「捕まえられるものなら来てみろ。俺はミラフローレス宮殿で待っている。あまり時間をかけるな、この臆病者め!」
数日前、ホワイトハウスが公開した動画には、ベネズエラのマドゥロ大統領が、感情をむき出しにしてアメリカを挑発する様子が映っていました。ここまでは、よくある強権者の芝居に見えた人も多かったはずです。ところが、その動画は数時間後、意味がまるごと変わりました。あれは強がりだったのでしょうか。それとも合図だったのでしょうか。

 米国がかなり先を見据えて動いていたことがうかがえます。

米軍は本当に動いた

 1月3日正午、米ホワイトハウスの公式アカウントが衝撃的な写真を投稿しました。そこに写っていたのは、マドゥロ大統領が、米海軍の強襲揚陸艦「イオ・ジマ」の艦上にいる姿でした。彼はアイパッチとイヤーマフを着用し、白髪が乱れ、スポーツウェア姿で立ち姿もおぼつかず、全体にみすぼらしく取り乱した印象です。

 写真で目を引くのは艦艇そのものよりも、マドゥロ氏が両手を無理に上げさせられているような不自然な姿勢でした。よく見ると、両手首はすでに手錠で固定されています。この一枚は瞬く間に世界のSNSに広がり、強烈な視覚的インパクトと心理的衝撃を生みました。

 これとは対照的に、ベネズエラの街では別の反応が映し出されました。複数の動画では、若者たちが街を走り回りながら「トランプおじさん、ありがとう」と叫び、クラクションを鳴らす人、歓声を上げる人、涙を流す人までいる様子が確認できます。経済崩壊と強権統治のもとで暮らしてきた社会が、ここまで率直で集団的な感情を公の場で噴き出させたのは、初めてだという見方もあります。

 トランプ大統領は同日「ベネズエラの独裁者でありテロリストのマドゥロは、ついに退陣した。国民は自由になった。彼らは再び自由を手にした」と述べました。
その後、より威圧的な警告も発しています。「ベネズエラの政治家や軍の関係者は、国民を弾圧し続けるならば、マドゥロに起きたことが自分たちにも起こり得ると理解すべきだ」

入念に設計された威圧

 トランプ氏はその後、作戦の詳細をさらに明かしました。作戦前から入念に準備しており、鋼鉄の扉や、いわゆる「安全エリア」に備えて大型の切断用トーチまで持ち込んでいたというのです。トランプ氏の説明を聞く限り、マドゥロ氏の居場所は普通の家というより、要塞のような場所でした。

 それでも作戦のスピードは相手の想定を超えていました。マドゥロ氏は安全エリアに逃げ込もうとしましたが、ほぼ反応する時間もないまま制圧されました。トランプ氏は「準備は万全だった」と繰り返し強調しました。守りがどれだけ固くても、アメリカは標的本人に直接手が届くという力を、あえて示す意図があったとみられます。

 同時に、軍事関係者の間で繰り返し話題にされてきた「合図」も浮かび上がりました。いわゆるペンタゴン・ピザ指数です。

 データによれば、作戦実施前の深夜時間帯に、ペンタゴン(国防総省)周辺の複数のピザ店で注文が急増し、最大の伸びは700%を超えたといいます。これは長年、大きな安全保障や軍事案件が動くときの「非公式な前触れ」として語られてきました。今回、その答えははっきりしたという見立てです。国防総省は徹夜で稼働し、極めて機微な作戦を回していた、というわけです。

習近平氏へのメッセージ

 多くのフォロワーを持つ米調査ジャーナリストのローラ・ルーマー氏は、マドゥロ氏の拘束は本質的に、トランプ氏が習近平氏へ強いシグナルを送ったものだと指摘しました。

 タイミングも意味深です。米軍が動く数時間前、マドゥロ氏はカラカスで邱小琪(きゅう・しょうき)氏率いる中国側の代表団と会っていました。邱氏はラテンアメリカとカリブを担当する特別代表で、習近平氏の意思を直接運ぶ上級外交官と見られている人物です。会談が終わって間もなく、米軍が作戦に踏み切った、という流れになります。

 この順番から、出来事はすぐに「狙って見せた動き」だと受け取られました。つまり米国は、後ろ盾の存在を気にしないどころか、会談の直後をわざと選んで手を出した、という読み方です。

 ルーマー氏はさらに、米国が狙っているのは、ロシア、イラン、中国が西半球で石油や戦略資源を得るルートを断ち切り、ベネズエラで新たなエネルギー面の主導権を確立しようとしていると指摘しています。

西半球を取り戻すという戦略

 この見方は、根拠のない話ではありません。

 トランプ政権は2025年12月に公表した最新版の国家安全戦略で、米国は西半球での主導権を守るために、あらゆる手段を使うこと、競争相手に重要な戦略資産を握らせないことを明確に打ち出しました。

 ここでいう重要な資産とは、中国が近年、ラテンアメリカとカリブ地域で大規模に展開している分野——港湾、エネルギー、通信、鉱物資源、交通ハブが含まれます。米シンクタンクのCSISの報告では、中国がこの地域で建設や運営に携わる港湾は37か所にのぼり、深水港全体の約3分の1を占めるとされています。

 米南方軍の司令官アルビン・ホルシー氏も、中国がこの地域に組織的に入り込み、権威主義的な統治のやり方を広げながら、軍事と民間の両方に使える可能性のあるインフラを整えていると、公の場で警戒を促してきました。

 こうした背景を踏まえると、ベネズエラは例外ではなく、見せしめのモデルだという位置づけになります。

中国ネット世論の反応

 手錠をかけられたマドゥロ氏の動画は、中国のネット上でも強い反響を呼びました。国際法や主権の議論よりも、多くのコメントがある一点に集中したといいます。それは「首脳だけを捕まえ、一般の人には危害を加えない」という見方です。

 この反応自体が、政治的な意味を帯びています。国内で問題を正す仕組みが弱い社会では、一部の人が「外からの力で裁かれること」を、想像上の正義の道筋として重ねてしまいがちです。そうした空気がにじんでいます。

 「これからは首脳だけを捕まえればいい。この発想は正しい」「一般の人は支持する」こうした発言が広がる一方で、公式がよく使う「運命共同体」という言葉は、現実の受け止め方との落差によって、皮肉な対比として浮かび上がってしまいます。

 表向きはベネズエラに対する作戦に見えますが、もっと深いところでは、権威主義の側全体に向けた見せしめではないでしょうか。

 トランプ氏は、強い動画のインパクトと、個人を狙い撃ちする罰の色合いを前面に出しながら、古くても効く国際政治の論理を改めて示しています。権力は決して天然の安全保障ではなく、強権者も決して不可侵ではありません。

 「マドゥロを捕まえる」は、おそらく第一歩に過ぎず、本当に狙われているのは、もっと大きな盤面でしょう。

(翻訳・藍彧)