中国の銀行で「お金が引き出せない」事例が相次いでいます。
上海では預金証書が三か月経っても払い戻されず、山東では約87万円(4万元)を引き出そうとした弁護士が執拗な質問を受け、さらには通報までされました。システム不備や反詐欺対策を名目に、銀行が預金者の正当な権利を妨げるケースが広がり、国民の間では「自分の預金が本当に戻ってくるのか」という根本的な不安が強まっています。
上海で3か月間、預金が引き出せず
今年6月、上海の顧(グー)さんは、1997年に預けた2本の定期預金を引き出すために、中国建設銀行の上海黄浦支店を訪れました。本来であれば、元金と利息を合わせて約17万円(8000元)を受け取れるはずでした。しかし銀行職員からは、システム上に記録が見つからないため、本部の担当部署での確認が必要だと説明されました。その後の三か月間、銀行の回答は「確認中」という言葉だけで、状況は全く進展しませんでした。顧さんが苦情を申し立てたことで、銀行からの折り返し電話は増えましたが、説明内容に変化はなかったといいます。
銀行側は、顧さんの名前に含まれる「珮」という字が当時のシステムでは入力できず、窓口担当者が別の漢字で代用して登録し、後から手書きで修正した可能性があると説明しています。そのため、後のシステム移行の過程でデータが欠落したのではないかというのです。しかし顧さんは、同じ1997年、同じ名前で預けた他の定期預金は問題なく払い戻しができており、特に2004年に預けた定期預金では利息だけで約17万円を受け取れたと指摘し、「なぜこの2本だけ記録がないと言われるのか」と疑問を呈しています。
銀行側も、長年にわたるシステムのアップグレードや統合によって、データが失われる可能性を否定できないと認めています。現在は複数部署で構成された調査チームが確認作業を進めていますが、原始データが見つからず、払い戻しの手続きが進まない状態です。銀行職員によれば、システム上の問題であることが確認されれば、内部手続きを経て「営業外支出」として払い戻すことも可能ですが、「まず原因を特定する必要がある」と説明しています。
こうした対応について、劉雪妮(リウ・シュエニー)弁護士は、中国の商業銀行法では、預金者が本物の定期預金通帳を所持している限り、銀行側が偽物であると証明できなければ無条件で払い戻す義務があると指摘し、「銀行は自らの管理不備を理由に、預金者に負担を押しつけてはならない」と批判しています。
山東省 預金者の引き出しを妨害
11月3日、北京の弁護士・周筱赟(ジョウ・シャオユン)氏が山東省東営市を訪れた際、現地の中国建設銀行の支店で約87万円(4万元)を引き出そうとしました。しかし窓口では、取引目的や購入予定の品物について細かい質問が続き、さらに前月の送金記録を取り出され、その資金の出どころまで説明を求められました。周氏は、中国人民銀行の規定では5万元未満の現金引き出しに用途説明は不要だと説明したものの、窓口担当者は「内部規定では1万元以上は説明が必要」と主張し、手続きを拒否したうえで警察に通報しました。
約30分後、銀行は「警察と連絡が取れなかった」と述べて手続きを進め始めましたが、周氏はこのような「通報した後にようやく許可する」対応では安心して取引できないと感じ、引き出し自体を断念しました。
この出来事が注目を集めると、建設銀行東営支店は「20万円以上の取引は詐欺対策センターの要請で用途確認が必要だ」と説明しました。しかし東営市の詐欺対策センターは「そのような要請を出したことはない」と明確に否定しました。
直後には、銀行職員による内部告発動画がネット上で拡散しました。動画では、この件が報じられた後、多くの銀行が緊急会議を開き、弁護士、公務員、教員など「対応が難しい相手には慎重に対応する」よう指示する一方、一般市民には従来通り「厳格な対応」を続けるよう求めていたとされています。職員からは「お金を引き出せるかどうかは国の規定ではなく、上司の一言で決まる」といった不満の声が上がっています。
ネット上には、「口座凍結」「引き出し時の繰り返しの質問」「送金制限」といった同様の経験談が相次ぎ、銀行が説明する「詐欺対策」が本当に目的なのか疑問視する声が広がっています。あるコメントでは、「詐欺師は数千万円を簡単に送金できるのに、普通の人が1万元を引き出すだけで根掘り葉掘り聞かれるのはおかしい」と批判されています。
お金を銀行に預けても大丈夫なのか?
今回の二つの出来事は場所こそ異なるものの、共通しているのは銀行と預金者の信頼関係が揺らぎ始めている点です。上海では「記録が見つからない」として払い戻しが三か月も進まず、山東省では「引き出すだけで厳しい審査」が行われています。本来サービスを提供する立場である銀行が、その役割を果たさなくなっているのです。
銀行は、システムトラブルを理由に払い戻しを遅らせたり、詐欺対策を名目に職員に「大口現金を簡単に出すな」と指示したりしています。経済状況の悪化で銀行経営が苦しくなる中、その負担が一般の預金者に転嫁されているのは明らかです。
中国の法律専門家は、銀行がどれほど経営的なプレッシャーを抱えていようとも、まず守るべきは「預金者が自分のお金を自由に扱う権利」だと指摘しています。定期預金の払い戻しも、日常的な現金引き出しも法律で保障されており、銀行が「内部規定」「システム上の問題」「上司の判断」などを理由に拒否することは認められていません。
上海では顧さんの定期預金が三か月も「記録なし」とされ、山東省では周弁護士が預金を引き出そうとしただけで通報されました。国民の関心は、単なる技術的ミスや一部店舗の問題ではなく、「銀行に預けた自分のお金が本当に安全なのか」という根本的な不安に向かっています。預金者が「銀行に預けたお金を普通に受け取れるのか」と疑い始めた時点で、金融システムの土台である信用は大きく揺らぎます。
現在、上海の建設銀行は顧さんの件について「担当者を特別に割り当てて調査しているが、作業量が多く時間を要する」と説明しています。一方、山東省の件は世論の高まりを受けて内部で議論が行われましたが、具体策は示されていません。二つの出来事は今も波紋を広げています。
経済が減速し、金融リスクが高まる中、預金者が銀行に求めるのはただ一つ、「預けたお金が問題なく預け入れでき、必要な時に円滑に引き出せること」です。しかし現在では、システム不具合や詐欺対策を理由に、この基本的な要求でさえ容易には満たされなくなっています。
多くの国民が「これほどお金が引き出しにくくなっている今、私たちは本当に銀行に預金を任せてよいのか」と問いかけています。今回の二つの事件は、この根源的な疑問を突きつけています。
(翻訳・藍彧)
