近日、中国湖南省長沙市で、フードデリバリー配達員による大規模な抗議行動が発生しました。発端は、配達中のライダーが集合住宅の警備員から電動バイクでの進入を制限されたことでした。同じ敷地内では住民が自由に電動バイクで出入りできる一方、配達員だけが押して入るか徒歩での進入を求められたのです。この出来事をきっかけに、複数のデリバリープラットフォームに所属する配達員が次々と現場に集結し、抗議は12月22日から23日の早朝まで続きました。単なる現場トラブルの域を超え、長年蓄積されてきた矛盾が一気に噴き出した出来事として受け止められています。

 中国のSNSなどによると、問題が起きたのは長沙市の合能璞麗小区でした。ある配達員が配達のため敷地内に入ろうとした際、警備員から電動バイクに乗ったままの進入は禁止だと告げられました。しかし、配達員が直面していたのはそれだけではありませんでした。プラットフォーム側のシステムは自動的に注文を割り当て続け、配達を拒否すれば罰金やアカウント停止のリスクがあります。一方で、徒歩での配達では所要時間が延び、時間超過によるペナルティを受ける可能性が高まります。こうした構造的な板挟みの中で、配達員が強行して進入を試み、警備員との間で身体的な衝突が発生しました。

 この情報は瞬く間に配達員の間で拡散され、22日の深夜以降、多数のライダーが現場周辺に集まり始めました。電動バイクやオートバイで道路を何度も周回し、ヘッドライトを点灯させ、クラクションを鳴らし続ける様子が各地で確認されました。一部の映像では、警察車両の後を追いながら抗議の意思を示す配達員の姿も映っており、これまでの労働トラブルではあまり見られなかった光景です。23日午前5時ごろになっても人々は散らず、ほぼ徹夜の状態で抗議が続き、やがて武装警察部隊が隊列を組んで現場に投入されました。

 さらに同日午前7時ごろ、現場一帯に防空警報を思わせる音が鳴り響きました。長時間の対峙によって高まった緊張の中で、配達員の一部は道路の中央を周回し始め、怒りは次第に集団的な発散へと姿を変えていきました。遠方から撮影された映像には、あまりにも非現実的だと驚く声も記録されています。最終的に当局は道路を封鎖し、人々を強制的に解散させました。

 フードデリバリー配達員は、現代中国において不安定な労働環境に置かれている代表的な労働者層の一つとされています。今回の長沙での出来事が強い共感を呼んだ背景には、彼らが置かれている多重的な圧力構造があります。上にはアルゴリズムと制度によるプラットフォームの管理、中間には物件管理会社や警備員による直接的な制限、そして下には配達員同士の激しい競争と、背後にある家族の生活があります。こうした状況が長く続けば、いずれ取り返しのつかない形で噴出するのではないかという不安が、社会の中で広がっています。

 12月23日、時事評論家の新高地はXへの投稿で、今回の抗議を導火線に火がついた火薬庫になぞらえました。中国には現在、およそ1400万人のフードデリバリー配達員が存在するとされており、彼らはSNSやメッセージアプリを通じて極めて高い動員力を持っています。これまで散発的で個別的だった激しい抵抗行動は、次第に集団性と組織性を帯びるようになっていると指摘されています。

 その背景としてまず挙げられるのが、過酷な労働環境です。美団や餓了麼といった大手プラットフォームは、アルゴリズムによって配達時間を極限まで短縮し、結果として配達員は速度超過や逆走を余儀なくされ、交通事故が頻発しています。2024年に入ってからは、精神的に追い詰められた配達員の動画が相次いで拡散され、遅延に対する罰金、単価の引き下げ、悪天候下でも補償のない労働実態が問題視されてきました。

 収入の不安定さも深刻です。注文数自体は多いものの、プラットフォーム間の競争は激しく、手数料は20%から30%に達します。多くの配達員の月収は約10万円から約16万円(約5000元から約8000元)程度にとどまり、車両の維持費や充電費、各種罰金を差し引くと、手元に残る金額はごくわずかです。さらに、社会保障の欠如も大きな問題となっています。配達員の6割以上が正式な社会保険に加入しておらず、事故や失業に直面しても救済の仕組みがありません。これは新しい労働形態に対する政府の規制不足を象徴するものだと見られています。

 加えて、配達員と物件管理会社や警備員との衝突が頻発していることは、階層間の緊張を可視化しています。これらの摩擦は一見すると現場管理の問題に見えますが、その根底には、労働者が排除される存在として扱われているという意識があります。問題の出発点はプラットフォームにあるものの、不満の矛先は最終的に政府へと向かいます。労働政策が有効に機能せず、コロナ禍以降の景気低迷の中で、最も脆弱な層が影響を受けているためです。

 評論では、長沙の事件は、フードデリバリー配達員がもはや孤立した存在ではなく、潜在的な集団的力を持っていることを示したと結論づけています。1400万人という規模は中規模国家に匹敵し、ネットワークを通じて瞬時に集結する状況が常態化すれば、その影響は計り知れません。問題は抗議行動そのものではなく、追い詰められた労働者層が限界を迎えたときに生じる構造的な不安定さにあると指摘されています。

(翻訳・吉原木子)