中国国内では、こうした見方が広がっていました。「中国人が日本に行かなければ、日本の観光業は大きな打撃を受けるはずだ」と。
反日感情の高まりや訪日自粛の動きが強まる中、日本経済、とりわけ観光業が影響を受けるという認識は、中国側ではごく自然なものとして受け止められていました。ところが、12月中旬に起きたある変化は、その想定とは異なる方向へと事態を動かしました。
日本はこの時期、中国人向けの短期ビザを事実上、停止しました。年末から年明けにかけて日本旅行を計画していた中国人にとって、この動きはほとんど予告のないものでした。複数のビザ仲介業者が同時に通知を出したことで、初めて状況が明らかになります。日本の単次ビザと、有効期間3年の数次ビザが、事実上、受理停止状態に入ったのです。
日本側の公式説明は「ビザシステムのメンテナンス」でした。しかし、実際の影響を見る限り、単なる技術的な問題にとどまらないことは明らかでした。中国の複数の日本ビザ仲介機関によると、12月9日以降、中国国内の日本大使館・総領事館では、ビザシステムがメンテナンス状態に入り、関連業務が停止、または大幅に制限されています。影響を受けているのは、単次観光ビザと有効期間3年の数次ビザで、いずれも中国人申請者の中で最も利用者の多いビザ区分です。
一方で、有効期間5年の数次ビザについては、現時点では通常通り受理が続いています。ただし、このビザはもともと申請条件が非常に厳しく、年収約1,100万円以上、あるいは同等規模の資産証明が求められます。実際に申請可能な層は限られており、多くの中国人にとって現実的な選択肢とは言えません。
結果として、日本が単次ビザと有効期間3年の数次ビザを停止したことは、事実上、大多数の中国人に対して訪日の扉を閉じたに等しい状況を生み出しています。複数のビザ業界関係者によれば、現在、該当ビザの申請は一切受け付けられておらず、再開時期も「未定」とされています。日本側は、システムメンテナンス完了後に改めて通知するとしていますが、具体的な日程は示されていません。そのため、多くの仲介業者は、航空券や宿泊施設の事前予約を控えるよう申請者に呼びかけています。
さらに状況を不透明にしているのが、日本の年末年始休暇です。日本の大使館・総領事館は12月27日から1月4日まで休館に入ります。これ以前から、ビザ手数料の引き上げが検討されているとの情報も出ており、休暇明けに単次ビザや有効期間3年の数次ビザが再開されるのか、また費用がどこまで上がるのかは、現時点では見通せません。
今回の停止措置の核心は、「身元保証制度」にあります。中国人が日本の短期ビザを申請する際には、不法残留をしないこと、滞在後に帰国することを保証する「身元保証書」の提出が求められます。日本側は、この身元保証関連のシステムモジュールがメンテナンス対象となっているため、ビザ受理を停止したと説明しています。
しかし、ビザ業界内では、この説明に懐疑的な見方も少なくありません。今回の大規模な停止措置は、中国人申請者にほぼ限定されており、他国や他地域では同様の動きが確認されていないためです。
こうした背景の中で注目されているのが、日中関係を取り巻く空気の変化です。中国国内では、当局に黙認される形で反日感情が再び強まっています。これは在中日系企業に対する圧力となるだけでなく、民間レベルでの相互不信をも加速させています。
このような状況下で、日本政府がビザ政策を通じて人の往来を抑制することは、リスク回避であると同時に、外交的な意思表示と受け取ることもできます。複数の日本のビザ関係者は、短期間での正常化は難しいとの見方を示しています。多くは、中国の旧正月が終わる来年3月以降、日中関係に一定の緩和が見られた場合に初めて、政策が再調整される可能性があるとみています。
なお、今回の措置は、日本の長期滞在ビザには影響していません。研究、人文・国際業務、料理人および家族滞在、留学などのビザは、引き続き申請可能です。日本国内の深刻な人手不足を背景に、長期滞在については、むしろ受け入れ姿勢が維持されています。
一方で、短期ビザ、とりわけ観光目的のビザは、これまで以上に厳格な審査対象となっています。単次ビザ、有効期間3年の数次ビザ、有効期間5年の数次ビザ、商用ビザ、団体ビザを問わず、書類の不備や条件不足があれば、申請が差し戻されるケースが増えています。
「観光客は消費をもたらすから歓迎される」という見方は、現在の状況では必ずしも当てはまりません。日本側は高消費層の選別と、不法滞留リスクの回避を同時に求められており、その結果、観光ビザが最も慎重に扱われるカテゴリーとなっています。
この影響は、すでに現実の行動にも表れ始めています。複数の中国国有企業の社員は、香港メディア《南華早報》に対し、すでに承認されていた日本出張や旅行が、会社の指示で取り消されたと証言しています。また、中国のSNS上でも、党政機関から日本旅行を控えるよう求められたという投稿が相次いでいます。
表向きは「システムメンテナンス」。しかし、多くの人にとって、それは突然下ろされた、目に見えないシャッターでした。国と国の関係が揺れたとき、最初に影響を受けるのは、交渉の場ではありません。すでに予定を立て、出発を待っていた、ごく普通の人々です。今回の日本の対中ビザをめぐる動きが、一時的な調整にとどまるのか、それともより長い変化の始まりなのか。その答えは、まだ示されていません。
(翻訳・吉原木子)
