上海で、日本人学校を狙った脅迫めいた書き込みが問題となっています。過激な発言の背景には、長年続いてきた反日教育や、ネット上で繰り返し増幅されてきた外国への敵意があります。今回の一件は、こうした感情が徐々に制御を離れ、社会全体の安全に影響を及ぼし始めている現実を浮き彫りにしています。

 最近、上海在住のある男性が日本人学校に対して暴力を示唆する内容をWeChatグループに書き込んだとして、ネット上で大きな波紋が広がっています。男性はグループチャットの中で「月曜日に日本人学校へ行く」「もう待てない」などの極端な発言を投稿し、日本人学校に向かう意図をほのめかしていました。これらのスクリーンショットはSNSで急速に拡散し、多くの注目を集めました。後に男性は警察に呼ばれ、派出所で事情聴取を受けています。筆録によると、彼は「グループ内で日本人学校の話題が出ていたため感情的になり、軽率に不適切な発言をしただけで、実際に行動する計画はなかった」と説明しました。

 チャット画面を見ると、この出来事が「上海白帽子グループ」と名付けられたWeChatグループで起きたことが確認できます。誰かが外部ニュースを持ち込んだ後、当該男性は暴力を示唆するメッセージを連続して投稿しました。グループ内のメンバーは最初こそ戸惑ったものの、彼が指しているのが上海虹橋地区にある日本人学校であることをすぐに理解したようです。

 複数の研究者は、今回の騒動は偶然ではなく、長年にわたる反日・反西側の言説の蓄積が背景にあると指摘しています。中国の教育やメディアでは、特定の歴史的ナラティブが繰り返し強調され、その結果、特定の国を語る際に固定的な感情反応が形成されているといいます。

 中国のネット規制を研究してきた趙さんは「中国共産党は教材、映像作品、宣伝媒体などを通じて特定の国家イメージを作り上げてきた。そのため、日本やアメリカを語る際、衝動的で過激な表現が習慣化している人もいる。中国のインターネットでは発言の境界線が非常に不明確で、多くのネットユーザーがどこまで許容されるのかを把握できていない。現在の言論環境では、外国を攻撃したり反日・反米発言をしたりすることは『安全な感情のはけ口』と見なされがちだが、同じ表現が中国の指導部や政治制度、敏感とされる政策に向けた場合、すぐにアカウント停止や拘留につながる可能性がある」と指摘しています。

 かつて上海で教員をしていた顧さんも、ネット上の言論と学校教育が相互に作用し、若い世代の外国観を形作っていると指摘します。彼は教員時代、学生たちが外国を侮辱するネット用語を日常的に使うのを繰り返し耳にしており、その一部は授業の議論にまで持ち込まれていたといいます。顧さんは「歴史の授業では反日や反西側を強調する内容が多く、試験問題にもその傾向が見られる。これは日常的に行われていることだ。私はこうした教育に強い違和感を持っているが、現在の体制下では現場レベルで根本を変えることはできない」と話しています。

 また、陳情者の劉さんも、中国のネット上には憎悪に満ちた表現が溢れており、それらが「反日」「反米」という文脈にある限り、通常は厳しい処罰につながらないと述べています。彼は、中国高官の家族に関する情報を話題にしただけで有罪判決を受けた若者の例を挙げました。「その子は誰かを脅したわけでもない」。それと比べると、今回のように暴力を連想させる発言があっても、警察が事情聴取し筆録を取るだけで済ませているのは、中国当局が言論の内容によって明らかに異なる対応をしている証拠だと指摘しています。

 別の経済系ブロガーも、もしネットユーザーが中国国内の公共施設に対して脅迫めいた書き込みをしたのであれば、「事情聴取だけで済むはずがない」と述べています。彼は、反日的な憎悪表現を当局が長年黙認してきたことが、特定の言論空間を作り出したと批判しています。「反日を前提とした言説は長く存在してきた。今回の処理は、他の公共安全に関わる脅しと比べても、あまりにも軽い」と話しています。

 実際、中国各地ではここ数年、日本人や日本人学校を狙った深刻な事件が相次いでいます。2024年6月には、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバス停留所付近にいた男が、日本人母子を刃物で襲い、中国人のスクールバス職員が死亡しました。同年9月には、広東省深セン市で10歳の日本人男児が登校途中に刺され、命を落とす事件が起きました。こうした事件は日本社会に大きな衝撃を与え、日本外務省は繰り返し中国側に懸念を示し、在留日本人の安全確保を求めています。

 今回の脅迫的な書き込みが明るみに出た時期は、日中関係が政治的摩擦によって緊張していた時期と重なります。高市早苗首相は最近、国会で「台湾有事は日本有事である」と述べ、台湾情勢の悪化は日本の「存亡危機事態」になり得ると名言しました。この発言は中国のSNSで大きな反発を呼び、中国外交部は強く抗議し、両国間の交流事業の一部が中断されました。世論も一段と高まっており、こうした状況は、日本関連施設に対する脅迫的な発言は特に敏感に受け止められます。

 しかし、それでも反日・反米発言に対する中国当局の対応は、中国共産党に向けられた批判に比べるはるかに緩いという見方が広くあります。

 上海で働く許さんは、複数のWeChatグループで日本やアメリカを攻撃する発言を多く目にしますが、グループ管理者やプラットフォーム側はほとんど注意しないといいます。「中国共産党を批判してみてください。政府の不当な徴収について文句を言ってみてください。すぐにグループから追い出されるか、アカウント停止になる。だが反日、反米の発言は誰も規制しない。完全な二重基準だ」と話しています。

 よりマクロな視点で見ると、今回の上海のWeChatグループ事件は、突発的な感情によるものではなく、長年蓄積されてきた憎悪のナラティブが表面化した結果といえます。反日や反米を前提とした教育や宣伝は、社会の隅々まで浸透し、制度化された感情のはけ口になってきました。こうした感情が奨励される場面では「ナショナリズム」として扱われますが、少し方向が変わり、具体的対象に向かったり公共の安全に触れたりすると、急に制御されます。この構造が危うい心理的習性を生み、憎悪は点火されやすい一方で、思い通りにコントロールすることは難しくなります。

 今回の事件は、こうした感情が「管理可能な範囲」を超えつつある兆候を示しています。外部への敵意によって国内の結束を保とうとする統治手法は、いずれ自らに跳ね返る可能性があります。社会が憎悪を教育の道具とし、敵意を政治的ナラティブの一部として組み込むようになると、その感情は最終的に外国に向けられるだけではなく、予測できない方向へと変質し、公共安全や社会の安定にとって見えないリスクとなり得ます。

(翻訳・藍彧)