地の衛生当局は感染状況と天候の変化を綿密に監視しながら、今後も続く可能性のある受診ピークに備えて医療資源の確保を進めています。

(翻訳・藍彧)