2026年初め、香港の外食業界では閉店ラッシュに見舞われました。ここ数か月の間に、10年、数十年、さらには半世紀にわたって営業を続けてきた老舗レストランが次々と姿を消しています。多くの市民の思い出が詰まった飲茶文化は、いまかつてない試練に直面しています。香港島から九龍、新界にかけて、見慣れた看板が一つ、また一つと消えていく光景は、この業界が経済環境の悪化、消費習慣の変化、市場構造の変動という重い現実に直面していることを物語っています。
統計によると、2026年最初の4か月だけで、香港全体ですでに少なくとも14軒のレストランや飲食店が閉店しました。そこには、伝統的な広東料理のレストランもあれば、チェーン店、地域に根ざした老舗も含まれています。今回の閉店ラッシュは単発の出来事ではなく、ここ数年積み重なってきた圧力が一気に噴き出した結果だといえます。
時間を2026年1月に戻します。柴湾で地域の人たちに長く親しまれてきた「翠灣漁港(すいわんぎょこう)」が、突然、閉店の告知を掲げました。高齢者の集まりや家族の食事の場として親しまれてきたこの店は、何の前触れもなく営業を停止したのです。その直前まで旧正月用の餅の引換券を販売していたため、常連客の間には驚きと不安が一気に広がりました。これが、新しい年の香港飲食業界を揺るがす波乱の始まりとなったのです。
その後、2月末になると、太古城で40年以上にわたり営業を続けてきた老舗「翰騰閣(かんとうかく)」も静かに幕を下ろしました。上質なサービスと落ち着いた空間で知られたこの広東料理店は、多くの中間層の家庭や会社員にとって思い出の場所でした。その閉店は、1つのブランドの終わりを意味するだけでなく、伝統的な高級レストランという業態そのものが衰退しつつある現実をはっきり示す出来事でもありました。
3月に入ると、閉店の知らせはさらに相次ぐようになります。金鐘の一等地にあった「天一酒家(てんいちしゅか)」は、夜の集客不足と経営負担に耐えきれず撤退しました。藍田の麗港城で10年以上営業してきた「豪宴海鮮酒家」も、コスト上昇と市場の変化に押されて閉店に追い込まれています。同じ時期には、チェーン店の「明星海鮮酒家」も観塘と新蒲崗の店舗を続けて閉鎖しました。なかでも新蒲崗店は20年以上の歴史を持ち、地域の移り変わりを見守ってきた存在でしたが、悪化する経営環境の前では持ちこたえられませんでした。
3月下旬には、九龍城広場で30年続いた「好彩海鮮酒家」が、賃貸契約の満了を理由に営業を終えました。さらに、沙田の高級ブランド「東海薈」もひっそりと閉店しています。これによって、影響を受けているのは安価な店や地域密着型の店だけではなく、中高級路線の店までもが同じように厳しい圧力にさらされていることが浮き彫りになりました。
4月に入っても、この閉店ラッシュは止まりませんでした。「啓田百匯酒家」は正式に営業を終了し、「葵芳龍寶酒家」も14年の営業に幕を下ろすと発表しました。さらに、青衣の長康邨商場に入っていた店も、賃貸契約の問題で市場から撤退しています。地域も客層も異なるこれらの店が次々と倒れていったことは、もはや個別の経営ミスでは説明できません。香港の外食業界全体が、構造的な苦境に陥っていることを示しているのです。
さらに、象徴的な存在だったブランドでさえ、この流れから逃れることはできませんでした。美心グループ傘下の「翠園(すいえん)」は、長い歴史を持つ広東料理の代表的な店として知られてきましたが、将軍澳(しょうぐんおう)の店舗が1月末で営業を終えました。また、大圍に20年以上根を下ろしてきた「生昌潮州海鮮酒家(せいしょうちょうしゅうかいせんしゅか)」も、旧正月前にはすでに閉店を発表し、数十年にわたる営業の歴史に幕を下ろしています。さらに、牛池湾でおよそ67年にわたって続いてきた「新龍城茶樓(しんりゅうじょうさろう)」も、再開発計画に伴って歴史の中へ消えていくことになりました。
