かつては「美しくなること」が中間層の象徴だった中国で、今、美容医療業界が急速に冷え込んでいます。経済の減速と消費の落ち込みにより、かつて暴利を誇ったこの産業は、大手企業から街のクリニックまで苦境に陥っています。投資資金の撤退、規制の強化、そして中間層女性の節約志向が重なり、ブームの終焉が現実のものとなっています。

美容医療ブームの終焉 「暴利神話」が崩壊

 中国の経済メディア「塩財経」が10月27日に報じたところによると、美容医療産業はここ10年間、中国で最も注目を集めた投資分野の一つでした。ヒアルロン酸注射やボトックス、スキンケア管理やプチ整形などの分野では、美容医療クリニックが雨後の筍のように次々と登場しました。主な顧客層は中間層の女性で、「中国の美容医療を支える半分の力」とまで呼ばれた時期もありました。

 当時、業界からは多くのスター企業が誕生しました。その中でも「愛美客(アイメイカー)」は2021年に株価収益率が300倍を超え、「暴利の象徴」として注目を集めていました。しかし、わずか4年後の今、その熱狂は完全に冷めています。

 2025年10月時点で、愛美客の時価総額は約1兆円(500億元)にまで落ち込み、ピーク時から約2兆6000億円(1200億元)が消失しました。2025年上半期の純利益は前年同期比で30%減、特別損益を除いた純利益は34%減となり、上場以来初めて半期ベースでのマイナス成長を記録しました。主力の溶液系・ゲル系注射製品の売上はいずれも2割以上減少しています。

必需品から「なくてもいいもの」へ

 かつて美容医療は、都市部のホワイトカラーや専業主婦にとって「儀式的な支出」とも言えるものでした。祝日の前には水光注射を、年の半ばにはヒアルロン酸の追加注射を打つことが、「きちんとした生活」を維持する手段だったのです。

 しかし、経済の停滞と所得の減少が進むなかで、こうした消費習慣は急速に崩れつつあります。

 上海で働く35歳の張さんは、かつて愛美客のヒアルロン酸注射を愛用していました。彼女はこう語ります。「以前は年に2〜3回は注射を受けていた。自分への投資だ。でもこの2年で会社のボーナスが減り、住宅ローンの負担も重くなった。今では、もうそこまでして打つ必要はないと感じている」

 北京の美容医療クリニックの院長によれば、2023年までは毎月300人ほどの新規客がいたものの、現在は100人余りにまで減少したといいます。「昔から通っていたお客さんの中には、『今年は洗顔と保湿だけで十分、注射はやめる』という人も増えた」

 母親向けブロガーの「Rich幸運妹寶」もSNS上でこう投稿しました。「美容医療は選択的な消費なんだ。経済が苦しくなると、真っ先に削られる。2025年に美容医療への支出を維持または増やすと答えた人は、2024年より明らかに減っている」

 この背景には、中間層の消費意識の変化があります。すなわち「外見への投資」から「理性的な損切り」へと変化しています。多くの人が美容医療の必要性を見直し、より安価なスキンケアに切り替え、あえて「すっぴんで自信を持つ」という選択をするようになっています。

クリニック倒産と価格競争の拡大

 ブロガーの「謙哥美業圈」は10月初旬に投稿した動画でこう話しています。「今日1日で何軒の美容院が閉店しているか知っているか?1000軒を超えている。今年上半期だけで全国で閉鎖された美容関連店舗は180万軒を超えた。新しく店を開く経営者なんて、命懸けの賭けだよ。このデータがどれほど悲惨か見てください。今年上半期、美容業界全体の閉店率は38%。そのうち美容院が30万軒以上、美容医療機関は5000軒以上が廃業。三線・四線都市のネイル・美容サロンに至っては閉店率が45%に達している。その裏には、どれだけ多くの家庭の夢が崩れたことか」

 広東省佛山市では、中規模の美容医療チェーン店が「スキンケア+マッサージ」の複合店へと業態転換しました。店長はこう語ります。「以前はヒアルロン酸1本で約8万円(4000元)も取れていたが、今ではネットで約2万円(1000元)で買えてしまう。価格が透明になって、もう暴利は得られない。だから私たちはサービスの質で勝負するしかない」

 競争の激化で、業界全体に価格競争が広がっています。あるオンラインプラットフォームでは、「小顔注射」や「コラーゲン注入」などの施術価格が2021年比で40%以上下落しているといいます。客を呼び込むために、多くのクリニックが「体験価格2990円(199元)」「注射でパックプレゼント」などのキャンペーンを打ち出していますが、それでも客足は戻っていません。

資本の撤退と規制強化の波

 かつて美容医療業界に殺到したベンチャー資金が、今や急速に引き揚げられています。企業情報サイト「天眼査(ティエンイェンチャー)」の統計によると、2024年に中国で登記抹消された美容医療関連企業は1万1000社を超え、前年より35%増加しました。複数の投資機関関係者も「業界のリターンサイクルが長すぎるうえ、リスクが高すぎる」と打ち明け、資本の熱気はすっかり冷めています。

 同時に、監督当局の取り締まり強化でグレーゾーンの事業が次々と一掃されています。2025年以降、各地の市場監管部門は違法な美容医療機関を数千件摘発しました。江蘇省無錫市では、ある美容店が偽造輸入ヒアルロン酸を使用していたことが発覚し、河南省鄭州では粗悪な注射剤を使われた消費者が顔面壊死を起こした事件が報じられ、社会的な注目を集めました。

 中国国家薬品監督管理局は今年6月、美容医療は医療行為に該当し、免許を持つ医師が施術する必要があると改めて表明し、「美容医療の透明化整備キャンペーン」を開始しました。こうした施策は長期的には業界の健全化に資するものの、短期的には中小クリニックの経営をさらに圧迫しています。

 SNSウェイボーでは「美容医療の暴利神話崩壊」という話題が今も熱を帯びています。ネットユーザーのコメントには「買わなくなったんじゃなくて、もう買えないんだよ」「消費の落ち込みがひどすぎる。前は平気でセットメニューを頼んでいたのに、今は20円(1元)単位まで考える」といった声が並びました。

 ある美容業界関係者は動画でこう訴えています。「もう限界だ。また新たに多くの美容院が閉店した。売上は急落し、経営はボロボロ。倒産して在庫処分するしかない。お客さんにお金がなくて、店に足を運ぶ人がいない。今回の消費の落ち込みは本当に深刻だ」

 ブロガーの「美業趙芳顔(ジャオ・ファンイェン)」も今年の講演でこう語っています。「今はまさに四面楚歌だ。消費の落ち込み、情報の透明化、技術の停滞、低価格品の台頭。変化できなければ、淘汰されるのは必然だ」

 かつて「美しさを追求する」ことは、中国の中間層にとって時代を象徴するキーワードでした。しかし今や、「節約」と「理性」が新たな生活のテーマとなっています。美容医療業界の衰退は、単なるブームの終焉ではなく、中国経済の減速がもたらした必然的な結果なのです。

(翻訳・藍彧)