12月1日、ロシアのプーチン大統領は署名し、即日から2026年9月14日までの期間、中国国籍者はビザ免除でロシアへの観光や商務活動を行えると発表しました。この発表は、中ロ関係のさらなる深化を象徴する出来事と受け止められ、中国の旅行者の間では、手続きのハードルが低く、費用も抑えられる新たな海外旅行先として期待を集めました。
ところが、発表からわずか半月後、その期待は現実によって大きく裏切られることになります。
12月15日、第一陣としてビザなしでロシアを訪れた中間層が戸惑いを覚えた実態を描いた記事が、SNS上で急速に拡散し、一時はウェイボー(微博)のトレンド2位にまで浮上しました。記事で語られていたのは、一部の特殊なケースではありません。複数の中国人旅行者がロシアでの個人旅行中に、次々と直面した共通の問題でした。通信が使えない、決済が通らない、地図アプリが機能しない、物価の感覚が合わない、観光インフラ全体が肌に合わないといった、構造的とも言える不便さです。
「到着後1時間で後悔し始めた」という声もありました。
広東省出身のアハオさんは、ビザ免除後すぐにモスクワを訪れた中国人観光客の一人です。90年代生まれの彼は長年にわたり貿易関連の仕事をしており、過去10年で20カ国以上を旅してきたため、個人旅行には慣れていました。
ロシアについてのイメージも、これまでの世界各地での旅行経験を前提にしていたといいます。到着後にSIMカードを入れ、配車アプリで車を呼び、ホテルにチェックインするという一連の流れは、どの国でもほぼ共通のものだと考えていました。
しかし、その想定は空港に着いた時点で崩れました。
国際ローミングのパッケージは有効と表示されているのに、スマートフォンはまったく通信できなかったのです。当初は空港内の電波制限だと思い、スーツケースを引きながら2キロ近く歩きましたが、状況は変わりませんでした。結局、高額な闇タクシーに乗るしかありませんでした。
ホテルに到着してWi-Fiにつながった後、現地の中国人から事情を聞いて、ようやく理由が分かりました。これは機器の不具合ではなく、ロシアが新規入国外国人に対して設けている見えないルールでした。国外のSIMカードは入国後最大24時間、通信が制限されることがあるというのです。
「あの瞬間、本当に呆然とした。つまりこの国に入ったばかりで、最も情報が必要な時に、いきなり『ネットを切断』されるわけだ」とハオさんが語ります。
こうした体験は、モスクワ在住の中国人コミュニティでは決して珍しい話ではありません。現地で長年ビジネスをしている中国人も、この措置は以前から存在しており、安全や管理上の理由が背景にあると説明しました。ただし、公式の観光案内では、こうした点が明確に注意喚起されることはほとんどないのが実情だといいます。
北京から訪れた陳さんは、また別の形で、より大きな落差を味わうことになりました。
ビザ免除政策の発効当日、彼と妻はほぼ「衝動買い」でモスクワ直行便の航空券を購入しました。しかし、その後になって、何かおかしいと感じ始めたといいます。
いつも利用している宿泊予約サイトで、ヒルトンやマリオットといった国際的なホテルチェーンを検索しましたが、いずれも表示されず、残っているのは高額な現地ホテルや民泊ばかりでした。しかも、一般的な民泊でも料金は五つ星ホテル並みでした。
本当の不安は、到着後に一気に押し寄せます。ロシアでは、WeChat Payやアリペイはほぼ使えず、VisaやMastercardのクレジットカードも、多くの場所で通用しませんでした。結局、確実に使える支払い手段は現金だけでしたが、両替やお釣りのやり取りも決してスムーズとは言えません。
「赤の広場に立っているのに、地図アプリでは空港にいると表示される。通信が不安定な状況では、位置情報が大きくずれてしまい、見知らぬ街にいる不安感が一層強まった」と老陳さんは苦笑しながら語ります。
当初はさらに北上し、ムルマンスクでオーロラを追う計画も現実の前に崩れ去りました。現地のホテルは、ほとんどが一泊約2万円(1000元)以上で、星付きホテルなら、約4万円(2000元)からが当たり前でした。国内線の航空券も、驚くほど高額だったといいます。
老陳さんは率直にこう振り返ります。
「これは私が訪れた中で、個人旅行の難易度が最も高い国だ」
記者が複数のSNSを調べたところ、同様の不満や体験談は決して珍しいものではありませんでした。テルイベルカでは記録的な大雪によって道路が封鎖され、3日間足止めされて帰国便に乗り遅れた人もいれば、辺境地域では、言葉が通じず、翻訳アプリも使えなくなり、その場で崩れ落ちて泣き崩れた人もいました。
ある中国人観光客は、「中国人観光客はデジタルへの依存度が非常に高い。一方でロシアの決済・通信・サービス・言語環境は、中国人観光客の習慣と大きくかけ離れている」と指摘しました。
くの旅行者にとって、より強い衝撃だったのは、単なる不便さではなく、価格と体験の釣り合いが完全に崩れていることです。高額な料金、老朽化が進む施設、限られたサービス対応力によって、ビザ免除という利点は、実際の滞在の中ですぐに消耗してしまいました。最初のビザ免除観光客が支払ったのは、高額な試行錯誤の代償だったと言えます。
多くの観光客がSNSで自らの失敗談を共有するにつれ、ウェイボーでの議論も加熱していきました。記事を転載した公式アカウント「Vista看天下」は、次のようにコメントしています。
「中国人がビザ免除でロシアに行ったら何に遭遇するかは、ロシアの歴史や政府、社会、国民について一定の理解があれば、ほぼ予想できたはずだ。唯一予想できなかったのは、こうした話題がトレンド入りすることだった」
ネット上では、皮肉や冗談交じりの反応も多く見られました。
「仲のいい兄弟なんだから、助けてくれてもいいだろう」
「ロシアに行くより、カンボジアに行け。国が勧めているし間違いない」
「ロシアの真の姿を見ろよ」
ビザ免除政策とは、あくまで行政上の手続きを簡素化するものにすぎません。入国しやすくなるだけで、その後に良い旅行体験が保証されるわけではありません。確かに、この政策は中ロ間の人の往来を広げ、ロシアの観光業に新たな客層をもたらしました。しかし、旅行者にとってビザなしは低コストを意味しませんし、ロシア側にとっても、その魅力には限界があります。決済システム、通信環境、言語サービス、インフラの維持といった目に見えにくい条件こそが、ビザの有無以上に、旅行の質を左右します。
最初にビザ免除でロシアを訪れた中国人たちは、決して愚かだったわけではありません。その体験は、ビザ免除という光の裏側にある現実をはっきりと浮かび上がらせました。政府同士の友好関係が、必ずしも一般の国民にまで恩恵をもたらすとは限らないのです。
(翻訳・藍彧)
