近年、中国経済の低迷が長引き、中共政権の財政も逼迫する中、政府はさまざまな支出を強制的に削減しています。その一環として進められている軍人向け福利住宅の強制回収は、各地で退役軍人の強い反発を招いており、抗議行動が頻発しています。最近では、上海の海軍基地が現役軍人を動員して抗議活動を力で抑え込んだとして、関連映像がネット上で大きな注目を集めました。

 12月5日にネット上で拡散した映像によると、上海市虹口区の広霊二路380号付近にある海軍基地家属区で、現役軍人や機動警察と住民が激しく衝突しました。当局は大量の部隊を投入し、退役軍人とその家族による抗議を強硬に鎮圧したとされています。

 抗議者によれば、当局は長年の服役を経てようやく得られるはずの福利住宅を一方的に回収し、水や電気の遮断、出入口の溶接といった強制措置まで講じたといいます。このため、住民と当局の対峙は一層激しくなり、押し合いや転倒の危険な場面も見られました。

 映像には、青い作業服にマスク姿、短い刈り上げ頭の若い男性が多数映っており、私服で動員された現役海軍兵士ではないかとの指摘が出ています。対峙の最中、住民がその一人のマスクを引き剝がすと、彼は慌てて顔を覆い、機動警察の背後に身を隠してから新しいマスクをつけ直す様子も記録されています。

 道路の両側には機動警察と抗議する住民が隙間なく並び、退役軍人の一人は機動警察に向かって「あなたたちの前にいるのは共和国の軍人であり、あなたたちの先輩だ。こんなことは他の国では起こらない」と強く批判しました。

 また、ある女性は拡声器で「兵士の皆さん、汚職官僚の道具にされてはいけません。この件は本来あなたたちとは無関係です。汚職官僚は責任を転嫁しようとしています。若い兵士の皆さん、自分を大切にし、悪人の前に立ちはだからないでください」と訴えました。

 別の映像では、抗議者が機動隊車両の進入を阻止しようと車の前に身を投げ出して横たわる場面も映っており、SNSでは「上海にもタンクマンが現れた」「勇気ある行動だ」「覚醒する人が増えているのは良い兆候だ」といった反応が相次ぎました。一方で「中国には人権がない」「中共は用済みになれば切り捨てる。現役軍人も早く気づくべきだ」との厳しい声も見られます。

 必要なときだけ利用し、役目を終えた者を切り捨てるという中共政権の体質は、決して新しいものではありません。退役後の生活に困窮し、老後の保障もない退役軍人は多く、権利を求めて声を上げざるを得ない状況に追い込まれています。

 今年11月1日、云南省曲靖市陸良県では、対ベトナム戦争に参加した元民兵らが、月に1000元にも満たない補助金の支給を求め、公務員や警備員の前でひざまずき、地面を這う映像がネット上に広がりました。当時、彼らは弾薬運搬や陣地構築に従事し、多くが負傷あるいは戦死しましたが、現在は生活困窮に陥り、政府から見放された状態だといいます。

 同じく11月1日と8日には、云南省紅河ハニ族イ族自治州で退役三級士官以上の元軍人が州政府前で座り込みを行い、長年放置されてきた転業安置政策の未履行に抗議しました。映像では、軍服を着た中高年男性が整然と座り、その周囲を警察が取り囲み、多くの市民が遠巻きに見守っている様子が確認できます。

 9月8日にも、対ベトナム戦争に参加した元民兵ら数十人が云南省曲靖市政府を訪れ、毎月800元余りの補助金が支払われないことに抗議しました。彼らは鄧小平が署名した表彰状を掲げ、命がけで戦った自分たちが今では見捨てられていると訴えました。

 ネット上では「道具は用が済めば捨てられる」「政府の役人でさえ給与が遅れているのに、雑務を担ってきた人に金が回るはずがない」「今後の軍事パレードは退役軍人方陣や上訪軍人方陣を編成すればいい」といった皮肉や失望の声が広がっています。

 実際、昨年11月にも東海艦隊上海基地が転業軍人から福利住宅を強制的に回収し、大規模な抗議が発生しました。当時、軍側は「期限内の退去」を通告し、断水・断電、玄関ドアの溶接といった強硬措置で立ち退きを迫ったとされています。影響を受けた世帯は1000戸以上に上り、中には階級の高い元軍人も含まれていました。

 現場映像では、多くの高齢者が道路の両側に並んで横断幕を掲げ、「違法行為に反対」「合法的な住宅の権利を守れ」と訴える姿が映っていました。

 退役軍人の権利問題は長年続いており、習近平政権下ではさらに顕著になっています。2016年10月11日には、1万人を超える退役軍人が中央軍事委員会八一大楼を包囲し、政権に大きな衝撃を与えました。その後、政府は優遇政策や補助金の引き上げを発表しましたが、地域によって運用には大きな差があり、根本的な問題は解決されていません。

(翻訳・吉原木子)