この閉店ラッシュは、2026年に入って突然始まったわけではありません。時間を少しさかのぼれば、すでにその兆しははっきり現れていました。2025年前半の時点で、香港ではすでにおよそ200軒近い飲食店が営業を停止しており、その中にはレストラン、飲茶店、チェーン店など、さまざまな業態が含まれていました。さらに、数十年続いた中華料理グループや昔ながらの粥の店、老舗の茶餐店なども次々と市場から姿を消していきました。どれも長年親しまれてきた店ばかりでしたが、結局は閉店の流れを止めることができませんでした。
なかには、かつて数十店舗を展開していた大手飲食グループが、事業そのものを全面的に終了させた例もあります。こうした動きを見れば、香港の飲食業界を襲っている揺れが、単なる一時的な不振ではなく、業界全体を深く揺さぶる大きな変化であることがよく分かります。
この現象を招いた原因は、おおむね4つに整理できます。
まず1つ目は、香港のマクロ経済環境の変化です。経済成長の鈍化に加え、消費者の間で先行きへの不安が強まり、市民の支出はこれまで以上に慎重になっています。需要が落ち込んでいるのに、供給側の調整が追いつかなければ、市場で淘汰と縮小が進むのは避けられません。実際、現在の状況を見れば、今後さらに多くの飲食店が閉店の危機に直面する可能性があるとの見方も出ています。
2つ目は、経営コストの上昇です。香港では店舗家賃の高さが長年の重荷となっており、中心部では月額賃料が数百万円から1000万円前後に達するケースも珍しくありません。同時に、人件費も大きく上がっています。現場を支えるスタッフの賃金は短期間で大幅に上昇し、そこへ世界的な供給網の混乱による食材価格の高騰も重なりました。その結果、利益を確保できる余地は急速に狭まっています。広い店舗面積と多くの人手を必要とする伝統的なレストランにとって、こうしたコスト構造はとりわけ深刻です。
3つ目は、消費スタイルそのものの変化です。ここ数年、香港では多くの住民が中国本土へ足を運び、食事や買い物をする流れが定着してきました。価格面でも、選択肢の多さでも、体験の面でも、本土側の魅力は香港の飲食業にとって強い競争相手になっています。週末や連休になると客足が外へ流れ、地元のレストランが大きく頼ってきた家族での会食や飲茶需要が目に見えて縮小しました。これは売り上げに直接響く大きな打撃となっています。
4つ目は、市場の競争構造そのものが変わったことです。フードデリバリーの普及やネット通販の低価格商品が、地元での消費を大きく分散させました。店内飲食や電話注文を中心としてきた従来型の営業スタイルは、徐々に優位性を失っています。その一方で、新しい飲食ブランドは、より柔軟な運営方法と若い世代を意識した打ち出し方で市場に入り込み、伝統的な酒楼の生き残る余地をさらに狭めているのです。
しかし、レストランの閉店は単なる商業上の出来事ではありません。そこには、文化が少しずつ失われていくという、もっと深い問題があります。多くの香港の人々にとって、こうした店はただ食事をする場所ではなく、家族が集まり、節目を祝い、地域の人たちと交流する大切な空間でした。朝の飲茶から、結婚式や長寿祝いのにぎやかな宴席まで、そうした何気ない日常の場面の積み重ねが、この街の記憶を形づくってきたのです。
老舗が一軒、また一軒と静かに姿を消していくたびに、失われるのは売り上げや店舗だけではありません。そこには、一つの時代を生きた人たちの思い出や、長年育まれてきた心のつながりも含まれています。経済の現実と文化の継承。その間でどう折り合いをつけるのかは、これからの香港の飲食業界が避けて通れない大きな課題になっています。
(翻訳・藍彧)
