近日、日中関係が緊張するなか、中国当局は国民に「日本への渡航を控えるよう」呼びかけました。その直後、中国メディアは「日本行きの航空券が50万枚キャンセルされた」と報じました。しかし、上海や深圳の航空関係者によれば、実際の運航状況は公式説明とは大きく異なり、日本行きの便は通常通り飛んでおり、搭乗率も依然として高い状態が続いています。SNSに投稿された機内写真でも、座席がほぼ満席である様子が確認できます。

 11月14日、高市首相が国会で「台湾有事は日本の存亡危機につながり得る」と述べたことを受け、中国政府は強く反発し、治安悪化を理由に日本への渡航を控えるよう改めて国民に呼びかけました。

 『南華早報』によれば、独立航空アナリストの李翰明氏は、通知後に49万1,000枚の航空券がキャンセルされ、その7割が往復券であり、これは、全体の日本行き航空券の約3割に相当すると報告しています。中国国際航空、南方航空、東方航空の国有大手3社も、日本線について年末まで無料で変更・払い戻しを受け付けると発表しました。

 しかし、第一線の現場から聞こえてくる声は政府発表と大きく異なります。上海浦東国際空港のスタッフ・肖婷さん(仮名)は、「日本路線の需要は常に強く、キャンセルが出てもすぐに埋まります。満席から“ほぼ満席”になった程度で、売り上げに大きな変化はありません」と話します。深圳の旅行社の周さんも、キャンセル自体はあるものの割合は大きくなく、空席はすぐに利用客で埋まります。と述べています。

 航空会社の客室乗務員チーフ・田莉さん(仮名)も、「オフシーズンでも広州発の日本行きは乗客が多いです。数日前はキャンセルが若干増えましたが、すぐ元に戻り、むしろ購入が増えています。“50万枚キャンセル”という報道は現場の状況と一致しません」と説明しています。

 SNS上には「機内はほぼ満席」「空席を探す方が難しい」といった投稿も多く、ある旅客は「政府の言うことを聞かずに日本に来たのは自分だけかと思ったら満席で笑った」と書き込んでいます。

 15日の朝日新聞によると、上海浦東空港の大阪便チェックインカウンター前には長い行列ができており、多くの旅客が落ち着いた様子で搭乗を待っていました。渡航自粛の通知について尋ねると、「知っているが政治とは関わりたくない」「自分には関係ない」という声が大半でした。

 11月19日時点でも北京・上海・広州・深圳など主要都市からの日本への便は通常運航されています。日本側も減便を発表していません。学者の張晨氏は、こうした通知は「政治的姿勢を示すための行政シグナル」である。実効性は限定的だと分析します。多くの市民は自らの判断基準を持っており、政治的メッセージによる旅行計画の変更は少ないといいます。

 また、中国当局が「観光制限」を通じて日本に圧力をかけようとしているとの見方も強まっています。中華民国のジャーナリスト・矢板明夫氏は15日、SNS「X」で、中国政府が高市首相の発言に対する“報復措置”として日本への渡航自粛を打ち出したと指摘しました。中国外務省が14日深夜に「在日中国人の安全が脅かされている」と発表した点について、矢板氏は「事実と一致しない」と批判しています。実際、日本を訪れる中国人観光客は依然として多く、治安上の問題も報告されていません。

 矢板氏は、国有航空3社の無料変更・払い戻しも「商業判断ではなく政治判断」であり、日本の観光業に打撃を与え、高市政権に圧力をかける狙いがあると述べています。2024年には約690万人の中国人観光客が日本を訪れており、中国がこの点に着目していると指摘しました。

 一方で矢板氏は、中国が高市首相の強固な支持基盤と日本社会における中国への反発を軽視していると警告します。高市内閣の支持率は70%以上を維持し、渡航自粛の呼びかけは中国による「経済的な手段を使った日本への内政干渉」との批判が日本国内でも広がっている。短期的には、高市政権が揺らぐ可能性は低いとみられています。しかし、今後、中国がさらに圧力を強めた場合、日本の政局が揺らぐ可能性があると矢板氏は述べています。自民党が国会で過半数を持たない現状であり、改革を急ぎ成果を国民に示さなければ、長期的な緊張関係下で政権を維持するのは難しいと分析しています。

(翻訳・吉原木子)