中国・雲南省のある村で、地元の住民は、見た目がつるりとしたサツマイモを作るため、一部の農家が強い毒性を持つ殺虫剤「ホレート」を使っていると話します。

 記者「殺虫剤は何を使っていますか」
住民A「ホレート」
住民B「(ホレートを)使うのが当然だよ。使わなきゃ(サツマイモが)虫にやられる」
住民C「国の基準では、ホレートは使ってはいけないことになっている。でも使わないと、虫は絶対に防げない」
住民D「ホレートなら一回散布すれば済むけど、基準に合う農薬だと三回散布しないといけない」

 このほど、中国メディアが報じた「雲南省の毒サツマイモが20省に流通」というニュースが、ウェイボーでトレンド入りし、大きな波紋を広げました。

 サツマイモは安くて身近な食材として見られてきましたが、そこに強い毒性を持つ殺虫剤ホレートが残留している可能性があるとされ、多くの消費者に強い不安を抱かせています。

 見た目がきれいで、虫食いの跡がほとんどないサツマイモが、すでに卸売市場、ネット通販、スーパー、路上の露店などを通じて、中国全国の20以上の省に広がっています。

 ホレートは、有機リン系の中でも毒性が非常に強い化合物で、国際的にも高リスクの農薬と広く見なされています。公開情報によると、この物質はわずか0.08グラムでも成人に臓器不全を引き起こす可能性があり、少量を長期的に摂取した場合でも、神経系、肝臓、腎臓に回復が難しい損傷を与える恐れがあります。また、発がん性については2B類に分類されています。

 日本ではホレートが農薬として正式に登録されたことがなく、使用が明確に禁止されている物質です。2008年2月20日には、日本政府が中国製の冷凍食品からこの成分を検出し、日本社会に高い警戒感が広がり、中日間の食品安全をめぐる摩擦で、象徴的な事例の一つとなっています。

 一方で中国では、ホレートが農薬や殺虫剤として長期間使われてきました。近年になってようやく規制が段階的に強まり、2024年9月1日からは販売と使用が全面的に禁止されました。

 中国メディアの記者による調査では、現場の栽培段階で、はっきりした「二重基準」が取られているケースも明らかになりました。自家用のサツマイモには基準に合う農薬を使う一方、販売用のサツマイモには違法にホレートを使う農家が一部にいます。

 こうした違反が一部の農家だけの話ではなく、関連するグレーな流通網として成り立っています。一部の農業資材店が、ホレートをこっそり販売し、摘発を逃れるために包装を替えたり、「有機肥料」や一般的な農薬に見せかけたりしています。こうして違反が見えにくくなり、結果として「見た目が良くて虫食い跡がない」サツマイモほど、市場ではむしろ競争力を持ってしまいます。

 中国の農業生産で、これはまれな事例ではありません。2025年11月末には、湖北省天門市で、野菜農家が使用禁止の農薬カルボフランを使っていたと報じられました。地元の住民は「ここの野菜は怖くて食べられない」と率直に語りました。畑の責任者は違反使用を認めただけでなく、複数の禁止農薬を入手できるルートがあるとも明かしました。

 さらにさかのぼると2013年には、山東省濰坊市の一部のショウガ農家が、強い毒性を持つ成分を含む農薬アルジカルブを大規模に使っていたことが問題になりました。植物の全体に吸収され得ると分かっていながら、害虫被害が深刻で収量が落ちる圧力も大きく、長く使い続けていたというのです。

 こうした十年以上にわたり、各地で繰り返されてきた事例を見て、世論は次第に、毒サツマイモが偶発的な事件ではなく、長く続いてきた構造的な問題だと受け止めるようになっています。事件発覚後、ネット上では食品安全の監督体制そのものに矛先が向き、関係当局が長年きちんと役割を果たしてこなかったのではないかという疑念が噴き出しました。

 ネットユーザーから非難するコメントが殺到。

 「これは農家の違反で片付く話ではなく、源流の監督、農業資材の流通、市場での参入管理まで含めた仕組み全体が機能していないのだ」

 「問題は調べられないのではなく、調べたくない、取り締まりたくないのだ」

 地域によっては、農業の生産や加工が地元経済の重要な柱になっており、厳格に取り締まれば、その地域のGDPや税収、雇用に直撃しかねません。

 例えば安徽省亳州市では、漢方薬の原料となる生薬の取引が地元経済に占める割合が極めて高く、偽造品の全面取り締まりを行えば、短期間での企業倒産や財政収入縮小は避けられません。いまの官僚の評価や人事の仕組みでは、地方の幹部は住民の実感よりも、上級機関からの評価を優先しがちです。その結果、経済を守ることや社会の安定を守ることが、食品の安全より先に来ることが多いです。

 こうした状況の中で、中国共産党の体制内にある「中国の特権階級向け食品供給制度(特供)」が世間の目に入ってきたのです。一般の消費者が、農薬残留や監督の形骸化というリスクにさらされる一方で、特権層は特供の仕組みを通じて、そうしたリスクを避けています。

 2024年10月には、ネットユーザーがSNSで「北京郊外の特供野菜基地を見学した体験」を投稿しました。そこでは密閉型の温室で栽培し、温度と湿度を一定に保ち、虫への対策は薬に頼らず物理的な方法が中心となっています。野菜は自然に熟させ、熟する促進剤を使用せず、そのぶん生産コストは非常に高いです。関連動画によると、こうした野菜が一般市場に出回れば、その価格は大多数の家庭が負担できる範囲をはるかに超えるとされています。

 特供の仕組みは上層部だけのものではありません。ある記者は、郷政府の食堂に特供野菜を納めている農家を取材したところ、郷政府は毎年入札で特供の農家を決め、農薬残留や品質の基準は極めて厳しいそうです。検査は市レベルの部門が担当し、わずかな基準超過でも全量返品されるといいます。同農家は、返品された野菜について「それでも市場で売られているものより、ずっと品質がいい。しかし、政府の食堂は受け取らない」と率直に語りました。

 また、野菜だけでなく、米、小麦粉、食用油、肉、海産物なども、それぞれ特供の供給ルートがあり、こちらも同様に年ごとの入札で決まり、基準は一般市場よりはるかに高いと同農家は説明しました。特供の仕組みはすでに末端の政府機関にまで伸びており、中国共産党の官僚たちは、一般の消費者が抱える食品安全のリスクと、そもそも同じ土俵で向き合う必要がないというわけです。

 「毒サツマイモ」事件で噴き出した怒りは、表面上は違法な農薬に向けられていますが、その根底には、監督が機能していないこと、そしてリスク負担の不均衡が横たわっています。特権層が制度としてリスクを避けられる一方で、一般の人々は結果を受け入れるしかありません。こうなると、食品安全の問題は単なる取り締まりの話ではなく、社会の公平性そのものの問題になります。

 このような制度の下で、消費者に自分で気をつけろとだけ求めても、根本的な解決にはつながりにくい、という指摘が出ています。

(翻訳・藍彧)