現在、中国経済は下落が続いており、銀行システムもその影響を強く受けています。圧力はかつてないほど高まり、中国の6大国有銀行のうち農業銀行を除くすべての銀行で支店の閉鎖が進んでいます。2024年には全国で約361支店が姿を消し、平均すると毎日1支店がなくなっている計算になります。銀行の資金余力には徐々に不安が生じ、口座にお金があるのに引き出せないという事例がネット上で頻繁に注目され、広く議論を呼んでいます。

 10月29日の夜、中国工商銀行のスマートフォンアプリで技術的なトラブルが発生し、一部利用者の預金残高や金融商品の情報がアプリ上で一時的にゼロと表示されました。復旧作業は10月30日の午前8時頃に始まり、完全に正常化するまでにさらに2日ほどかかりました。今回の障害で影響を受けた利用者は全国で約2000万人に達し、工商銀行アプリの月間アクティブユーザー全体の8%に相当します。

 この出来事は社会全体に大きな不安を広げ、ネット上では瞬く間に議論が広がりました。多くの利用者は、自分の口座残高がゼロと表示された瞬間、言葉にならないほど動揺したと述べています。

 河南省のある工商銀行利用者は、当日の夜に外で酒を飲み、会計のために現金を引き出そうとしたところ、口座にあったはずの十数万元がゼロと表示されているのに気付き、その場で警察に通報したといいます。アプリが復旧した後、彼はすぐに預金を移動させ、一部を香港上海銀行(HSBC)へ、残りを招商銀行へ移しました。

 浙江省のネットユーザーは10月31日に投稿し、自分が購入したばかりの工商銀行のファンドが突然消えたと述べました。金額は約7万6000円(3800元)でしたが、突然の異常表示に金融システム全体への不信感を抱いたといいます。取引明細は残っているものの、口座画面では残高を確認できなかったとのことです。

 広州市のインフルエンサーも番組内でこの異常について言及しました。アプリを開いた瞬間に残高がゼロと表示されたため、最初はスマートフォンがウイルスに感染したのかと思い、一時は警察への通報を考えたといいます。しかし、知人たちの投稿を見ると、同じ状況になっている利用者が多数いることが分かり、そこで初めてシステム側の問題だと理解したとのことです。同インフルエンサーは番組で、この事故は預金者が銀行に抱いていた最も基本的な信頼を揺るがしたと指摘し、資産は一つの銀行に集中させず分散させるべきだと助言しました。また、デジタルツールへの過度な依存を避け、定期的に窓口で通帳記入を行っておくことも重要だと強調しました。

 広東省のネットユーザーの一人は、10月30日の早朝5時頃、父親から預金が消えたと慌てた様子で電話があり、すぐに警察に通報するよう求められたと話しています。父親は不審なリンクをクリックしてしまったのではないかと疑ったようです。これについて工商銀行のカスタマーサービスは10月30日、アプリ内の資産表示に遅延が生じただけで実際の資金には影響がなかったと説明しました。

 工商銀行本店技術部門の元職員はネット上で、この件は深刻な内部技術トラブルに該当すると指摘しました。工商銀行はシステムがほぼ復旧したと説明していますが、11月1日の時点でも北京市の利用者の中にはアプリにログインできないとの投稿が続き、SNS上では同様のトラブルがに遭遇した他の利用者にも起きていないか確認する書き込みが相次ぎました。

中国の銀行システムに潜む巨大な技術リスク

 今回のトラブルについて、海外在住の元中国建設銀行・投資銀行部総裁である翟山鷹(てき・さんよう)が、自身の番組で詳しい分析を行いました。

 翟山鷹によれば、中国の国有大手銀行が現在使用する情報システムは1980〜90年代に構築されたもので、当初はIBMの大型コンピューターを中心とした設計でした。その後、技術革新に合わせて何度もシステム更新が行われましたが、基本構造は古いシステムを土台にし、その上に補修のようなアップデートを重ねてきただけで、複数の機能をつぎはぎしたような仕組みになっているといいます。

 こうしたシステムは数十年の運用の中で何度も外部委託され、コスト削減やメンテナンスの容易さを理由に、現在では膨大な非コアデータが外部委託先のサーバー上で稼働しています。そのため外部から侵入されやすく、もし問題が発生した場合、とくに外部委託部分に異常が起きた場合には復旧にどれほど時間がかかるか予測できないと指摘しました。さらに、何者かが意図的に問題を起こした場合、安全面でのリスクはさらに深刻になると警告しています。

中国当局は金融不安を統制で封じ込めている

 上記のような技術的脆弱性が存在することは、中国の国有銀行も十分に認識しています。しかし、根本的な改善を避ける背景には、中国共産党(中共)の統治メカニズムのもと、システムの欠陥を改善しなくても市場リスクを回避できるという考え方があると指摘されています。

 例えば銀行で取り付け騒ぎが発生した場合、中共は銀行側の問題解決ではなく、公安を現場に派遣して預金者を強制的に排除し、列を作らせないようにします。つまり、預金者に対する強権的な統制で問題を封じ込めるのです。

 また銀行内部で不良債権が膨らんだ場合も、金融監督当局は大手銀行による買収や再編を指示し、財務諸表を見かけ上整えることで対処します。不良債権そのものを解決するのではなく、数字の見た目だけを修正するのです。

顧客資産が危険に晒される現実

 翟山鷹は自身の番組で重大事件を例に挙げました。2018年、工商銀行南寧支店の元幹部である梁建紅(りょう・けんこう)が職務を悪用し、偽造した預金証書などを使って顧客の資金約54億円(2億5300万元)を不正に引き出した事件です。この事件は中国全土に衝撃を与えました。

 翟山鷹は、世界の近代商業史を振り返っても、銀行幹部が職権を使って顧客の巨額預金を盗むという事件はほぼ中国でしか発生しておらず、しかも頻繁に起きているのは異常だと指摘しています。

 さらに、こうした事件の処理がいつも同じである点も問題だと述べています。銀行自体は責任を問われず、裁判では必ず個人の詐欺として処理され、損失の全責任は職員個人に押し付けられてしまうのです。

 翟山鷹は、中国では過去10年の間に銀行トラブルが繰り返し発生してきたにもかかわらず、預金者が救済された例はほとんどないと指摘します。その結果、多くの中国人、特に若い世代は、銀行が正確な情報を提供する可能性は極めて低いと考えるようになっており、透明性が非常に低いこと、利用者の権利が十分に守られていないことが浮き彫りになっていると述べています。

(翻訳・藍彧)