日本と中国の関係が再び緊張を高めています。発端は、高市首相の「台湾有事」発言でした。この発言は日本国内ではすでに広く認識され、共有されつつあります。しかし、これに対し、中国側は強く反発しました。中国外交部は15日深夜に批判声明を発表し、その直後に海事当局が黄海で3日間の大規模な実弾射撃演習を行うと予告しました。これは、射撃範囲の広さや緊急性の高さから見ても、対外的な示威行動であることは明らかです。

 さらに、中国外交部は、14日中国国民に対し「当面、日本への渡航を控えるように」と呼びかける異例の旅行警告を発出しました。国有大手航空3社がすぐに無料の払い戻しや変更を受け付けたことで、日本国内では在留邦人の安全確保に対する不安が広がり、在中国日本大使館は17日、中国在住の日本人に向けて安全確保に努めるよう呼びかけました。

 表面的には、中国が対日強硬路線を一段と強めたように見えます。しかし今回、より注目すべきは中国国内の世論の変化です。これまで日中関係に摩擦が生じるたび、中国のネット空間では強いナショナリズムが瞬時に高まり、「日本製品の不買運動」や「怒りの声」が多く広がることが一般的でした。ところが今回は、そうした一斉に動員された感情の爆発はほとんど見られません。

 確かに、一部には「安全のため旅行を取りやめた」という声もあります。しかし、今回、より多く見られるのは「政治は政治、生活は生活」と冷静に切り分ける姿勢です。すでに日本を訪れている中国人観光客はSNSで現地の様子を発信し、「観光地は平穏で街は通常通り」「欧米観光客も多い」と報告しています。通知が出たからといって旅行計画を変更するつもりはないという声も多く、この冷静さが今回のSNSのメッセージの主流となりつつあります。

 シンガポール紙『聯合早報』の取材によれば、日本行きを取りやめた人の多くはもともと海外旅行に不慣れな層であり、政府の警告によって大多数が一気に行動を変えたわけではありません。従来のように「政府の強硬姿勢に国民感情が追随する」という構図は、明らかに揺らぎつつあると言えます。

 また、以前は強い影響力を持っていた中国の宣伝体制にも、効果の低下を思わせる兆しが見られます。SNS上では、「政治ショーの繰り返し」「ペロシ訪台のときも騒いだだけで何も起きなかった」といった冷めた声が広がっています。若い世代を中心に、国の政治と個人生活を切り離す傾向がさらに強まり、旅行、消費、余暇といった日常的な選択を政治に左右されたくないという意識が顕著になっています。

 一方、台湾の反応は中国とは対照的です。台湾総統府は、中国が周辺国に複合的な圧力をけており「地域の安定を損ねている」と明確に批判しました。台湾日本関係協会の蘇嘉全会長も、中国の抗議はすでに定例化しており、国際社会はそれを実行力の伴わない政治的パフォーマンスとして受け止めていると指摘しています。台湾のネット世論でも「またいつもの脅しだ」「もう慣れきっていて怖くない」という声が多く、中国の強硬姿勢が心理的影響を与えている様子はありません。

 今回の一連の動きを見る限り、東アジア情勢が緊張を増していることは確かですが、同時に中国社会における意識の変化こそ、より深く注目すべき点だと感じます。政治が一声かければ国民が一斉に感情を高める時代は徐々に遠のきつつあり、国家が強いジェスチャーを示せば示すほど、人々がむしろ現実的で個人主体の判断を重視する傾向が見えてきます。
今回も、旅行を取りやめる人がいる一方で、富士山の紅葉を見に行く人がいます。政府の姿勢を支持する人がいる一方で、「またパフォーマンスだ」と冷笑する人もいます。不安を感じる人もいれば、「自分の生活を守りたいだけだ」と語る人もいます。これらが同時に存在する状況は、反抗でも親日化でもなく、個人の判断を優先する現実主義の広がりを示しています。

 国家の政治的動きが激しくなればなるほど、人々は生活者としての感覚を強めているように見えます。政治の嵐がすぐに日々の生活を変えるわけではありません。むしろ「日常を守る」という思いこそが、多くの中国人にとってより重要な価値になりつつあります。この静かな変化は、今後の中日関係を考える上でも見逃せない動きになっていると感じます。

(翻訳・吉原木子)