最近、中国河北省の邢台市で発生した「重病の家族を銀行に連れて行き、治療費を引き出そうとしたが拒否された」という事件が、多くの人々に衝撃を与えています。4月24日、末期の肝硬変を患い、すでに昏睡状態で口元から出血している石さんが、家族によって車椅子で現地の銀行窓口まで運ばれました。家族の目的はただ一つ、石さんの口座から命をつなぐための資金を引き出すことでした。しかし、危篤状態の預金者を前にしても、銀行側は冷酷に手続きを拒否したのです。
この背景には、銀行の硬直化した社内ルールがあります。石さんの義姉である王さんによると、生涯独身の石さんは重病により寝たきりとなって話すこともできず、多額の医療費を急いで必要としていました。当初、王さんは石さんの身分証明書やキャッシュカード、病院の診断書などの書類一式を持参し、代理で手続きをしようとしました。しかし銀行側は「直系親族ではない」「預金者本人の意思が確認できない」という理由でこれを拒否しました。追い詰められた家族は、生死の境をさまよう石さんを無理やり車椅子に乗せ、現場に連れて行くしかありませんでした。本人が直接出向けば事態が打開できると信じていた家族に対し、窓口の担当者は、昏睡状態では顔認証や自筆での署名ができず規定を満たしていないとして、頑なに要求を突っぱねました。義弟が口から血を流しているのを見つめながら、王さんはカメラに向かって怒りと悲しみを込めて泣き叫びました。「直系親族ではないから引き出せないと言うんです。見てください、口から血を流し、息も絶え絶えの状態で連れてきたんですよ。こんな理不尽な話があるでしょうか」
この痛ましくも怒りを覚える映像がネット上で公開されると瞬く間に拡散され、銀行の冷酷さと硬直化した対応に非難が殺到しました。激しい世論の反発を受け、銀行側はついに態度を改め、翌日に引き出し手続きを行い謝罪しました。しかし、この遅すぎる謝罪で人々の怒りが収まることはありません。ネット上に溢れる声は、石さん一家への同情にとどまらず、自身の預金の安全性に対する深い不安にも根ざしています。「預金する時はお客様扱いなのに、引き出す時はまるで罪人扱いだ」「暗証番号が分からないまま本人が亡くなれば、お金はそのまま銀行に没収されてしまうのではないか」。こうした辛辣なコメントの裏にあるのは、金融機関に対して長期にわたって募らせてきた信頼の揺らぎです。苦労して貯めたお金が、命の危機という最も切実な状況下で、様々な規定を理由に引き出せなくなってしまう。この「見えているのに手に入らない」という恐怖が、社会全体の銀行に対する信用を大きく損なっているのです。
ただし、この問題を単なる現場担当者の冷酷さや企業のモラル欠如として片付けてしまうと、根底にあるより深刻な弊害を見落とすことになります。なぜ、患者が血を流しているのを目の当たりにしても、担当者は融通を利かせようとしなかったのでしょうか。その背景には、コンプライアンス(法令遵守)の徹底と自己保身という、現場が抱えるジレンマがあります。近年、特殊詐欺対策が強化される中で、銀行内部の監査基準はますます厳しくなっています。一度でも規定に違反すれば、担当者は人事評価が下がるだけでなく、解雇や法的責任を問われる恐れもあります。さらに、親族間の財産トラブルに巻き込まれるのを防ぐため、多くの金融機関が「責任を問われるくらいなら、最初から手を出さない方がまし」という機械的な防衛策をとるようになっています。このような弾力性のない厳しい評価制度の下で、現場の従業員はひたすらマニュアルに従うロボットのように振る舞わざるを得ません。彼らが最も恐れるのは、頭上の監視カメラと紙の上のマニュアルであり、目の前の命や預金者の切実な状況に寄り添うことは二の次になってしまっているのが実情です。
こうしたシステム的な硬直化は、同様の不条理な悲劇を引き起こす原因となっています。口座に治療費があるにもかかわらず引き出せないという事態は、他の重病患者の家庭でも起きています。昨年5月には、湖南省で高齢者が同じように家族によって車椅子で銀行の窓口まで運ばれましたが、手続きのためにたらい回しにされている間に亡くなってしまうという痛ましい出来事がありました。また今年3月にも、北京市で脳梗塞により認知症と失語症になった独居老人の家族が、治療費を引き出そうとしたものの、暗証番号が分からず本人も来店できない上、複雑な成年後見制度の手続きも間に合わず、途方に暮れるというケースが報じられています。
近年、一部の銀行では実務においてリスク管理を名目に手続きのハードルを上げ続けており、人々が自分の預金を引き出すことを非常に困難にしています。マニュアルが責任逃れの盾となり、金融機関がリスク回避を優先するあまり最低限の人道的配慮すら失ってしまえば、当然ながら利用者の不満は爆発します。実際に今年の1月には、貴州省の金融機関で預金が引き出せなかったことに憤慨した一部の客により、窓口の設備が破壊される事件も起きています。マニュアルに縛られ、目の前の困窮する人々に寄り添う姿勢が欠如したままであれば、そして緊急時の特例対応といった柔軟な仕組みが設けられない限り、重病の患者が生死の境をさまよいながら預金を引き出すために苦痛を強いられるという事態は、今後も繰り返される恐れがあります。
(翻訳・吉原木子)
