グローバル化が進む中で、中国人はすでに世界最大規模の海外旅行者グループとなり、その振る舞いは各国のメディアで取り上げられる機会が増えています。今回、東京発上海行きの便が引き返した出来事は、その象徴的な例と言えます。

 2025年12月1日夜、春秋航空日本の IJ005便が成田を離陸しましたが、目的地の上海に向かう途中で約1時間40分後に引き返す判断が下されました。機材の問題ではなく、中国籍の男性乗客と客室乗務員との口論が長時間続いたことが理由でした。

 発端はごく単純なものでした。男性は同行していた女性と同じ列に座れなかったため、座席変更を求めましたが、満席のため受け入れられませんでした。

 その後、彼は繰り返し乗務員を呼び止めて言い争いを続け、声は次第に大きくなり、通路に立って業務を妨げる場面も見られました。

 説明やなだめた対応も効果がなく、機内には緊張した空気が続きました。機長は最終的に彼の行為を安全上の支障と判断し、引き返しを決めました。22時40分に成田へ着陸し、警察が機内で男性を連れて行きました。他の乗客は遠回りした末に出発地点へ戻ることになり、疲労と落胆を抱える結果となりました。

 引き返し後も混乱は続きました。深夜でカウンターの多くが閉まっており、乗客の多くはロビーの長椅子で夜を明かすしかありませんでした。春秋航空日本は1万円分のバウチャーを配布しましたが、ホテルには利用できず、振替便が用意されたのは翌朝でした。

 男性のその後について日本の警察は「被害届が出ていないため立件せず、事情聴取のみ」と説明しています。一部の中国語メディアは、男性が約55万円の罰金を科された可能性を伝えていますが、確かな情報ではありません。とはいえ、一人の乗客が「同行者と座りたい」という理由で飛行機を引き返させ、百人以上の乗客に影響を与えながら、自身の負担が極めて小さいという状況は、多くの人に驚きと戸惑いを残しました。

 同様の出来事は機内だけではありません。大阪の民泊では、五人の中国人宿泊客が三泊した後、部屋が大量のゴミで埋め尽くされていました。デリバリーの容器やペットボトル、ティッシュ、使用済みタオルが至るところに散乱していたのです。マレーシアでは、料理の提供が遅いことに不満を抱いた中国人女性が店員と口論になり、店員の一言をきっかけに激高してコーヒーをカウンターへ投げつける騒ぎもありました。

 返航便、散乱した民泊、コーヒーの投げつけ。表面的には無関係に見えるこれらの事例には、共通する行動パターンがあります。個人の要求と公共のルールがぶつかった際、一部の人が制度よりも感情で対抗しようとする傾向です。

 このような現象を理解するには、背景となる成育環境に目を向ける必要があります。かつて「礼儀の国」とされたイメージと、現代の一般家庭の現実には大きな隔たりがあります。

 伝統社会では、人前で取り乱さない、失敗すれば「面子」を失う、他者には丁寧に接するなど、細やかな礼儀が重視されていました。しかし政治運動や急速な都市化の中で、これらの価値観は大きく変化しました。残ったのは「損をしてはならない」「機会は自分でつかむ」といった、より実利的で粗い価値観でした。

 駅や病院、観光地で割り込みが見られたり、役所の窓口で大声を出す人が優先されてしまう場面もあります。実際、一部の窓口では強い態度の客を先に処理することもあると言われています。こうした日常経験が「おとなしくルールを守るより、感情をぶつけた方が得だ」という認識を強めていきます。

 この視点で見れば、機内で騒いだ男性は突発的に行動したのではなく、別の場面で通用してきた行動パターンを持ち込んだとも考えられます。「ある程度声を荒らげれば相手が折れるはずだ」という思い込みがあったのかもしれません。

 情緒的に成熟しきれない背景には、家庭教育の影響もあります。一人っ子政策の下で、子どもが複数世代から大切にされる家庭が多く、甘やかしが生じやすい環境がありました。家庭で子どもが感情的に騒ぐと、静かにさせるために要求をすぐに受け入れてしまうことがあり、交渉やルールを学ぶ機会が不足します。

 そのため、大人になってからも対人関係の衝突に向き合う方法が未成熟なままの人がいます。大阪の民泊の宿泊者も、心理的には「誰かが後始末をしてくれる」という感覚を引きずっていた可能性があります。マレーシアのコーヒー投げのような行動は「自分の不快感を相手にも味わわせたい」という単純な反応の表れと言えます。

 さらに近年、「大国としての自尊心」と「外国からの被害意識」が混在した心理も見られます。「中国は台頭している」という語りと、「外国は中国を不当に扱う」という語りが同時に広まり、一部の人々が「海外でお金を使う自分は敬意を払われて当然だ」と感じる一方で、不満があるとすぐに「見下されている」と捉える傾向を生みます。

 そのため、厳しい規則や期待に沿わないサービスに直面した際、まずルールを理解しようとするのではなく、感情を爆発させてしまうことがあります。

 東京の返航便、大阪の民泊、マレーシアのカフェでの騒動。これらはもちろん全ての中国人を示すものではありませんが、社会的な問題を照らし出す事例でもあります。礼儀文化の断絶、家庭教育における甘やかしと情緒管理の不足、現実の中で薄れたルール意識、そして自尊心と劣等感が入り混じる複雑な心理。これらの構造的な要素が背景にあることが浮かび上がっています。

(翻訳・吉原木子)