中国全土で地下鉄の乗客が激減し、かつての大混雑が嘘のようにガラガラの光景が広がっています。
地方財政の悪化、不動産危機、そして利用者の減少が重なり、各都市の地下鉄は今、かつてない深刻な赤字に追い込まれています。
路線拡大の時代はすでに終わり、維持すら困難な都市も浮上しています。
中国の都市インフラに何が起きているのか、その実態に迫ります。
中国交通運輸部が最近公表したデータによると、2025年10月時点の全国の都市軌道交通の総延長における平均利用密度は、路線1キロあたり1日約8000人で、前年同月比で5.7%減少しました。
利用密度とは、1日の平均旅客輸送量を路線距離で割った指標で、路線1キロ当たりの利用状況を示すものです。地下鉄がどの程度効率的に運行されているかを判断する基準の1つとされています。
中国国家発展改革委員会の地下鉄建設の審査基準では、利用密度は1キロあたり1日7000人以上であることが求められています。しかし10月時点で、地下鉄が開通している50以上の都市のうち、この基準を満たしたのは3分の1に届かず、残りの3分の2の都市が建設要件を満たしていません。また統計によれば、都市の地下鉄の利用密度は10月まで8か月連続で低下している状況です。
中国では不動産バブルが崩壊する前、地下鉄建設が加速度的に進んでいました。公開資料によれば、2008年までに地下鉄が開通していた都市は、北京、上海、天津、広州、深セン、長春、大連、武漢、重慶、南京の10都市だけでした。
しかし、その後4兆元規模の投資や不動産ブームが追い風となり、地下鉄は急速に拡大しました。2015年には20都市を超え、2019年には40都市を突破する勢いでした。
2024年以降は、多くの都市で「第14次五カ年計画」の建設プロジェクトが相次いで完成し、新たな地下鉄計画の申請が進んでいます。しかし、利用密度の低さを理由に、申請が却下されるケースが相次いでいます。
経済メディア「全景財経」は11月19日、2024年前後には多くの主要都市が新たな地下鉄計画の審査時期に入っているものの、これまでに承認を得たのは成都市のみで、一線都市や省都を含む20都市以上が未決のままだと伝えています。
地下鉄の「土地で稼ぐ」モデルが破綻 節約と値上げで生き残りへ
中国経営報の取材によれば、都市軌道交通の運営担当者は次のように指摘しています。地下鉄網が広がるにつれて、新たに開通する区間は郊外へ延びることが増え、利用者が定着するまでに時間がかかるため、全体の利用密度が薄まっているという見方です。これに加えて、配車アプリ、電動バイク、シェア自転車など、移動手段が多様化したことで、地下鉄の乗客が別の交通手段へ流れていることも影響しています。
地下鉄拡張の勢いが止まった最大の理由は、これまで支えてきた収益モデルが機能しなくなったことです。中国の地下鉄は20年以上にわたり、「軌道と不動産を組み合わせたモデル」に依存してきました。地下鉄を建設することで周辺の地価や住宅価格を押し上げ、その収益を地下鉄の運営に回す仕組みでした。
例えば深センの地下鉄では、2022年の運賃収入が約720億円(36億元)であるに対し、不動産開発の収入は約3200億円(160億元)に達していました。しかし不動産市場の冷え込みで土地の売却が難しくなり、この循環は崩壊しました。地方政府も赤字補填を続けられなくなり、地下鉄会社は支出削減へ舵を切っています。
佛山市では5月8日から全路線の終電を30分繰り上げ、運行間隔も延長されました。それ以前から駅構内の照明が暗く、エスカレーターは節電で停止、車内は蒸し暑いなどの状況が続いており、乗客からは不満の声が絶えませんでした。
サービスの質が下がる一方で、各地は地下鉄運賃の値上げが静かに進んでいます。昆明市や重慶市はすでに料金を改定し、広州市も計算方法の変更によって実質的に値上げしました。乗客にとっては「料金は上がり、サービスは下がる」という厳しい状況です。
中国の地下鉄は「高負債・高赤字」の袋小路に
人口減少、不動産危機、そして地方財政の悪化が重なり、土地収益に依存した地下鉄の運営が限界を迎えています。
中国不動産ネットの報道では、2024年度は政府補助金を差し引くと、全国28の主要都市の地下鉄会社のうち26都市が赤字となりました。
2024年度の主な赤字額は以下のとおりです。
深セン地下鉄グループは約6700億円(334.6億元)の赤字を計上したが、かつては全国で最も収益性の高い地下鉄会社でした。
北京市インフラ投資有限公司は約4320億円(216億元)、天津軌道交通グループは約710億円(35.49億元)、南京地下鉄グループは約1077億円(53.84億元)、瀋陽地下鉄は約475億円(23.72億元)、青島地下鉄は約1760億円(88億元)、成都地下鉄は約1400億円(70億元弱)、寧波地下鉄は約1500億円(75億元)の赤字となっています。
さらに、各都市の地下鉄は莫大な負債も抱えています。「武漢地下鉄網」の報道では、中国全体の地下鉄会社の総負債額は80兆円(4兆元)を超え、一部の会社では負債比率が80%を超えています。利息だけでも毎年巨額になり、武漢地下鉄の負債は4兆円(2000億元)以上、年間の利息支払いだけで数百億元規模にのぼります。多くの都市では負債比率が50〜80%の範囲にあり、蘭州が最も高く82%に達しています。
中国の地下鉄が赤字に陥る3つの理由
中国不動産ネットは、赤字の要因を次の三点としてまとめています。建設コストが非常に高いこと、運営と維持にかかる費用が大きいこと、そして拡張を急ぎすぎた結果、不動産危機とぶつかったことです。
1. 建設コストが高すぎる
地下鉄1キロの建設費は約150億円(7〜8億元)にもなり、地形が複雑な所では約200億円(10億元)に達します。
上海を例にすると、上海地下鉄19号線の1キロあたりの建設費は約400億円(20億元)と、他路線を大きく上回りました。家屋の立ち退きや配管移設などの費用も上乗せされるため、総工費は膨らみ続けています。
2. 運営・維持費が膨大
重慶地鉄の報告書によると、地下鉄の年間運営費は約1200億円(60億元)で、そのうち人件費が約640億円(32億元)と、半分以上を占めています。
北京地下鉄では、年間の電気代が約200億円(10億元)、修繕費が約160億円(8億元)、減価償却費が約1600億円(80億元)、人件費が約600億円(30億元)、その他の運営費を合わせると、年間トータルの支出は約3000億円(150億元)近くに達します。
3. 拡張を急ぎすぎ、不動産危機と衝突
20年以上にわたり不動産市場が成長していた頃は、地下鉄駅周辺の地価が上がり、住宅や学校、病院、商業施設が次々と建設され、人口が集まり、地下鉄にとってもプラスとなっていました。
しかし不動産が失速し、都市が以前ほど拡大しなくなると、土地や周辺商業による利益は縮小し、無秩序な拡張のツケが一気に表面化しました。
(翻訳・藍彧)
