2025年、日本の観光業は、世界情勢の不透明さや地政学的緊張が続く中でも、再び歴史的な記録を打ち立てました。日本政府観光局の最新統計によると、11月までの累計で日本を訪れた外国人旅行者は約3906万人に達し、2024年通年の過去最高記録だった3687万人を大きく上回りました。年間では初めて4000万人を突破する見通しで、コロナ禍以降の日本観光にとって最も目立つ一年になりそうです。

 この数字は、訪日市場の多角化や、観光サービスの質の向上などに向けて日本側が進めてきた調整が一定の成果を上げていることを示しています。一方で、中国政府が出している対日旅行に関する警告は、日本の観光業に大きな打撃を与えるには至っていないようです。

訪日客は全体的に増加 アジアと欧米が力強く押し上げ

 公表データからは、日本の観光需要が強い勢いで伸びていることが読み取れます。2025年は複数の月で訪日外国人観光客数が単月の過去最高を更新しました。1月の訪日客は378万1200人で、前年同月比40.6%増となり、単月としての新記録となりました。

 4月は390万8900人に達し、4月として過去最高を更新しました。さらに5月、6月、7月、9月などもそれぞれ同月として過去最高を記録し、年間累計は2000万人、3000万人の大台を次々と突破しました。

 こうした結果は、春の桜、夏の避暑、秋の紅葉、冬のスキーといった定番の季節需要を含め、日本が引き続き世界の旅行者にとって主要な訪問先であり続けていることを示しています。特に観光の繁忙期である秋の紅葉シーズンには各地の観光地が混雑のピークを迎え、訪日需要全体を押し上げました。

 国・地域別に見ると、複数の市場で訪日観光客が増え続けており、とりわけロシアからの旅行者は大きく増加し、コロナ前の水準を上回る動きも見られます。

 また、韓国と台湾は長年にわたり主要な市場であり、アメリカやヨーロッパからの旅行者も、航空路線の利便性に加え、日本文化や食の魅力によって増加基調が続いています。

 さらに、複数の国で「日本に行きたい」という傾向が強まっている背景として、円安の継続も挙げられます。観光業界では、この為替要因が訪日客数の増加を後押しする重要な要素になっているとみられています。

中国人観光客の伸びは鈍化 外交緊張と消費行動の変化が重なる

 全体の数字が好調に見える一方で、中国人観光客の動きは複雑です。中国からの訪日客は総数としては増えているものの、増加の勢いははっきり鈍っています。
公式統計によると、2025年1月から11月までに中国から日本を訪れた旅行者は約877万人で、前年同期比37.5%増でした。この数字は全体の中でも依然として大きな割合を占め、長年にわたり国別では最多となっています。ところが11月に入ると、月別の増加率は3.0%まで急低下し、それまでの数カ月に見られた20%超の伸びを大きく下回りました。

 関係者は、この変化について、中国国内の景気減速で海外旅行需要が弱まっていることに加え、日中間の政治的な緊張が影響している可能性を指摘しています。高市早苗首相が「台湾有事」について集団的自衛権を行使できる「存立危機事態になり得る」と発言した後、中国政府は11月14日に自国民に向けて対日旅行の警告を出し、日本への渡航を控えるよう促しました。この措置は、中国人旅行者の短期的な旅行意欲や予約行動に影響を与えたとみられます。

 観光業界アナリストの分析では、こうした制限が短期的に中国人旅行者の訪日意欲そのものを消し去るわけではないものの、市場の動きに変化を生み、構造的な調整を促す要因になっているとされています。その結果、日本側も観光市場の多角化をいっそう重視せざるを得なくなりました。

旅行消費の構造が変化 量から質への転換へ

 訪日客数の伸びが鈍るのと同時に、中国人観光客の日本での消費行動にも、はっきりした変化が出ています。オンライン旅行プラットフォームの分析によると、中国人旅行者は今も日本を優先的な渡航先の一つとみなしている一方、消費の中身が変わってきました。訪日旅行者全体の消費総額は2019年に比べて約43%増えたのに対し、中国人旅行者の1人当たり消費額の伸びは約30%にとどまり、欧米を含む他の主要市場より伸びが小さかったとされています。

 業界関係者は、これは中国人旅行者の旅行スタイルが、より慎重でコストに敏感な方向へ移っていることを示すものだと見ています。欧州や北米のような長距離で高額になりやすい目的地の魅力が相対的に弱まる中、近距離で費用を抑えやすい日本は、より現実的な選択肢になっているという見方です。

 さらに重要なのは、こうした消費行動の変化が、日本の観光業にとって「客数の拡大」から「1人当たり消費と体験価値の向上」へと軸足を移す動きを後押ししている点です。旅行アナリストの田中博史氏は『日経アジア』の取材に対し、近年の日本の人気観光地では「オーバーツーリズム」が目立っていたが、中国人観光客の伸びが鈍ったことは、観光戦略を見直す機会にもなり得ると述べたとされています。観光サービスの質を高め、滞在日数を延ばし、追加消費を増やすことが、現在はより重要な方向性になっています。

 業界関係者は、この転換は観光地の過度な負荷を和らげるだけでなく、観光産業全体の収益効率を高め、長期的で持続可能な成長につながると見ています。

観光外交と長期戦略の見直し

 日本政府は特定の市場に過度に依存することのリスクをすでに認識しているようです。日本政府観光局の局長である村田茂樹氏は、今後は東南アジア、北米、欧州からの旅行者をさらに開拓し、特定の市場への依存度を下げるとともに、観光全体の安全性や、突発的な外交問題による影響への耐性を高めていく方針だと、これまでに繰り返し公の場で述べています。

 観光市場の多角化は、リスク分散に役立つだけでなく、年間を通じた旅行者数の安定にもつながります。例えば東南アジアでは、近年、インド、ベトナム、タイなどで日本旅行への関心が高まっています。欧州や北米でも、日本文化や食、自然景観への関心が強まり、訪日需要が伸びる傾向が見られます。

 さらに、冬のスキーシーズンや年末年始などの旅行繁忙期が近づくにつれ、北海道、長野、東京近郊といった地域のリゾート資源が、欧米とアジアの旅行者を大量に呼び込むと見込まれます。こうした旅行者は、近距離の旅行者層に比べて消費力が高く、滞在期間も長い傾向があるため、2025年の訪日旅行全体の消費額を一段と押し上げる可能性があります。そして日本が「4000万人時代」に入ることは、ほぼ確実な流れになっています。

(翻訳・藍彧)