中国の不動産開発が急速に進む中で、建設会社が品質よりスピードを優先してきた結果、その歪みが次々と表面化しています。最近では、江蘇省で複数階建ての住宅が地盤沈下により大きく裂け、住民の間に不安が広がりました。このニュースをきっかけに、中国の建築品質に対するネットユーザーの関心が再び高まっています。
一方で、住民が自己判断で住居を大がかりに改造するケースも後を絶たず、これもまた中国全土で見られる深刻な安全リスクとなっています。
住宅にひび割れ、住民が緊急避難
11月2日、江蘇省丹陽市当局は、台陽団地38号棟で不均等な地盤沈下が起き、建物の一部に亀裂が発生したと発表しました。
11月1日夜11時、台陽団地38号棟の住民たちは、壁が裂けるような「ガラガラ」という音で目を覚ましました。窓を開けて確認すると、外壁の亀裂には手のひらが入るほど広がっており、玄関のドア枠は歪んで平行四辺形のような形に。暗闇の中で階段を降りた住民は、建物全体が揺れている感覚があったと言います。
その後1時間以内に住民は緊急避難しました。パジャマのまま子どもを抱えて逃げ出す人、スマートフォンと財布だけ持って飛び出す人もいました。午前2時には38号棟西側の出入り口が封鎖され、周辺の35、37、39号棟の住民も避難しました。現場は立ち入り禁止のテープで囲まれてました。
1994年に建設されたこの古い団地は、「建物全体の不均一な沈下」で話題となりました。住民が怒っているのは、半年前から外壁に細かなひび割れが見られ、複数の住民が通報していたにもかかわらず、管理会社が「古い団地なら自然な沈下だ」とごまかしていたためです。
現場でライブ配信していた女性は涙ぐみながら、「嫁いできてからずっとここに住んで30年。今は自分の家にすら戻れないなんて」と語りました。別の高齢女性は、ひび割れを指差しながら記者に「もし最初から対応してくれていたら、こんなに大きく裂けてレンガが見えるまで放置されなかったはず」と憤りました。また、ある住民は購入時の「70年の使用権」と書かれた契約書を取り出し、「まだ31年しか経っていないのに、残り39年は誰が補償してくれるのか」と苦笑しました。
地元のネットユーザーは「家に座っていただけで災難が降ってきた」とコメントしました。ほかの地域のネットユーザーも「今日は丹陽市で、明日はうちの番かもしれない」と不安を口にしました。
事件が広まると、コメント欄は「全国版・住宅崩壊体験談」の場となりました。河北省滦平(らんへい)団地ではリビングの床に10センチの穴ができた動画が投稿され、上海の高層ビルの傾斜率が基準値を超えていると指摘する声もありました。さらには「中国の家は、住民の勇気で立っているようなものだ」と語るネットユーザーもいました。
近年、このようなおから工事が頻繁に起きています。業界関係者は匿名で、こうした混乱の背景には「施工段階での体系的な手抜き工事」があると明かしています。本来3回行うべき地盤の締め固めを1回しか行わない、鉄筋は規格より細いものにすり替える、監理会社は賄賂を受け取ってそのままサインする、といった実態です。
さらに皮肉なのは、こうした問題が竣工検査の段階で既に隠されていることです。ある住民が自宅マンションの竣工検査報告書を見ると、明らかなひび割れが「装飾模様」と記載されていたといいます。
ネットユーザーのコメントは鋭く、「70年使用権なんて言葉遊びにすぎず、実際の寿命は30年が限界だ」と皮肉っています。中には「家を買う前に、構造安全の資格を取らないといけない時代だ」と嘆く声もありました。
事故後の責任追及は、道のりが非常に険しいのが現実です。まず責任の所在があいまいになります。デベロッパーは「地質条件のせいだ」と主張し、施工会社は「設計通りに工事した」と言い張り、管理会社は「日常管理は十分に行った」と責任を回避します。訴訟に踏み切っても、審理は長期化し、鑑定費用も高額です。建物構造の鑑定は最低でも約200万円(10万元)からで、一般家庭には重い負担です。
賠償基準も不透明です。「住宅品質保証書」では、地盤と主要構造部分の保証期間は「合理的な使用年限」とされていますが、この「合理的」という言葉が争点となり、結局責任の押し付け合いになります。
弁護士によれば、こうした案件では最終的な賠償額が購入時の価格を基準に算出されるケースが多く、価格上昇やリフォーム費用は考慮されないのが一般的です。台陽団地の住民も試算しましたが、1994年の購入時平均価格は1平方メートルあたり約10000円(500元)だったが、現在は周辺相場が1平方メートルあたり約26万円(1.2万元)に達しています。それなのに購入時の価格基準で賠償されれば、とても納得できません。
さらに深刻なのは、権利を守るための費用と得られる補償が釣り合わないことです。湖南省のある団地では、住民が建物傾斜問題で3年間にわたり訴え続け、約540万円(27万元)の弁護士費用を払ったにもかかわらず、各家庭の賠償額はわずか約100万円(5万元)しか得られませんでした。こうした例が相次ぐ中、多くの人が「修理して住み続ける方がまだマシ、資産を失うよりはまし」として、泣き寝入りを選んでいます。
长沙市で改装中の壁の崩落事故
住宅そのものの品質不良による危険だけでなく、近年は住民が建物の安全性を無視して勝手に改築し、事故につながるケースも増えています。例えば2023年には、ある住民が地下室を独自に掘り広げた結果、建物全体が危険建築と判定された事例もありました。そして今回、湖南省长沙市でも悲惨な事故が起きました。
10月31日夜、湖南省长沙市の潮宗街(ちょうそうがい)で突然事故が発生しました。改装工事中の店舗の外壁と足場が突然崩れ、通りかかった4人の歩行者を瞬時に押し潰しました。
澎湃新闻の報道によると、11月1日時点で負傷者は女性3人、男性1人で、いずれも25歳未満。このうち2人の女性は手当ての甲斐なく亡くなりました。
潮宗街は长沙市で2番目に指定された歴史文化エリアで、市内に現存する4本の石畳道路のひとつです。青いレンガが組まれた独特の街並みは、太陽光に照らされるとまるで古い映画のワンシーンのようで、若者にも人気の観光スポットです。
ネットユーザー「奇思妙想草叶君」によると、事故当日の夜はハロウィーンで多くの市民が集まっており、人通りが非常に多かったとのことです。壁が崩れ落ちた瞬間、ちょうど数人がその下に立っており、直撃を受けました。
現場写真からも、壁がほぼそのままの形で崩れ落ち、建物本体と壁をつなぐ構造もほとんど見えなかったことが分かります。崩壊後、壁に立てかけられていた三脚の足場も、落下したレンガにより大きく曲がり変形しました。頑丈な足場ですら壊れたことを考えると、下敷きになった人々の受けた衝撃は相当なものでした。
現場にいた記者によると、この店舗は2階建てで、プレハブのような構造で、建築年代は不明です。周辺の商店主は「工事が始まる前からかなり大掛かりな改装で、壁に穴を開けて鉄筋がむき出しになっていた。騒音と粉じんもひどく、何度も苦情を出した」と振り返っています。
事故直前の動画には、店舗の外側が白いシートで覆われ、「賃貸募集」と書かれた張り紙が見られます。歩道側には簡易的な暗色プラスチック柵が置かれているだけで、正式な安全対策区域は設けられていなかったことが分かります。
(翻訳・藍彧)
