最近、上海のある小学生の保護者がSNS上で動画を投稿しました。その投稿には、上海市疾病予防コントロールセンターから配布されたとみられる「保護者への告知書」と「上海の生徒の一般的な疾病および影響要因に関する縦断調査同意書」を子どもが通う学校から受け取ったと記されていました。書類には保護者の署名と同意が求められており、この件が保護者の間で波紋を呼んでいます。
動画には、告知書と同意書の実物写真が映されていました。署名欄も確認できます。投稿した保護者によれば、これは一般的な健康診断とは異なり、赤血球の採取等の生物試料の検査・識別などの項目が含まれていたとのことです。しかも、同意書には「自発的同意」の署名欄が複数あり、さらに「毎年、子どもに約1000円(50元)相当の贈り物を支給する」と明記されていたといいます。当初、その保護者は「署名をしなければ先生に何か言われるかもしれない」と考えていたようです。しかし、「今の時代、血液型や組織サンプルは非常に重要な個人情報だ」との思いから、最終的に署名を拒否しました。動画の最後では、「みなさんも同じような書類を受け取りましたか?どう対応しますか?」と問いかけています。
この動画は投稿後、全国各地のネットユーザーからのコメントが殺到しました。コメントの中には、「今や医者すら恐ろしく感じる」「まさか小学生に手を出すとは」「良いことなら無理にやらせる必要はないだろう」「学校で採血された後、子どもが行方不明になった事例があるが関係はないのか」との不安の声が上がっています。さらには「人間は資源だ。飼っている鶏のようなもの。どれが丈夫かを見て、使うかどうか決める」といった強い言葉も見られました。
実は、中国で公的機関が生物サンプルを採取し、国民から不安の声が上がるのは今回が初めてではありません。過去数年にわたり、学校や地域単位でDNAや血液サンプルを採取する事例が各地で報じられ、社会的関心を集めてきました。
たとえば2019年には、湖北省十堰市竹渓県の小学校が生徒のDNAを採取し、保護者の強い反発を受けました。同年、陝西省漢中市南鄭区の白家湾小学校でも「警察に協力し、生徒のDNAサンプルを積極的に提供している」と報じられています。さらに2018年には、随県政府が「Y-STR DNAデータベース構築作業方案通知」を発表し、「農村部の男性を中心に家系データベースを構築する」と明記。治安管理を目的としたDNA採取が進められていました。
また、広西チワン族自治区の貴港市や桂林市では少なくとも17校で男子生徒のDNA提供が求められました。2019年11月には江西省崇仁県教育体育局が「第七次全国人口調査および第三世代デジタル身分証の基礎調査への協力」として、男子生徒に採血を要請した事例もあります。
さらに、今年9月には内モンゴル自治区錫林浩特市で警察が男性住民の血液を一斉採取し、DNAデータベースに登録する動きが確認されました。10月には四川省平武県公安局でも同様の採血が行われました。この事に対して、公安局は、「国家DNAデータベースを充実させ、犯罪防止に役立てるため」と説明しました。ネット上では「すべての男性を潜在的犯罪者とみなしているのでは」「市民のプライバシーや人権を侵害している」との声に加え、「臓器移植用の『供給源』を確保しているのではないか」といった衝撃的な疑念も上がっています。
こうした状況に対し、清華大学の刑法学教授・労東燕氏は「大規模なDNA採取は明らかに過剰であり、違法行為にあたる」と警鐘を鳴らしています。また、過去には中国共産党が宗教団体の信者に対し、血液型やDNA、手形・足形などを強制的に収集し、データベース化していたとの報道もあります。国際社会では、こうした資料収集が臓器移植と結びついている可能性が長年指摘されています。今回の学校での事例もその延長線上にあると見る人が少なくありません。
さらに、ここ数年、中国では未成年者の失踪事件が相次いでおり、特に、胡鑫宇事件は、社会的な注目を集めました。この背景から、「採血や、サンプル収集が、失踪や臓器売買と関連しているのでは」という恐怖が、保護者たちの間に、根深く残っています。とりわけ、医師の、羅師宇氏が中南大学湘雅二医院で、児童ドナー募集ついての疑惑に対する証拠を調査していた件に対しても、こうした疑念をさらに強めました。
このように、公的機関が「健康調査」や「教育調査」と称して、生物試料を採取しようとする現状では、保護者が不信や恐怖を抱くのは当然のことです。
今回の騒動は、一枚の同意書をきっかけに、社会の不安、過去の事例、制度と倫理の問題が複雑に絡み合って噴出したものです。私たちは、この小さな書類の背後にあるより深い構造的な問題に、改めて目を向ける必要があるのではないでしょうか。
(翻訳・吉原木子)
